『竜王の娘 中国幻想選』は、webアクションで連載されていた作品です。作者は鮫島圓先生。中国古典を原作にした短編集で、幼い少女に謎の生物が物語を読み聞かせる中で中華ファンタジーの数々に触れていく、という形式をとっています。
王道青春モノのような『竜王の娘』
表題にある『竜王の娘』は、本作の半分以上のボリュームを占めるメイン作。
漫画で読む唐代伝奇(李朝威「柳毅伝」より)1話1/2 pic.twitter.com/ilSUe3njvV— 中国幻想選@「竜王の娘」発売中 (@gensouPR) June 11, 2021
科挙に落ちた青年柳毅は里に帰っている途中、霧の立ち込める草原で不思議な少女と出会います。霊珠と名乗るその少女は自分を竜の娘だと言い、嫁ぎ先で囚われの身であることを伝え、柳毅は彼女の家族に助けを求めるため奔走します。
柳毅は不思議な力を持っているわけでも、特別機転がきくわけでもありません。それでも彼を物語の主人公たらしめているのは、そのまっすぐさです。「霊珠のため」という気持ちだけで竜に相対し、自分の主張を押し通す意思の強さは応援したくなります!時には自らの命をなげうって霊珠を救おうとし、自分より遥かに強大な存在の竜を説き伏せるような無謀さも併せ持っています。
そんな見ていて気持ちが良い、「超王道主人公」の柳毅と、健気に彼を信じる霊珠の二人の関係性は、中国古典、という縁遠い作品のものとはとても思えません。一気に通し読みした時の読み味は王道のボーイミーツガールであると言えます!
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古代中国は竜をどう見ていたか?
また「竜」という存在が当時どう見られていたのか、という点も本作からは読み取ることができます。霊珠の父親洞庭君を始め、登場する竜たちは湖を守る神様のような存在として描かれています。彼らは水を司るため奉られることも多いですが、その一方、暴れることで人々に多くの災害をもたらします。「竜」という存在をファンタジー世界の怪物ではなく身近な存在の守り神として扱っているのは、当時の文化を知るようで面白いです。
『竜王の娘』以外の作品においても竜を扱った短編が存在し、当時の中国で竜がどのように考えられていたのかということに想像を巡らせることもできる、というのは本作のもう一つの魅力なのではないかと思います。
その他短編もすぐ読めて面白い!
読む前は中国の古典というと時代も場所も今の自分とは異なっていて、読みづらいかも…と不安に感じていました。しかし、『竜王の娘』やそれ以外の作品からは、当時の人間の感情がストレートに伝わってきて、そんな彼らに共感しながら読み勧めていくことができました!鮫島先生の絵もかわいらしく、美しい古代中国の世界観も幻想的で、見ているだけでもどんどん引き込まれていきます!
『竜王の娘』をはじめ、人間のまっすぐな感情を描いた作品が多い本作。中国の故事に触れる機会が国語の漢文の授業で終わってしまった…という人でも、王道エンタメとして昇華された短編の数々はすごく読みやすいのでぜひ読んでほしいです!
そして2021年11月18日には、他の短編集を収録した新作『狐の掟 中国幻想選』も発売されます!
11/18発売「狐の掟」
書影が出ました。 pic.twitter.com/S5eW0Z81uQ— 中国幻想選@「竜王の娘」発売中 (@gensouPR) October 21, 2021
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