シーズン毎にトレンドに合わせた服を着こなしていくのって素敵ですよね。一方で、自分だけのために誂えられた一着をずっと着続けることにも憧れます。体形やライフスタイルの変化に合わせてお直しされ、人生に寄り添う服。
このマンガ『繕い裁つ人』(つくろいたつひと)はドラマ化された『プリンセスメゾン』の池辺葵先生による、仕立て屋 市江の物語。2015年には中谷美紀さん主演で映画化されています。
即日完売!南市江が作る服
さて、主人公の市江が作る服はどんな服でしょうか?周りの人によるコメントを集めてみました。(セリフは原文ママですが、句読点は私が追加させてもらいました。)
百貨店に勤める男性 藤井は市江の服に惚れ込み、百貨店でも扱えるよう企画しています。社内プレゼンで話したセリフはこちら。
南市江の商品を扱っているのは一店のみです。この一年は即日完売。遠方からのオーダーも増えている状態です。
市江の服にベタ惚れしている藤井はその後もこんな風に語ります。
ああ やっぱり。この人の服は善意で満ちている。
価値のわからない人にあの人の服はふさわしくないとすら思う。
彼女の服を販売しているセレクトショップのオーナー、牧さんはこう言います。
市江はデザイナーでもパタンナーでもないからな。なんか こう もっと 人と密着してるっていうか…
お店には女子高生も訪れます。女子高生曰く。
南の服は、着てるところが一番きれいだもの
仕立て屋 南市江とは?
なんだか素敵なお洋服を作るらしい南市江さん。どんな女性を思い浮かべましたか?繊細で、優しくって…なんて思いました?ここでも藤井の言葉を借りてみましょう。
「頑固じじい って感じですよ。」
市江は、人から何を言われようと自分の意見を曲げない、かたくなな人。口下手で、服と一緒にお客様の憎しみも引き受けてしまうほど不器用。彼女の母は「あれは生きにくい子だわ」ともらすほど。そんな彼女は「たった一人の方の最高の喜びだけ」を願い、先代である亡き祖母のミシンを踏み続けます。
このマンガには「恋心」も描かれているのですが、彼女が思い人の採寸をするときには何とも言えない雰囲気が漂います。(シンプルな背景なのに!)
圧巻なのはあるページで描かれた彼女の背中。「男は背中で語るもの」なんてセリフを聞いたことがありますが、白黒で描かれたマンガでそれを初めて実感しました。言葉にできない思いがビンビン伝わってきます。
頑固じじい市江と仲間たち
なんとなく想像がつくと思うのですが、市江はめんどうくさくて愛すべき人。周りの人はそれを重々承知して、逆鱗に触れないようにしながら彼女を見守り、交流を深めていきます。彼女は周りの助けを借りながら、町の夫婦が一晩だけ恋人に戻る「夜会」を開いたり(もちろんドレスコードは彼女か先代が仕立てた服)、展示会を開いたりしながらちょっとずつ変わっていきます。
読んでいるうちにいつのまにか彼女を応援したくなるはず。魅力的な彼女と服にぜひ触れてみてください。
池辺葵先生の貴重なインタビュー
初キス創刊記念!池辺葵「繕い裁つ人」インタビュー