「人生で衝撃を受けた」
誰もが一度は見聞きし、口にして来たであろうこの言葉に対して
「なんてありきたりで、陳腐な言葉なんだろうか」
と、恥ずかしながらそう思っていた時期があった。
しかし実際に衝撃を受けた時、この言葉しか浮かばないのだということを身を持って知る事となる。
何かに衝撃を受けた瞬間を、貴方は覚えているだろうか?
『音楽と漫画と人』を読んだきっかけは本屋で偶然目に入ったからだ。
読了後に胸が熱くなり醒めやらない高揚感を覚えながら家路に着いたあの日の事を今も昨日の事の様に鮮明に思い出せる。
そのぐらいこの作品は人生で初めての衝撃だった。
衝撃を受けた理由
『音楽と漫画と人』とは、音楽雑誌「音楽と人」で6年間連載していた戸田誠二先生の作品。
タイトル通り「音楽」「漫画」「人」をテーマにした1話見開き2ページの読み切りの構成で、様々な人間模様を静かに丁寧に描いている。
この作品は、日常の読者自身が音楽やマンガを通して思っている事そのままを描いている様にも受け取れるし、ミュージシャンやマンガ家達が本当にそう考えているのではないかとさえ思える程、心情というものが表現されていた。
特に私が印象強く感じたのは「情けないヤツ」という1話。
ミュージシャンの男性と音楽活動から離れていく仲間達が対になって描かれた内容だ。
音楽を辞める理由は様々である。
才能、年齢、環境、そして寿命。
主人公のミュージシャンが音楽業界から引退していく仲間達を見送った後、同じく音楽活動をしてきたであろう闘病生活を送る友人を見舞いに行き差し入れに何が欲しいか尋ねる場面で、その友人は「細長いロッカーが欲しい」と言う。
「痛みがくると大声で大あばれしてしまい迷惑をかけるから発作が起きた時それに入れてもらえば身動きがとれなくなっていい」
という理由を痩せ細った体で静かに微笑みながら答える。
その言葉にショックを受けたミュージシャンがその後情けない自分と戦いながら必死に作曲する。
これ程深い話を見開きの2ページで描き切るというのは並大抵のことでは無い。まるでドキュメンタリー映像を見ているのかと錯覚してしまう程の大作だと感じ衝撃を受けたのだ。
無限の「表現」という存在理由
言葉では語り尽くせない、表現出来ない感覚や感情が存在し、もどかしい感情を抱く時がある。
きっと、言葉という枠では収まりきらないものを表現する為に音楽や絵画、そしてマンガが生まれて存在し続けているのだとこの作品を通して考えさせられた。
音楽やマンガに詳しくなくても楽しめる作風となっているので人生のBGMの様に寄り添ってくれる一冊として是非読んでみて欲しい。