約30年前の作品にもかかわらずTwitterで話題になり、新作を描き下ろして再編集・出版が決まった『岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANT』。
多くのマンガ家から「天才」と呼ばれるも短編集を1冊出して活動休止してしまった岩泉舞先生に、Twitterでのバズがきっかけで作品の出版が決まった経緯について聞きました。
記事に登場する人
岩泉/舞(イワイズミ/マイ)
日本の漫画家。1989年に「ふろん」でデビューし、『週刊少年ジャンプ』で短編作品を数作発表した。1992年に刊行された『岩泉舞短編集 七つの海』が高い評価を得る。以降『月刊Vジャンプ』で作品を掲載した後、活動を休止し、”伝説の漫画家”と呼ばれるようになる。2021年、約30年ぶりの新作短編「MY LITTLE PLANET」を発表し大きな話題を呼んだ。
一度は出版を辞退するも、「読みたい!」という声が後押し
ーー今日はよろしくお願いします。今回、約30年前の作品がTwitterで話題になったことについてどう思われましたか?
「ええーっ、こんなことってあるんだ!?」という気持ちでした。
もう私のマンガなど覚えてる人はいないだろう、と時効を迎えた気持ちで油断をしていたので、虚をつかれて顔が真っ赤になりました、うれしくて。
ーー約30年ぶりに短編集を出して、どのようなお気持ちですか?
このお話をいただいた時、とても驚きました。そして「需要はあるのか!?」と、とても不安になりました。
刊行後もビクビクしていましたが、皆様の温かいお言葉や、応援してくださる書店員様からのお声が耳に届き、最近ようやく気持ちが落ち着いてきました。
ーー約30年前に作家活動を休止されたのは、どんな理由からだったのでしょうか。
家庭の事情で地元に戻らなければならなくなり、気持ちが不安定になって余計に描けなくなったため、確実に定期収入が入る仕事に切り替えました。
ーー活動を休止されてからは会社員として働かれていたそうですが、その間、創作活動は行われていたのでしょうか?
趣味で時々イラストを描く程度で、マンガは全然描いていませんでした。
主に広告のデザインの仕事をしていましたので、ちょっとしたカットを描くようなことはしていました。
ーーご経験が活きるような仕事をされていたんですね。今回、Twitterで話題になったことで『岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET』の出版が決まりましたが、その経緯を教えてください。
鬼滅の刃のアニメ観終わる。面白い。どなたか30年くらい前の少年ジャンプに描いていた岩泉舞を知らないだろうか?彼女のたとえ火の中…というとても好きだった読み切りをなんとなく思い出した。才能のある人だったが短編集一冊だけ出て終わってしまった。残念。 pic.twitter.com/mml1Cx3PUo— きたがわ翔 (@kitagawa_sho) April 6, 2020
その時Twitterをしていなかったので、きたがわ翔先生のツイートについて何も知らずにいたのですが、「マンガ図書館Z」でお世話になっている赤松健先生が、「バズってるよ」とメールでお知らせくださいました。
その後、作品集のお話を賜ったのですが、個人的な理由から載せられない未収録作品もあり、内容のほとんどが「七つの海」と同じであるならば新たに本を出す意味はないのでは…と考え、一度辞退いたしました。
しかし、赤松先生がわざわざメールを下さり、「載せられる未収録作品が少なくても、作品集を望む声は消えないようです。僕個人としても、紙の本は出しておくべきだと思います」と、肩を押してくださいました。
赤松先生の温かい励ましのお言葉、そしてきっかけをくださったきたがわ翔先生のツイートとお声を寄せてくださった皆様のご親切のおかげで、私は一歩を踏み出すことができました。
ーー『岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET 』の出版が決まり、「懐かしい!」「読みたい!」というファンの方々の声がたくさん上がっていましたが、どう思われましたか?
こんなに覚えていてくださって、そしてお声を上げて下さる方がいるんだ…!と驚き、胸がいっぱいになりました。
本来載せるつもりではなかった作品もあったのですが、見たいと言ってくださるお声の多さから、収録に踏み切った作品もあります。
ーーそうだったんですね。新作の出版が決まる以前、ご自身で創作活動の発信はされていなかったのでしょうか。
デジタルでの作画に慣れたくて、イラスト用のTwitterアカウントを持っていた時期もありましたが、ずいぶん前に消してしまいました。
私の中でマンガを描いていたことはすでに「挫折した過去」になっていました。
ーー新作『MY LITTLE PLANET』を描くにあたってのテーマについて教えてください。
©️岩泉舞 / 小学館クリエイティブ
プロット段階ではもっと短く、後味の悪い作品だったので、担当氏に「これでいきましょう」と言われた時は正直「どうしよう」と思いました。
32ページの作品にするにあたってエピソードを掘り下げ、またせっかくなので少し希望が見えるエンディングになるように構成し直しました。
主人公が二人居るんですが、一人は自分の目に見える世界が全てだと思っているのに対し、もう一人は物語冒頭から、自分を俯瞰で見つめる他者の視点を持っています。
そのことが二人の運命をどう分けるか、が見所だと思っています。
ーー久しぶりに新作を描くにあたって苦労されたことがあれば教えてください。
30年のブランクに加え、デジタルでマンガを描いたことがなかったので、枠線の引き方やフキダシの描き方など、いちいち検索しながら進めました。
また、やたら破壊シーンが多かったのも辛かったです。なるべく違う描写になるよう工夫しました。
ーー今後の作家としてのご活動の予定はありますか?
小学館クリエイティブの担当氏が今後も活動の報告をTwitter(※)にて告知してくださる運びになりました。
細々とした形になるかとは思いますが、なんらかの創作は行っていきたいと考えています。
※記事下にリンクあり。
ーー最後に、読者の方へメッセージがあれば教えてください。
30年ぶりにマンガを描いて、あらためてマンガって素晴らしいなと思いました。
でも私はその素晴らしさに全然追いつけない、と自分の力量不足を何度も思い知りました。
世の中にたくさんある素晴らしいマンガに、いつも元気づけられていた事を思い出しました。
奇跡のような機会と善意を賜った事に、心から感謝いたします。