『満州アヘンスクワッド』は、わずか十数年しか存在していない満州という国とその歴史を舞台に描かれる物語です。その中で、阿片をテーマに蠢く人間模様とストーリーは、一度読むと病みつきです。その依存性は、まさに阿片!
阿片密売で成り上がれ!人間の欲と狂気と絶望を描いたダークサスペンス!
気弱な青年である日方勇(ひがたいさむ)は、兵士として満州に連れて来られ戦場に赴きます。しかし、優しさが仇となり右目の視力を失ってしまい軍の食糧を作る農業義勇軍で家族ともども働くことになります。
貧しいながらも家族とつつましく暮らすなか、母親が疫病に感染してしまいます。治療には高価な薬が必要なため途方に暮れているところ、農場の奥地で阿片の原料であるケシが栽培されていることに気が付きます。そこで、病気の母を救うため阿片密売に手を染めることになるのです。
勇は、もともと持っていた化学の素養を活かし、関東軍や中国のマフィア組織「青幇(チンパン)」などが製造していた阿片よりも、純度の高い阿片を製造することに成功します。母親は薬が間に合わず死んでしまいますが、絶望に満ちた世界から家族を守るため阿片密売を続けることを決意します。
謎多き美女麗華(リーファ)と共に、人間の欲望が蠢く満州の裏社会へと足を踏み入れ阿片を武器に成り上がります!いま、おススメのダークサスペンスマンガです!
薬学的視点で読み解く「阿片の恐ろしさ」と「依存のサイクル」
阿片に含まれるアルカロイドは20種類以上と言われ、その中でも“モルヒネ”は特に中毒性の高い成分です。作中では、この“モルヒネ”の純度を高めた阿片を製造するところから物語が始まります。
阿片を摂取すると、脳内でドパミン神経系が活性化され多幸感を生じます。この多幸感は、普通の生活をしていては得られないほどの快楽で、生涯で感じうるすべての快楽を合計してもその多幸感には遠く及ばないと言います。そんな快楽の様子はマンガを読む手が一度止まってしまうほど悍ましい表情で描かれ、阿片を摂取した中毒者の豹変ぶりは本当にゾッとします。
もちろん、その多幸感が永遠に続くことはありません。一般的に、薬物は吸収されたのち、分布、代謝、排泄の過程を経て体内から消失します。阿片のような中毒物質の場合、体内から消失してしまうと地獄の禁断症状が待ち受けています。
最初は眠気に襲われ、次第に涙、汗、鼻水があふれ出てきます。その後、手足が震え倦怠感や不快感に襲われていくのです。全身がのこぎりで切られたような激痛が出現し、泣き叫び、悲鳴を上げ、のたうちまわり、痛みのあまり失神したとしても、さらにその激痛により失神から意識が戻るとさえ言われています。
作中に登場する阿片窟(あへんくつ)では、そんな中毒者の様子が思わず目を逸らしてしまうほど凄惨に描写され、当時の地獄を覘き見た感覚に陥ります。
禁断症状を消滅させるには、阿片を摂取するしかありません。阿片を摂取した時の多幸感でしか、苦しみを回避する手段がないのです。そうして、阿片を再び求める強度な欲求が生まれ、自己制御できずに再び阿片に手を染めます。阿片なしでは生きていくことができない、依存のサイクルが形成されてしまうのです。
そんな阿片漬けの描写は、実際に中毒者を目の当たりにしているような錯覚に陥るほどです。「阿片と…糞尿…体液が混ざりあった 地獄の臭気だ…!!」と表現されるコマは、見るのを拒みたくなるほどの地獄絵図であり、逆にその怖いもの見たさが我々読者の依存性を高めるのではないでしょうか。
史実とフィクションの融合が作品を盛り上げる
舞台である満州は実在した国であり、阿片の存在も史実として語られています。作中では、『南満州鉄道』や『満映』など、聞いたことのある企業の名前が使用されており、第一話冒頭の、婉容(えんよう)が阿片中毒で亡くなったというのも有名な史実です。
こうした史実は、当然過去の出来事であり、現代を生きる人にとっては体験することのできないことです。また、当たり前ですが多くの人は阿片を使用したことがありません。阿片中毒者の真実もまた、想像の範疇でしかないわけです。しかしだからこそ、我々読者の好奇心が原動力となり、作品を魅力的に感じ興味を引き付けられるのだと思います。そしてその好奇心に答え続けてくれる作品が、『満州アヘンスクワッド』なのです。
本作は、映像化も期待できると思わせる設定で、今後も展開が楽しみなマンガです。既刊数も少なく、まだまだ追いつけます。ぜひ、お手に取って下さい!!