「人生最後の日に何食べたい?」
こんな会話、人生で一度くらい経験があるのではないでしょうか?
マンガ『最後のレストラン』ではその話題をテーマにし、食事を通して「死」と「生」について描いています。
「最高」ではなく「最後」のおもてなし
ホテルを舞台にしたマンガ『コンシェルジュ』シリーズでホスピタリティについて描いてきた藤栄道彦先生の次の舞台はレストラン。
今までは生きているお客様への最高のおもてなしをテーマにしていたのに対し、本作では死を遂げる直前の歴史上の人物達への最後のおもてなしを描きます。
第1話では本能寺の変で討ち殺される寸前の織田信長が逃げようとして襖を開けると、園場凌(そのばしのぐ)という「その場凌ぎ」みたいな何とも頼りなさそうな名前で気弱なオーナーシェフが経営するレストラン「ヘブンズドア」へとやって来ました。
そこで織田信長は誰も食べたことがない空前絶後の料理を出せと無茶なオーダーをしてきます。
それに対し凌は信長に料理を手伝って貰い、天下無二の貴方が作った料理だからこれこそが空前絶後の料理だと言うと、そのとんちの様な答えに信長も納得し、料理の代金として刀を凌に渡しレストランを後にします。
歴史上の人物がヘブンズドアでの最後の食事を通し、自分の死を受け入れながら元の時代へ帰って行く。
この一話完結形式で物語は続いていきます。
信長の一件から、度々凌と女性従業員・有賀千恵と前田あたりの前に偉人達が現れ、無理難題なオーダーをしていきます。
クレオパトラ、アドルフ・ヒトラーと誰もが知る人から、日本ではあまり馴染みのないタイの英雄・ナレースワン(サンペット二世)も登場します。
特に印象的なのは、死刑執行直前で何も食べたくない自分が食べたいと思える食事を作れというマリーアントワネットに対し、父が衰弱し食事が出来ない状態で最後を迎えた過去を持つ凌が、もし誰しもが最後に食事が出来たならそのことで少しでも救われて欲しいという想いで食事を出すエピソード。
凌のこの想いが最後を迎える人々を呼び起こしているのかもしれません。
来客達が凌の料理とやり取りによって死を受け入れるのと同時に、凌も彼らとの交流で励まされたり様々なことに気付かされます。
散りばめられたパロディも魅力的
あらすじだけ読むと重い印象を抱きそうですが、実際の本編はパロディが散りばめられており時折クスリとさせ空気を和ませてくれます。
カエサルの雰囲気が江頭2:50さんの様に描かれたり…
マハトマ・ガンジーが『サザエさん』の磯野波平の様に描かれたりしています。
また、単行本の表紙やマンガの扉絵は必ず有名な画家・アルフォンス・ミュシャの絵のパロディになっているのも目を惹きつけます。
『最後のレストラン』は読みながら死生観について自分なりに考えてみたり、歴史の勉強が出来たりと多様な視点から楽しめる作品です。