川底幻燈

宵町めめ

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忘れたい記憶を持つ少年と、誰からも忘れられてしまう少女の物語。『川底幻燈』

遠藤正志は失踪した父親のカメラを持ち歩いていたことから、盗撮の冤罪をなすりつけられたことで心に傷を負い、不登校になってしまう。

それからの正志は、夕暮れになると毎日家を訪ねてくれる同級生の少女・スミダと会うことだけが楽しみになっていた。しかし、スミダが忘れ物をしたことがきっかけで、正志は彼女が誰の記憶にも存在しないことを知ってしまい、スミダへの不信感が芽生える。

川底幻燈
宵町めめ

問い詰められたスミダは「今ここにいる私はすべて夢、すべて幻、すべて妄想。私のことは全て忘れて」と言い不思議な力を使う。正志の頭からは泡のようにスミダの記憶が消えようとしていたが、以前にも似た経験をしたことを思い出す。それは失踪した父親が教えてくれた、秘密の場所への行き方だった。

かすかな記憶を辿りった正志は、空に魚が泳ぎ、様々な色の外灯が照らす、不思議な町「川底」に辿り着くのだったーー。

川底幻燈 (1)
宵町めめ/著

幻想的な世界で描かれる淡い恋の記憶

表紙を見ていただければ感じ取っていただけるかと思うのですが、「川底」が持つ幻想的な雰囲気が素敵です。

そして、黒髪でツインテールで元気で健気なスミダが可愛い!

幻想的な世界で描かれる相思相愛の2人の恋を見届けてくださいーーと言えればよいのですが、それだけでは終わりません。

忘れたい記憶に囚われて心に傷を負った正志と、誰からも記憶されることのない謎めいたスミダを中心に物語が進んでいく「記憶」にまつわる物語でもあります。

2人の淡い恋が描かれながらも、「記憶」という軸が1本あることで世界観もストーリーも厚くなっていて物語に引き込まれます。

自分の記憶を売ることで、忘れてしまった思い出を見せてくれる「幻燈」の存在を、忘れたい記憶と思い出したい記憶を持つ正志が知った時にどうしてしまうのか…?というのが物語の転換点になり、そこからは物語の色がガラッと変わるので、その変化も楽しんでいただきたいです。

少年少女が主人公なので、自分の力ではどうにもならないこともある、というリアリティと儚さが、切なくも良いなと感じました。

個性派揃い・スミダ一家!


2巻からはスミダが暮らす「川底」が舞台に移り、そこで彼女の家族(兄弟姉妹)が多数登場します。この面々が個性的で良い!

仲良しきょうだいかと思いきや、スミダを平手打ちにして叱るクールビューティーの姉や、「川底」に嫌気が差して失踪してしまった兄など、個性的な面々が登場します。

推しは一見するとチャラチャラしているんだけど、実は良いことしかしていない三男です(4巻表紙の左側の彼)。

川底幻燈 (4)
宵町めめ/著

頑張りが報われずに損をしてそうな所も含めて好きです……。

ただし、数コマしか出ないきょうだいもおり、もっと深い所を見せてほしい!と思ってしまいます。サブキャラクターが立っている作品は、やはり良いものです。

かなり壮大な世界設定があり、現時点で最新刊となっている5巻でも世界の広がりを匂わせる設定がいくつかあるので続きが読みたい…!という気持ちになりました。

正志とスミダが出会ったことが、お互いの記憶にどう刻まれていくのか。幻想的な世界で描かれる2人の恋と記憶の結末は、ぜひ読んでお確かめください!

川底幻燈 (全5巻) Kindle版