大学生や社会人になりたての頃、まずは「その世界で通用するようになる」という壁があった。それを乗り越えるため、ルールを覚えたり先人の模倣をしたりするのも大変だったはずだ。しかしそれを越えると、新しい壁が見えてくる。「自分の枠の中から出られない」というものだ。
「先輩から教わったプレゼン資料の作成方法はもう完璧に使いこなせる。でも出来上がるのは似たような資料ばかりだ」
「営業でも自社商品の知識はスラスラ出てくる。だけどいつも同じことをしゃべっている」
「新人の頃、努力すればするほど伸びた成績が伸び悩んでいる」
そう感じることもあると思う。
そんな時に読んでほしいのが『金剛寺さんは面倒臭い』という作品だ。
このマンガはきっとあなたに「枠の壊し方」のヒントを与えてくれる
ストーリーは王道、描き方は破天荒
・舞台は現代、「鬼」と呼ばれる人々のの住む地下世界と繋がってしまった世界。
・主人公は高校生。ある日、地下世界出身の鬼である後輩から交際を申し込まれる。
メインのストーリーは主人公2人のラブコメである。1人は男子高校生。地獄出身の鬼、しかし誰よりも心優しい努力家「樺山プリン」。
もう1人は女子高生。柔道インターハイ個人優勝&学業優秀、質実剛健の権化「金剛寺金剛」。
プロフィールを並べるだけで魅力的な2人が、第一話から恋に落ちる。
初々しい2人が近づいていく様はそれだけで見ていて楽しい。しかし脳内カテゴライズでこれを「ラブコメ」とジャンル分けできるのはAIくらいだろう。それほどサブ要素の主張が濃い。
とにかくもう展開のさせ方や描き方が破天荒すぎるのだ。
・それまでのストーリーと関係なく全身スーツのヒーローが現れたり
・2人が手を繋いだ瞬間に何ページにも渡って衝撃を表現したり
・本筋と全く関係ない人生がページ下で展開されたり
ともう刺激が強い。
あなたの中にある「マンガ」の概念を広げてくれることは間違いない。
破天荒さを支える緻密な計算
とは言え、ただ突飛なことをするインパクトの強い作品ではないのだ。
作中で繰り広げられる破天荒さの裏には、それによって読者が置いてきぼりにならないよう緻密な計算がなされている。
例えば全身スーツのヒーローが突然現れる回では、冒頭に「チェーホフの銃」という作劇のルールの解説がなされる。
「劇中で登場した銃は必ず発砲されなければならない」という意味のルールだが、その説明ののちに、まさにこの話の「チェーホフの銃」が登場する。
その回の後半で再登場するスーツヒーローが「鬼は許さない…」と意味深なセリフを呟くのだ。
そして物語は主人公2人の恋の進展を描く。柔道部に所属する2人は夏の合宿に参加し、その夜、川辺に2人だけで同じ時間を過ごす。
もうすでにお互いに恋仲と認識している2人は甘く静かな時を過ごすが、あるきっかけから樺山プリンくんの「鬼」の部分が暴れだす。
具体的に言うと金剛寺さんのおっぱいを触って理性が飛びそうになる…!
そしてその瞬間、スーツヒーローの登場となるのだ!
そう、スーツヒーローの登場がチェーホフの銃の発砲の役割を果たすのだ…!
読者は驚きつつも、ギリギリのところで納得してしまう。
予想通りすぎるとつまらなくなる。予想外すぎるとついていけなくなる。
そのバランスの取り方が抜群にうまい。
覚えた「枠」を壊したい時に読んでほしい
『金剛寺さんは面倒臭い』を読んで僕が強く感じたのは、「手段にとらわれちゃいけない。大事なのは”面白いものを作る”という目的だ」ということだった。
「たくさんの武器や技を手に入れ、できることも増えた」
「でもだからこそ、武器のほうに自分を合わせている気がする」
「もっと自由に、もっと新しい何かをつかみたい」
そう思った時にこの作品を読んでほしい。
あなたがもっと前に進む手助けになるだろう。