恋は雨上がりのように

眉月じゅん著

止まない雨は無い。『恋は雨上がりのように』女子高生の切ない恋の空模様を描く

雨の日は歩きずらいし服や髪が濡れてしまい気分が落ち込むことがあります。

「止まない雨は無い」という言葉がありますが、いつ止むかもわかりません。

『恋は雨上がりのように』は、そんな人生の雨の中に立つ二人を切なく綺麗に描いた作品です。

登場人物

橘あきら:17歳の女子高生。陸上部の短距離走でエースとして抜擢されていたがアキレス腱の怪我を負い陸上を辞め、放課後はファミレス「cafeレストラン ガーデン元住吉店」でアルバイトをしている。基本的に無表情。

近藤 正己(こんどうまさみ):あきらのバイト先のファミレスの店長。45歳のバツ1で息子と定期的に会っている。キャラのモデルはゆうきまさみ先生の作品の登場人物。

あらすじ

橘あきらはバイト先のファミレスの店長・近藤に片想い中。

きっかけは過去にアキレス腱の怪我がきっかけで陸上を辞め失意に陥っていたある日、たまたま入店したファミレスでの後藤との些細なやり取りから。

ある日想いを抑えきれず近藤に告白し、交流を深めていく。

あきらの恋する様子にキュンとなる

普段あきらが無表情な分、近藤への恋心が表情や態度に表れた時のギャップが堪らなく可愛らしいんです。あきらのバイト先の先輩で大学生・加瀬の視線から見たあきらが近藤を見かけ頬が紅く染まっていく様子や、近藤からデートの日時の連絡が来て電話を切った瞬間に嬉しくて飛び跳ねたりする様子を見ているとこちらまで甘酸っぱい気持ちになります。

人間関係の丁寧な描写が読者を惹きつける

あきらと近藤の恋の話がメインですが、この作品には「実現しそうにない夢にどう向き合っていくか」というテーマもあります。

あきらは陸上で活躍する夢、近藤は小説家になるという夢がありました。

あきらはアキレス腱を怪我したことで思うように走れなくなり、その挫折感から陸上を離れます。

しかし、あきらと同様にアキレス腱を怪我しながらもリハビリをし陸上を続けている倉田みずきと別の高校で陸上を続けている幼馴染の喜屋武はるかからの言葉、そして近藤に"ある質問"をされ、ずっと胸の奥に仕舞っていた自身の陸上への想いを再確認するのです。

一方、近藤は学生時代から小説家になる夢を抱きながらも日々の生活や老い等の理由でその夢から少しずつ離れていっていました。

しかし、学生時代からの友人である人気作家・九条ちひろから、小説家になる夢への憧れを断ち切れていない様子を「未練じゃなくて執着なんだ。」と言われ、生涯小説を書き続ける決意を胸に再び原稿用紙にペンを走らせます。

近藤が一歩踏み出せたのは、ちひろの後押しがあったことは勿論ですが、一番の理由はあきらの存在でした。自分のことを好きだと言ってくれるあきらの若々しくキラキラしたエネルギー、そして陸上への情熱が再燃していこうとするあきらの姿があったからこそ、自身の夢にあきらの情熱が燃え移り、再び動き出せたのです。

登場人物達の交流が丁寧に描かれ胸に沁みるのも魅力的です。

雨が止む日を待ちながら

あきらと近藤の恋の行方がどうなるかはここで言及しませんが、ただ一つ言えるのはお互いが相手にとって傘の様な存在であるということです。

雨が続くこの頃、映画化された本作のテーマ曲である「フロントメモリー」を聴きながら読んで梅雨明けを待つのもオススメです。

見守りたい運命の行方

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