映像研には手を出すな!

大童澄瞳

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文化庁メディア芸術祭  仙台・石巻展にて大童澄瞳先生が登壇!『映像研には手を出すな!』上映会&トークショーレポート!

文化庁メディア芸術祭」とは1997年から開催されているアート、エンターテイメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰し、受賞作品の鑑賞機会を提供する芸術の総合フェスティバルです。

▼文化庁メディア芸術祭公式サイト

今年2021年は「こちら、よろずアート観測所」と題し仙台・石巻展の開催も行われ地元を賑わせてくれました。

筆者も地元の宮城県開催ということで各会場に赴き、仙台会場のせんだいメディアテークでのマンガ部門展示の『ヘルタースケルター』『夕凪の街 桜の国』『ジョジョリオン』『機械仕掛けの愛』、石巻会場のIRORI石巻では『映像研には⼿を出すな!』『塀の中の美容室』『空⾶ぶくじら スズキスズヒロ作品集』『3⽉のライオン』『ひとりでしにたい』、石ノ森萬画館では『あの日からのマンガ』の原画や資料等を目の当たりにし、より作品への関心が深まりました。

※「石ノ森」の「ノ」正式表記は全角55%縮小下ぞろえですが、表示の都合により全角100%となっております。

展示の他にもワークショップ等様々なイベントも開かれ、今回筆者は2021年11月28日に開催された第24回文化庁メディア芸術祭アニメーション受賞作品『映像研には⼿を出すな!』の上映会&トークイベントに参加しました。

早速現地の様子をレポートしていきます!

『映像研には手を出すな!』あらすじ

アニメの世界観、設定を考えることが好きな浅草

映像研には手を出すな!

浅草と中学時代から知り合いで利益を生む行為が好きな金森

映像研には手を出すな!

芝浦高校に入学し、人気読者モデルで実はアニメーター志望の水崎と出会い、3人で「映像研(映像研究同好会)」を発足しアニメーション作りを始める物語です。

映像研には手を出すな!

トークイベント

司会進行の方による作者の大童澄瞳先生のプロフィール紹介がされた後、ご本人が登場しました。

抽選に漏れた方、気づくのに遅れ参加が出来なかった方。当日の濃厚な話に圧倒され記憶が飛んでしまった方、誰よりも自称最強の大童澄瞳先生ファンの方々に向けて、トークショーの様子をかいつまみながらも出来る限りお伝えいたします!これまで知ることの出来なかった大童澄瞳先生の新しい話題を是非お読みください。

大童先生と宮城県の意外な関係

宮城県に来るのは初めてながらも縁があるという大童先生。

仙台藩の大童信太夫という人物がいて、その大童さんが住んでいた《大童》という土地があるんです。 「セブンイレブン大童店」というのがあるので是非行ってみたいと思います。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

と話し会場を和ませて居ました。

そして大童先生の祖先が仙台の人であり、実家で仙台の名物・ずんだ餅を食べていたこともあって、『映像研には⼿を出すな!』第1話冒頭に浅草がずんだ餅を食べるシーンが描かれたそうです。

映像研には手を出すな!

大童先生と宮城の関係を聞き、より作品への親近感が深まった所で先生がマンガを描き始めたきっかけの話題へと移りました。

マンガを描き始めたきっかけ

専門学校を卒業して19歳から20歳までの2年間ずっと家で一人でアニメを制作してたんですね。 ですがアニメーションというのは約10枚位描いてやっと1秒(のシーンが作れる)というスピード感なんです。 僕の場合は枚数が多ければ多いほど良いその当時思っていたのでとにかく枚数を描こうと思ってたんですけど2年掛かっても完成しなかったんですよね。 そしてそろそろ就職のリミットも近づいてきたので、最後に何か形に出来ないかなという時に、大体6コマ描けば1ページになるマンガだったらすぐ終わっちゃうんじゃないかなと思って初めて同人誌としてマンガを描きました。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

とマンガを描いた経緯を話し、初めて描いたマンガ『ウサゴギ』について説明をしてくれました。

タイトルに『ウサギ』と書こうとしてミスタイプで『ウサゴギ』となったものをそのまんま使っただけなんですけど(笑)。SF作品ですね。 作中に“長谷川氏”というキャラが出てるんですが、『映像研には⼿を出すな!』にもちらっとだけ実は登場していたりしています。 また“UFOラーメン”という店が登場しますがこちらも何度か登場しているラーメン屋さんです。 『映像研には⼿を出すな!』のルーツは全部ここ(『ウサゴギ』本編)にありますね。 “今まで自分で描いて来た作品の世界線は時代が違うだけで全部繋がっている”と言っていた監督を一人知ってまして、その方の話を聞いて面白いSFの構造だなと思って。 なので『ウサゴギ』と『映像研には⼿を出すな!』の世界も実は繋がっているという感じでストーリーが動き出していたと言えなくもないですね。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

と『映像研には⼿を出すな!』のルーツであることを明かしました。

(ちなみに『ウサゴギ』は『月刊!スピリッツ』の2020年5月号で読むことが出来ますので、気になった方は是非読んでみて下さい!)

