「コンタクティ」という言葉、聞いたことありますか?
森田るい先生の『我らコンタクティ』は「月刊アフタヌーン」で2017年に連載後「マンガ大賞2018」で第2位に選出された1巻完結作品。
たった1巻の物語がなぜ多くの読者を惹きつけるのか?本記事では『我らコンタクティ』の魅力の一部を紐解いていきます。
宇宙人に映画を見せたい!
コンタクティ(contactee)とは「宇宙人やUFOに接触したと主張する人」のこと。さえない会社員 椎ノ木カナエと実家の工場で働く中平かずきは小学時代の同級生。ふたりは昔公園でUFOに遭遇したコンタクティです。
ある日、仕事帰りのカナエをかずきが呼び止めたことでふたりは再会します。「小学3年生の頃に見たおもしろい映画を宇宙で上映し、公園で会った宇宙人に見せたい」という気持ちひとつでひとり黙々とロケットを作り続けていたかずきは、その思い出を唯一共有したカナエにロケットの燃焼実験をどうしても見せたかったのです。
カナエがロケットを見た最初の感想は「金になりそう」。しかしその後かずきのピュアすぎる目的を聞き、バカげた発想に笑いながらも胸を躍らせロケット開発を手伝いはじめます。
大人たちを照らすかずきの存在
作品のなかで、かずきは登場人物の闇を照らし変化のきっかけを与える役割を果たしています。
輝くことをあきらめたカナエ
小学時代クラスの中心でキラキラ輝いていたカナエの今は、社長のセクハラに辟易しながらもお金のために働き続ける日々。当時目立たない変人だったかずきのほうが夢に向かって目を輝かせています。カナエはかずきとのロケット開発を通して心に輝きを取り戻していくのです。
孤独に飲み込まれる梨穂子
工場近くでカフェを経営する梨穂子は、かずきの兄テッペイと不倫関係にあり人知れず孤独を抱えていました。「良い人」を演じ続け極限の精神状態にあった彼女は、ある日楽しそうに開発に励むかずきとカナエを見て嫉妬心を爆発させてしまいます。
かずきに「他の人が楽しそうに見えてつらいのはりほちゃんの問題」と喝を入れられた梨穂子は、その後のカナエの一言で自分はひとりじゃないと気づくのです。
梨穂子さんの問題を 解決するお手伝いなら私達もできますよ
しっかりしすぎた兄テッペイ
一方テッペイは「しっかり者の兄」として親から工場を任され、仕事にまじめでプライドが高い人物。周囲と自分自身からのプレッシャーが彼を苦しめ、他者の視線を気にせずすきなことに夢中になれるかずきを羨ましく思っていました。
ロケットに関するある出来事をきっかけに、兄弟は人生で初めて殴り合いのケンカをします。そこで兄は初めて自分の苦しみを吐露することができるのです。
意味のないワクワクに向かって
たとえくだらなくて人のためやお金にならなくてもやりたいからやる。それがどれほど難しいことか、私たちは大人になるほど実感します。お金、孤独、他者からの評価。あらゆることを知った大人は身動きが取れなくなってしまうからです。
それに対しかずきは様々なスキル・知識を身に着け一歩ずつ目的に近づいていく。そのひたむきさにカナエも梨穂子も兄も、最後にはロケット打ち上げを阻止する学者や警察官までもが心を掴まれてしまいます。
かずき 私も一緒にやってて楽しかった 全部が変わったよ ありがとう
本作では意味がないもののメタファーとして宇宙人が登場しています。子供の頃に見るような、意味もなくワクワクする夢…それに出会えた人はみな「コンタクティ」なのです。
大人になることは得ていくこと
やりたいことをできることにするために私たちは大人になるのだ!と勇気づけてくれるのが『我らコンタクティ』の大きな魅力。実現に必要なものは子供の頃より大人になってからのほうが多く手にしているはず。
大人のあなたが「誰かのためになるのか?」「利益を生むのか?」なんてことを考えずに、やりたいことに挑戦するのを応援してくれる一冊です。