君と綴るうたかた

ゆあま / 著

『君と綴るうたかた』あさがおが咲く頃になっても君は隣にいるのだろうか

君と綴るうたかた』は1本の小説をきっかけに生まれた、女の子同士の恋愛が描かれた物語です。

コミック百合姫にて、ゆあま先生により描かれています。クラスを明るく照らす人気者の女の子・夏織と、人との関わりを避けてひっそりと過ごす女の子・。この2人が本作の中心人物です。

ちょっと影の差した恋愛ストーリーが魅力の本作。いずれ散ってしまう花のような儚さを秘めていました。

たとえ話として花で作品を表現しましたが、実際に物語の中で2人は花を育てると決めます。

植物を育てることがテーマのお話ではないものの、筆者にとって印象的な行動でした。その花には作品の魅力が詰まっているのではないか、と考えるほどに。

戸惑いの中で生まれた恋の物語

物語の始まり、夏織と雫が出会うきっかけとなったのは1本の小説でした。その小説は雫が執筆した、人生最初で最後の小説です。誰に見せるわけでもなく、書いた本人の手で捨てられる予定でした。

しかし捨てるのをためらってしまった雫は、不注意によって夏織に小説を見られてしまいます。見られるだけならよかったものの「ちょっと借りるねっ」と、夏織は小説を当然のように持ち帰ってしまいました。

小説の行方が気がかりで眠れなかったまま迎えた翌朝。早めに登校した雫は、教室で夏織と再び出会います。そして決して望んではいませんでしたが、満を持して、小説の感想が夏織の口から語られました。

すごいね星川さんっ!! すごい……っ

引用元:『君と綴るうたかた』第1巻より

ネガティブな感想だと身構えていた雫。見事に裏切られました。「次はどういうの書くの?」という夏織の言葉に、「小説はもう書くつもりなくて……」と答えます。

夏織は少し考えた後、またしても雫の予想を裏切る言葉を投げかけるのでした。

つき合おう 私と

引用元:『君と綴るうたかた』第1巻より

こうして自分たちの恋愛模様を小説として書いて貰うために、恋人になった2人の物語がスタートします。

あさがおが咲く頃になっても、君は隣にいるのだろうか

筆者が作中で印象に残ったのは「あさがお」でした。

恋人になって間もなく、夏織の提案であさがおを育てることに決めます。5月に種を蒔いて7月に開花期を迎える花ですが、2人が育てるのは7月に植えても問題のない種類です。

それでも花が咲くまでには1~2ヶ月。その頃に2人が恋人でいる保証はありません。

なぜなら、2人は夏休み限定の恋人だから。思い返せば不思議なことばかりでした。どうして夏織は雫の家に突然押しかけたのか、どうして接点のない雫に対して無邪気な笑顔を向けてくれるのか、そして夏織から聞かされた付き合う理由は、本心なのか。2人の関係には、あまりにわからない部分が多いのです。

2人が育てると決めた、あさがお。その花言葉は「儚い恋」という意味を含みます

作中で花言葉に言及されているシーンはなく、筆者が勝手に調べて勝手に意味を推測しているだけですが、ところどころで不安定さを感じさせる2人の関係性を表す花としてぴったりのように感じました。

あさがおの花が咲く頃に、君は隣にいるのだろうか。

不安定な繋がりに相反して、確固たる恋人という関係性。夏の終わりに、きっと明かされるであろう彼女たちの「どうして」に心が惹きつけられました。

「どうして」の答えが見つかるとき

作中に散りばめられた数多くの「どうして」には、この先にこれだけの楽しみが残されている、と期待が膨らむばかりでした。

そして筆者が最も「どうして」と気になるのは、夏織はどうして雫にこだわるのか、ということ。

考えれば考えるほど、2人の関係性に深みにハマっていくような感覚に見舞われます。彼女たちの恋愛で生まれた「どうして」の答えが見つかるとき、隣で追いかけていたいと思える作品でした。

水面に浮かぶ泡のように

君と綴るうたかた: 1【イラスト特典付】 (百合姫コミックス)
ゆあま/著