オモコロからプロ漫画家が生まれる謎に迫ったら何も考えていなかった

笑える記事やマンガ、ラジオなどのコンテンツを発信するWebメディア「オモコロ」。これまでインターネットで話題になる数々の企画を生み出してきた、唯一無二の存在です。

そんなオモコロは、商業誌で活躍するプロのマンガ家をどんどん輩出しています。しかし、編集部にマンガ編集の経験者が在籍しているわけではないようです。

マンガ編集のノウハウがあるわけではないWebサイトから、なぜプロのマンガ家がどんどん生まれるのか?

その謎を探るため、アルはオモコロ編集長の原宿さん、副編集長のダ・ヴィンチ・恐山さんに話を聞いてみることにしました。

しかし、インタビューが始まると、「特に何も考えていない」「目的がないまま何となくマンガを載せている」とあまりにも適当なことばかり話す2人。

「こんな調子で大丈夫なのか?」と不安になりながらも話を掘り下げていくと、マンガ家が成長しやすいすごい仕組みと、とても誠実なメディア運営の姿勢が見えてきました。

「個人活動と商業誌の中間になるメディア」を目指している

ーー今日はお二人に、プロのマンガ家を続々と輩出しているオモコロで、これまでマンガを掲載してきた歴史をお聞きしていこうと思います。

よろしくお願いします。

オモコロ編集長 原宿さん

よろしくお願いします。

オモコロ副編集長 ダ・ヴィンチ・恐山さん

ーーまず、オモコロでマンガの掲載を始めた頃の話を教えてください。

僕がオモコロ編集長になって9年ほどですが、当時からちょっとした4コマとか、マンガと文章の中間みたいな記事とかは載っていたんですよね。本格的なマンガを初めて載せたのは、凸ノとか剛(鴻池剛)が入ってからだと思います。2011年くらいかな。

ーー「マンガを載せよう!」と意図的に増やしたわけではなかったんですか?

特に何も考えていなくて、気付いたら増えていたんですよね。編集長である僕の仕事は、とにかく記事の本数を揃えることなので、「面白い人にどんどん描いてもらおう!」と思っていたら、いつの間にかマンガの比率が多くなっていました。

ーーそうだったんですね。最初はつながりがなかったところから、どのようにマンガ家さんを探し、仕事を頼んでいかれたんですか?

最近は皆さんTwitterでマンガを投稿されているので、そこからですね。けど、最初は「面白い」と思った人に声をかけるのも何だか怖いし恥ずかしくて…。その人がすごくオモコロを憎んでいたら嫌じゃないですか。

めちゃくちゃ嫌ですね。

ーーちょっと被害妄想が入っていませんか…?

オモコロで描くことが、マンガ家の方たちの中ですごくダサい行為とされているかもしれないじゃないですか。そもそも名前がヤバいしなとか。

「”オモコロ”て!」という。

けど実際にお話ししてみると、意外に「読んでます」とか言ってもらえて。最近は「声をかけてもいいんだ」という気持ちになってきました

ーーでは、編集部の方々がTwitterでたまたま見つけた人にお願いするみたいなことが多いんでしょうか?

そうですね、Twitterには面白いものを描かれている方がたくさんいるので結構見ています。「すごいな」という作品を見つけたら、2ヶ月くらい悩んでから声をかけています

ーー結構悩みますね。

「Twitterでウケてるから声かけてきたやつ」って思われたらちょっと嫌だもんね。

だから、私がTwitterで偶然見つけて、編集部内で「この人面白いです」みたいに言って誘わせていただくことは結構ありますね。『アイテムおばあちゃん』の田島シュウさんとか。