月刊!スピリッツ 2020年5月号(2020年3月27日発売号) [雑誌]
月刊!スピリッツ編集部/著,おかざき真里/著,田島シュウ/著,大童澄瞳/著,長尾謙一郎/著,浄土るる/著,早良朋/著,松田奈緒子/著,水谷緑/著,河合克敏/著,日向なつお/著,カレー沢薫/著,はやかわけんじ/著,和田隆志/著,稗田サ年/著,館石直進/著,よほん/著

アニメ化にあたっての感想

映像研には⼿を出すな!』がアニメ化した際の苦労も話を聞くことが出来ました。

どういう風にアニメの制作サイドに自分の意図を伝えるかというのが苦労のポイントだ、と各所のインタビューでも話していたんですが、今振り返って見るとそのインタビューを受けた数が一番の苦労でしたね(笑)。 11連続でインタビューを受けることがあったりとかして7時間ぐらい椅子に座り続けるみたいなことがあったんで。そしてそれに伴って新しい仕事が入って来たりとかもするのでそれをこなすというのが大変でした。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

という発言から、多忙で大変だった様子が伺えます。また、アニメのエンディングアニメーションを担当し、アニメーターとしてもデビューを果たしたことについて

エンドロールに自分の名前が載るというのが一番の感動だった気がします。 原作者という立場だとどうしても相手側に「原作者様」という扱われ方をしてしまうので、スタッフとして携われたのは良かったなと思います。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

とコメント。そして実際に自分が描いたマンガがプロの制作が関わっていることに対しては

申し訳なさしかないですよね。 テレビアニメーションのシリーズ12話構成で制作するには相当お金が掛かるんで。 実際にお会いした(アニメ制作会社の)サイエンスSARUのスタッフの方だけじゃなく、発注して下請けになって下さった方もいらっしゃいますし、制作進行で直接お目に掛かれなかったスタッフ等かなりの方が携わっているのでもう本当に土下座っていう感じです(笑)。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

とアニメ制作に携わる全ての方々への感謝の気持ちを述べられていました。

そして自分の絵がアニメとして動いている様子について、

僕がイメージ出来るのは僕の画力までなので、キャラクターデザインをやって下さった浅野さんとか(アニメ制作の方々に対し)本当に絵が上手いなぁという感じでしたね。 アニメーターの方っていうのはご自身の絵柄の他にも色んな絵柄に合わせて絵を描く能力があったりだとか360度どっから見ても描ける位の能力が無いと出来ないという特殊な職人なので「どういう向きに身体を捻る」だとかを色んな向きから描けなきゃいけないし、例えば人間が空を飛ぶなんて現実には無いですけどその時のポーズも描けなきゃいけないっていう様な仕事なんで、本当にもう絵が上手いんですよ。 それがやっぱり凄かったですね。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

とアニメーターの技術に対する尊敬の念を抱いていました。特にキャラクターの描き方についても

浅草氏とか原作だとふにゃふにゃな顔をしてたりするんですけど、捉えどころが無くて描きづらかったりするものを特徴を捉えて描いて下さっていて、それは凄く観察しないと描けないだろうなということは同じ絵を描く人間として分かるので「あぁ見てくれてるな」と有難かったですね。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

と絵を描く技術者としての視点で感じたそうです。

映像研には手を出すな!

更に話題は変わり、学生時代に「映画部」に所属していたエピソードについてへ。

「映画部」の思い出

高校時代は映画部に所属していた大童先生。

高校生が作れる範囲で実写の短編映画を作っていました。 映画部に携わっていた期間は結構長くて、1年生の時に一回入ってすぐ辞めて2年生から再度加入したんですけどそこから5、6年は実はやってて。 どういうことかと言うと、高校を卒業して専門学校に入った後も外部委託指導員みたいな形で映画部の生徒達に外部から指導する形で入っていたのでその制作の本数も結構多くなっていたんですよね。ラブコメ、SF、ホラー、モノクロのハードボイルドなやつも撮りました。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

と話し、映画部での思い出等を語ってくれました。

司会者からの「『映像研には⼿を出すな!』の設定は映画を作っていた時からひらめき等繋がりはあったのか」という質問に対し、

「映像を制作する人達」という点では繋がりがありますね。 あとは当時通っていた高校でいい意味で頭のおかしい連中がいっぱいいたので(笑)。 高1にして物凄い古典の量を読み漁る奴とか、どの年代のアニメの話をしても通じる奴とか、頭が滅茶苦茶切れて色んな才能を個々に持ってる人達を寄せ集めて何かを作るみたいな経験はしてきたのでそれはやはり「映像研」には生きてるかなと思います。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

と原体験が元になっていると述べていました。またマンガを描く上で背景の細かい描写について

背景が細かく描かれているマンガが僕は好きなのでそれで描いてると言うのもありますし、読者の方が生活している中で何気なく目にしている物が描かれていると空間のリアリティが増すというのがあるので、突拍子の無い話を描く分そういった部分にリアリティを持たせておくとバランスが取れるかなと思い描いてます。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

とこだわりを話してくれました。

質問コーナー

トークが終わり上映会の前には質問タイムが設けられ、参加者が大童先生へ質問することが出来ました!

