整形シンデレラ

四ツ原フリコ / 著

『整形シンデレラ』両親に伝える「自分の顔が嫌い」の先にある自らの人生とは

四ツ原フリコ先生の『整形シンデレラ』は、自分の醜い顔が大嫌いだった橘凜が、宝くじで当たったことをきっかけに整形に踏み切り、自分の望む人生をスタートさせるヒューマンドラマです。

同じ名前だから比較される

橘の名前は、社内でも美人で評判の貝塚さんと同じ「凜」です。貝塚さんとは同期で名前が同じこともあり、顔や性格を比較されることも多く、橘は度々みじめな思いをしていました。

かわいい服やファッション、コスメに興味があるのに、ブスな自分には似合わないと思って諦めていた橘。そんな時に、たまたま買っていた宝くじで1191万円が当選し、橘は美容整形を行うことを決意します。

整形後に出社

会社を休んで顎の整形やエラ削りなど、数百万をかけて橘は生まれ変わります。ここから人生を始めようとずっと憧れてたブランドに足を運び、橘は人生で一番幸せだと思えるような時間を過ごしたのでした。しかし、社内では急に変わった橘の顔を揶揄するような陰口も聞こえ始め。そして何より、橘自身が整形した自分をどこか恥じていたのです。

米国の大学や機関の調査では、外見がいい人はそうでない人より生涯年収が高いという研究結果もあります。この理由として、容姿がいい人は仕事ができると思われやすいのではと言われています。それが本当だとしたら、収入は外見ですでに決定していて、本人の努力が報われることはないのでしょうか。そもそも、髪を染めたりピアスを開けたりする行為と、整形との違いはどこにあるのでしょうか。

両親との対話

ある時、橘は整形して初めて実家に帰ります。ところが両親は娘の顔が分からずに、他人だと思ってしまいます。事情を説明すると、橘の父は「親の顔も恥ずかしいと思うのか」と一喝。両親を悲しませた橘は、親を満足させるために自分は惨めでいないといけないのか、自分の人生とは何かと思い悩みます。

自分の容姿でずっと悩んできたのは確かだけど、両親からは愛されてきたのも事実。橘は自分の想いを伝えるだけではなく、相手の気持ちを聞くことの大事さにも気づいていくのでした。

容姿や性別によるハラスメント

本作では、貝塚さんの恋愛関係を詮索するようなハラスメントや、整形した橘のビフォーアフターを笑いものにするようなハラスメントが登場します。橘は屈辱的な扱いに抗いながらも、別の機会に自分が発した言葉が人を傷つけたことを知って謝罪します。完全な善人も完全な悪人もおらず、誰しもが優しいところもあれば醜いところもあることを、橘は自分自身を振り返りながら気づかされるのです。

作品を通じて橘は外見だけでなく、内面にも変化が表れますが、整形前にはなかった感情に直面していきます。芯の強い橘の、美しいだけでない繊細な心理描写が本作の魅力です。

本作のタイトルになっているシンデレラは、午前0時に魔法が解けて元の姿に戻ってしまいます。しかし、魔法がかかっている間に出会った王子様とは、元の姿で再会することができました。整形という解けない魔法がかかった橘は、整形を恥じることなく、自らの幸福をつかみ取れるのでしょうか。

乗り越える力をくれる作品

望む人生を歩むために別の困難を抱えるとしたら、自分はそれでも望む人生をスタートさせられるのか。とても考えさせられる作品です。

[まとめ買い] 整形シンデレラ【描き下ろしおまけ付き特装版】
四ツ原フリコ

第1巻の巻末には、ネットでの誹謗中傷を機に整形を体験したというyuzukaさんのコラムも。実体験も交えた心境を語られているので、こちらもぜひ単行本でチェックしてみてください!