田島さんは本当に最初から独特の作風というか、ギャグの中にも生きることへの悲哀みたいなのが入っているのがすごく好きです。

ーー今は「やわらかスピリッツ」で『田島シュウの日めくり漫言』を連載されていますね。

あと、「オモコロ杯」を始めてからは、それをきっかけに仕事をお願いするマンガ家さんも増えましたね。

ーーオモコロ杯2020では、コンビニでビスコを買いまくって店員にあだ名を付けられるか検証する記事がTwitterで話題になりましたね。

そうそう。noteに投稿された記事で、もともとはスキが2ぐらいしか付いていなかったんですが、読んでみたらめちゃくちゃ面白くて。最優秀賞に選んだら、2万以上のスキが付く異常な伸び方をしたんですよ。

いやー、あれは気持ちよかった。隠し沢を見つけた感覚ですよね。「こんなところにイワナがたくさんいた」みたいな。

まぁ、あれを僕らが発掘したと言うのは偉そうすぎますが、長年の経験から「今までにない面白さ」に気づけるみたいなところはあるのかもしれません。

ーーライターさんやマンガ家さんを見つける力がすごいんだろうなと思いました。

単にインターネットをやってる時間が、普通の人と比べて長すぎるというだけかもしれません。

本当にインターネットしかしてませんからね。

ーー見つけたマンガ家さんとお仕事を始めるときは、どのような流れで作品を描いてもらっているんですか?

正直、編集らしい編集はしていないんですよね…。やっていることにしたほうがいいかな。

ちゃんとやってます!

ーーめちゃくちゃ適当なこと言ってる…!マンガ編集の経験がある方はいらっしゃらないんですよね?

そう、いないんですよ。あ、でも恐山はマンガの原作とかやっていたことあるよね。

あまり関係ないですよ。自分で描くのと、人の作品を見るのは違いますからね。

ーー『カメントツのルポ漫画地獄』で、カメントツさんと原宿さんのやり取りを読んだんですけど、「これをマンガに描いたら面白いんじゃないか」とたくさんの企画を提案されていましたよね。「あれが、オモコロならではの編集術なのでは?」と当たりをつけていたんですが…。

まあ雑談の中で「こういうことやったら面白いかも」という話をすることもありますが、それを編集術と呼べるのであれば、呼んだほうがいいかな。うーん、編集術ですね

ーー今日のインタビュー、だんだん不安になってきました。

雑誌だったら、単行本を出して利益を出せるか見据えた上でボツが出たりすると思うんですけど、オモコロは特に目的がないまま何となくマンガを出しているだけなので、マンガ家が描いてきたものがそのまま載っちゃうんですよね。

載っちゃいますね。

ーー載っちゃうんだ!

人間、やりたいことをやるのが一番いいので。ウケたかウケないかはあくまで結果に過ぎないので、とにかく僕たちが面白いと感じるものを載せ続けられればいいかなと思ってます。

ーーどこまで本気で受け止めればいいのか、もう分からないです…。

商業誌より打席に立ちやすいのはマンガ家さんにとっても良いことかもしれません。やっぱりマンガって商業誌が中心で、その舞台に立たないと作品が広まりにくいじゃないですか。けど、個人の活動と商業の中間みたいな媒体がもっとあってもいいと思うんです。

ーーなんか良い話っぽくなってきた。

個人として投稿するよりは読まれやすく、商業誌よりも作品を出しやすい環境っていうのがあっていいんじゃないかと。「商業誌には出せないけど、面白いからいいじゃん」って作品が読めるのも、読者にとってのオモコロの魅力なのかなと。

「トガり疲れたマンガ家」からデビューしていく?

