夜明けの図書館

埜納タオ

レファレンス・サービスで本と人と心をつなぐ『夜明けの図書館』

最後に図書館に行ったのはいつでしたか?

わたしは一時期ですが、図書館に通っていたことがありました。大きな図書館ではなかったので、その場で読むことができる本は限られていましたが、別の図書館から取り寄せてもらったり予約して借りることが日常になった時期が数ヶ月ありました。

本棚を見ているうちに「へえー、こんな古い資料があるのか」とか「そういえばこの本読んでみたかったんだった」とかいろんな思いがふくらんできます。

夜明けの図書館
埜納タオ

本を借りるとき、対応してくれるのが図書館司書さん。カウンター業務のほか、イベントを企画したり、地域と連携して後世に残す資料づくりに関わったり、もちろん本をきれいに保存するために整えたりと、たくさんの仕事があります。

そんな図書館司書さんが行う仕事のひとつ、「レファレンス・サービス(=図書館司書が利用者の調べもの、探しものをお手伝いすること※『夜明けの図書館』公式ホームページより)」を通じて新米図書館司書・葵ひなこが利用者の「知りたい」のお手伝いをするお話。それが、『夜明けの図書館』です。

夜明けの図書館 : 1 (ジュールコミックス)
埜納タオ/著

1話完結型。新米図書館司書が日々奮闘!

3年の就職浪人の末、暁月(あかつき)市立図書館で司書デビューすることとなった、葵ひなこ25歳。図書館には日々、さまざまな人が疑問や探しものを見つけるためにやってきます。

第1話では、おじいさんから「今はもうないが、80年前にあった郵便局舎の写真を探している」というレファレンスを受けます。地元に詳しくないひなこは悪戦苦闘し、「もし私じゃなかったら」と自分が対応したことでうまくいかないのではないか、と自身を責めてしまいます。けれど、持ち前の「知りたがり屋」の性分と、厳しくもあたたかい仲間たちによって、この難問を解決するのです。

ほかにも、「自分の影が光ったことを証明したい」というレファレンスや「あかつき橋を満月の夜に渡る時、振り返ると大切な人が消えてしまう、という都市伝説のような噂の真相を知りたい」というレファレンス、「昔、好きだった絵本を探してほしい」というレファレンスなど、利用者からの少ないヒントから精いっぱい頭と身体と心を使い、「一冊の本が利用者の人生を変えるかもしれない」という使命感で解決の糸口を見つけていきます。

まっすぐで失敗することもあるけれど、先輩たちに助けてもらいながら利用者の「知りたい」を自分ごととして調べていくひなこ。それはどれもあたたかく、心にあかりが灯るようなお話ばかりです。

1話ごとのあらすじ。『夜明けの図書館』公式ホームページより

(「ぬいぐるみのお泊まり会」の話もとってもよかった!

※『夜明けの図書館』協力者で日本図書館協会認定司書の吉田倫子さんTwitterより)

図書館で働く人たち

主人公の葵ひなこのまわりには、個性豊かな仲間がいます。

市役所の一般行政職員だけど暁月図書館の庶務経理担当として働く大野皓(あきら)。

ベテラン司書であり情報サービス担当、36歳独身の石森千洋(ちひろ)。

勤務3年目でひなこより先輩だが、年下で嘱託社員の小桜舞。


1巻では大野さんの、3巻では石森さんの、4巻では小桜さんのエピソードが描かれます。ひなこ同様にさまざまなレファレンスに対応していく3人ですが、わたしが特に好きだったのは小桜さんのエピソード。

わたしも大学生のころ、司書になることを少しだけ夢見て「図書館語学課程」を履修していました。しかし、想像以上に覚えることが多く、なりたい度合いも低く、さらにはあまりにも狭き門だということを知り、途中で諦めてしまいました。この作品を読んでいたら図書館司書のおもしろさをたくさん知ることができて、勉強に取り組む姿勢も変わっていたのかもしれません。

そんなわたしに対して当時一緒に履修していた友人は図書館で働くことをあきらめず、難関試験を乗り越え、無事採用。けれどもその雇用形態は正規職員ではありませんでした。そんな友人と同じ状況の小桜さん。4巻では彼女がどのように雇用形態の違いをとらえ、図書館の仕事に向き合っていくのかが描かれています。

働き方はさまざまといわれる昨今ですが、正規職員や正社員との違いに苦しむ人が、背中を押してもらえるエピソードです。

(日本図書館協会とのコラボポスター。

司書さんや図書館に関わる方たちからの注目度もとても高い作品です。図書館へ行ってレファレンス・サービスを受けたくなりますね!)

本に関わる人や場所の、未来のために

現在、6巻まで発売中の『夜明けの図書館』。2010年12月号より『JOURすてきな主婦たち(双葉社刊)』にて連載中です。

「刊行ペースが遅いのですが」と埜納先生が5巻のあとがきにてコメントをされていますが、それは取材をしに遠方へ行かれたり、勉強会に参加されたり、お財布の中が図書館のカードでいっぱいになるほど図書館に通われたりと、それこそ作中のひなこのように調べつくしているから。

本と人と心をつなぐレファレンス・サービス。図書館があること、そしてレファレンス・サービスがあることは、わたしたちの人生を広げてくれます

本の大切さ、図書館や書店の大切さがもっともっと広まりますように。そして、図書館司書さんたちの働き方がよりよいものになりますように。

本が好きなすべての人へ送りたい作品です。

こちらから全巻立ち読み可能です

夜明けの図書館 : 6 (ジュールコミックス)
埜納タオ/著