束の間の一花

タダノなつ

『束の間の一花』余命宣告を受けた女子大生の束の間の恋の物語

医師から余命宣告を受けた女子大生の儚くも美しい恋模様を描いた『束の間の一花』。

作者は、女子高生と大学生カップルのほんわか日常を描いたマンガ『ゆくゆくふたり』でデビューを果たしたタダノなつ先生です。

繊細なタッチで描かれる本作はどこを切り取っても美しいコマばかり。季節を感じられる情景や物語を引き立てる雨の演出にも目を惹かれます。

今回は『束の間の一花』の切なくも美しい魅力に迫ります。

くたばり損ないの主人公と生きる希望だった先生の束の間の恋物語

主人公は大学2年生の千田原一花(せんだわらいちか)。高校2年生の頃に病気が発覚し、医師から余命2年を言い渡されます。

無事高校を卒業し、宣告された余命から1年を過ぎた頃、一花は入学した大学で生きる希望を見つけます。

それは哲学の准教授をしている萬木昭文(ゆるぎあきふみ)先生でした。

しかし萬木先生は、突然教師を退職。一花が大学2年生になると同時に学校から姿を消してしまいます。

ある時、友人との帰宅中に駅で萬木先生らしき後ろ姿を目撃する一花。夢中でその背中を追いかけると、紛れもない萬木先生本人でした。

再会を果たす2人。運命にも等しいこの出会いを逃すものかと、必死に引き止める一花。すると萬木先生の口からある衝撃的な事実を告げられます。

もう続けられなかったんだ 病気で…くたばり損ないってやつなんだ───

引用元:『束の間の一花』第1巻より

一花は、生きる希望だった先生とくたばり損ない同士として再び出会うことに。

諦めかけていた一花の恋が、再び動き出します。

悲しみと切なさを滲ます美しくも儚い雨の演出

『束の間の一花』で印象的なのが、雨のシーン。

物語を引き立てるかのような雨のシーンは、毎度心を揺さぶられます。

中でも印象深いのは台風の中、一花が萬木先生に想いを伝えるシーン。萬木先生が病に侵され、同じくたばり損ないだと知った一花は葛藤します。

不公平な世の中だ どんなに頑張っても この恋は死んでしまうのか

引用元:『束の間の一花』第1巻より

その不公平さを体現するかのように、ゴオォォと唸りをあげる風と激しい雨の描写。

どうしようもない運命を受け入れ諦めてしまうのかと思いきや、一花はさよならを告げようとする萬木先生に自分の気持ちをぶつけます。

この時の一花の目に溜まる涙と共に散らばる雨粒の融合が美しく、彼女の恋の儚さをより一層感じさせられました。

一方、想いを告げられ、雨の中立ち尽くす萬木先生。小さなコマから悲しさが滲むような表現に胸が苦しくなるほど、切なくなります。

他にも印象的な雨のシーンが多いので、読む際はぜひ注目していただきたいです。

緩やかな日常と理不尽な現実のコントラスト

本作の魅力は、ほのぼのとした日常シーンにもあります。

回想シーンや本編の間に挟まる間話に、一花と萬木先生の何気ない日常が描かれており、2人の息の合った掛け合いがくすっと笑えるんです。

前作『ゆくゆくふたり』でもカップルの日常を描き、読者に癒しを与えてくださったタダノなつ先生。なんでもない日常を魅力的に切り取る先生ならではの表現が、本作でも堪能できます。

また一花の回想シーンがほとんど萬木先生にまつわることなのも、彼女にとっての萬木先生の存在の大きさを感じられますし、過去を知ることでより2人の恋を応援したくなります。

ほっこり笑える2人の日常と、容赦なく襲い掛かってくる理不尽な現実。この2つのコントラストが絶妙で、物語にどんどん惹き込まれていきます。

どうか2人の日常がいつまでも続きますように…!

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本作の連載終了後の感想や先生の日常マンガなどがたくさん詰め込まれています。作品をより深く楽しみたい方はぜひチェックしてみてください!

どこを切り取っても美しい『束の間の一花』。終わりがあるからこそ、美しく見えてくるものもあるのだと改めて感させられました。

定められた運命を目の前にして、一花と萬木先生はどのように向き合い生きていくのか。ぜひ彼らの生きざまを目に焼き付けてください。

「どんなに頑張ってもこの恋は死んでしまうのか」

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