▼今回の会場となった※「せんだいメディアテーク」の建物の印象について教えて欲しい

※建築家の伊東豊雄の代表作品の一つで特殊な構造の建築デザインが特徴

ビルの構造に興味を持ったのと、この建物で湾曲した面があってその部分がどうなっているのか等を見ていました。どんな物でも構造を見てしまいますね。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

▼1年前の配信で「ピッチャー(水差し)」について話していたがその魅力を教えて欲しい

僕が一番好きなピッチャーは象印のピッチャーで、それは比率がいいんですよね。 「比率」というのが僕の好きな要素の一つで、円筒形で少し丸目のフォルムがいい感じなんですよ。あとはラーメン屋に置いてる時の景色の眺めの良さですね。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

▼作品内で武器がよく登場するが描いていて楽しい武器は何か?

アサルトライフルですね。 宮崎駿監督や押井守監督が武器に詳しいという理由で僕も何か詳しくないといけないかなと思って武器のことを調べ始めたんですけど。 ある一定の武器製造とか規格に沿う形で描いているんですけど最終的にはオリジナルのカスタムになる様に描いていて。 一つの銃を描くにも色んなパーツが存在しているのでその辺の組み合わせとか重心の長さとかも含めて実際に存在している銃のシルエットになってるけど総合的な組み合わせはオリジナルだなと伝わる様に描いています。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

▼作中に藤本先生という顧問が登場しキャラの濃い浅草達の個性を見守って伸ばしているが、大童先生自身が過去に影響を受けた身近な大人はいたか?

映像研には手を出すな!

ナカザワ先生です。 映画部の顧問なんですけど、学生を下に見て「何か教えてやろう」という感じじゃなくて「まぁいいじゃないの~?」という雰囲気の人だったので学生時代を過ごしやすくしてくれる人でした。 あとは親ですかね。 基本的にやりたいことが何か新しいことに結びつかなくてもいいという考えで、今やりたいことをなるべくやれる様にと道案内してくれる親だったのでそれはすごく助かってます。 (浅草達みたいな)学生達がのびのび生活している様子を特に描きたいと思ったのはその経験があったので。 親子の間にいざこざがあるというのはあまり描かず優しい世界として描いています。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

▼ゲームを制作しようとしている所だが、ストーリーの作り方がわからない。大童先生がストーリーを考える時にこだわっていることがあるか?

自分を表現する美術的な文脈でやるんだったら何も考えず作るんですけど、そうではない場合は「誰かが読むもの・プレイするもの」として見所、やり所を設定しなければならないと思います。 ゲームであれば序盤にどの様に物語が起きて、プレイヤーを誘導するか。 マンガでいうと読者が何を求めているのか、問題が起きたらどういう風に解決するのかというどういう表現で物語を転がしていくか要所要所を決めながらストーリー作りを進めていきますね。

引用元:大童澄瞳先生によるトークイベントでのコメント

とコアな質問から作品に関わる質問等の幅広い質問に答えて頂きました。

上映会

質問コーナー後は2020年にNHKにてテレビアニメ化された同作品の第1話を大童先生のトークと共に視聴しました。

原作での第1話は高校からスタートしていますが、元々はアニメ第1話の様に幼少期の浅草が芝浜に引っ越して来たシーン(原作でいうと第6にあたる話エピソード)を描こうとした際に担当編集者から「そのシーンはマンガという媒体ではキャッチーさが足りない。読者はキャラクターを認識してから読み始めないとついていけなくなってしまう。」とアドバイスを受け後の方に描かれることになったそうです。

アニメの第1話が元々の引っ越しシーンからスタートしたことに対し「アニメの制作の方々に伝わっていたようで嬉しかった」と述べていました。

映像研には手を出すな!

浅草が階段を駆け上がるシーンに差し掛かった際は「きちんと予備動作(次の動作に入る前の動き)が描かれてる!」とアニメーター目線での感動していたり、始終「浅草氏が可愛い」と呟いていた大童先生の姿が印象的でした。

更に各所で細かい大童先生の解説入りで視聴するという何とも贅沢な上映会となりました。

解説を聞いたことで改めて全話様々なシーンに注目しながら見返したくなります!

▼アニメ「映像研には手を出すな!」公式サイト

http://eizouken-anime.com/

映像研に手を出すべし!

会場では公式グッズになっている浅草愛用のウサギのぬいぐるみを手にした子供達や、

映像研には手を出すな!

金森の使用するリュックや浅草達のイラストがプリントされたパーカーを身に付けるファン達も居たりしてそこから「映像研愛」が垣間見え、皆とても楽しく過ごした様子でした。

イベントで改めて『映像研には⼿を出すな!』の魅力を再認識された方や、まだマンガ・アニメの一方のコンテンツしか触れていない方はこの機会に両コンテンツを観て違いを楽しんでみてはいかがでしょうか?

映像研には手を出すな!
大童澄瞳/著

OGP及び記事内の画像は主催者許諾の上、筆者が「映像研には手を出すな!」上映会&トークイベントにて撮影しものです。