ーー実際にそこから商業誌へデビューされている作家さんが何名もいらっしゃるので、すごいですよね。

不思議だよね。

みんなすごいですよね。

本当にね。

特にギャグは、最初は実在する芸能人を爆殺したりする「商業じゃ無理だろ」というトガったギャグを描かれる方が多いんですけど、しばらく好きなように描いていただいていると、みんな自然とトガり疲れて落ち着いていく感じがあります。

ーー「トガり疲れ」って面白いですね。

何というか、トガり疲れるのを待っていたら、出世してくれるんですよね。サレンダー橋本さんも、『働かざる者たち』のTVドラマ化が決まったりしましたが、最初は『アニマルファッカー健』とか描いてましたもんね。あれ、トガりの極地ですよ

橋本さんは本当にめちゃくちゃでしたからね。今や『働かざる者たち』のようなサラリーマン神話を描いていて、すごいですよね。でも本人は最初からああいう作品を描きたいと言ってはいたんですよ。「『宮本から君へ』が一番好きなマンガだ」とよく話していて。

ーーそうだったんですね。

でも最初は、やり切る自信がなかったんだと思うんです。オモコロでマンガを出して「面白い」と言われたり、出版社から声がかかったりするうちに、「俺にもできるかもしれない」みたいに思うようになったんじゃないかな。

ウケるウケないはともかく、作品が完成さえすれば掲載されて、多くの読者からの反応が見れますからね。マンガ家さんも「こういう作品を描けば受け入れられる」と自分で分かるから、自分の描けるものと周囲に求められてるものが一致するポイントが見えてくるんじゃないかと。

たしかにね。打撃練習場みたいだな。

ーーちなみにライターやマンガ家の方々には、公開された記事のPVなどは共有されていたりするんですか。

こまめに伝えていますね。数字がすべてだとは思いませんが、やっぱり基準がないと、良いも悪いも分からないので。

ーー数多くいるオモコロ読者の方々からの反応を細かく知れるから、Twitterなどに一人で投稿し続けるより、作風の改善をしやすい。ビジネスパーソンがよく言う「PDCA」を回しやすい仕組みのおかげで、プロのマンガ家がどんどん生まれているのかもしれませんね。

それだ!PDCA!

完全にそれです

それだよね。

ーーすごい勢いで同意されている。

いやー、まさにおっしゃる通りです。全部僕がそう言ったことにしておいてください。恐山、それでいい?

いいです。

ーー(いいのかな…)

でも本当は全然違くて、放っておいても売れる人を早めに見つけて仲間ぶっているだけかもしれない。

早めに会って1、2回握手だけして「俺があのとき握手したから売れた」みたいに言い張っているだけみたいなことかも。

卵が先か、ニワトリが先か。

ーーもう悪魔の証明ですね。

でも、そもそもマンガ家って必ずしもプロにならなきゃいけないわけではないですからね。マンガを描き続けるだけの一生も、そんなにお勧めできない気持ちはあります。

ーーそれはなぜでしょう?

どんどん作品だけ描いて生きていきたい人は、もちろんプロになれるのがベストだと思いますよ。ただ、作家が飽和している現状でそれを目指すのは、どうしてもギャンブルになってしまいますからね。だから、「マンガに命をかけて」って強く言えないんですよ。

ーーなるほど…。

プロになる道を後押しするのはオモコロの役割の一つではあるんですけど、それだけじゃなく、「専業ではないけどマンガを描いてお金をもらっている」みたいな立ち位置をつくれるといいですよね。

ーーそういうスタンスからなのか、ギャグが中心ではありますが、本当に色んなタイプのマンガ家さんが生まれていますよね。

特に載せられないジャンルはないですからね。

ーーボツを出されることはあるんですか?「流石にこれは…」みたいな。

少ないながらも、あるのはあるかな。でも、公開した時点で誰かがすごく不快になるような内容でない限り、基本的には描きたいものをそのまま描いてもらっていると思います。

ーーじゃあ、やっぱりほとんどないんですね。

不快感を与えそうな作品でも、載せることはありますけどね。時間が経つとその基準も変わるから、過去の作品を読んで「よくこんな酷いの載せてたな」と思うこともあります

基本的に僕らのフィルターを通して「面白い」と思うものは全部載っちゃうので、編集というより、第一の読者として読んでいる感覚ですかね。「俺がもっと面白くしてやろう」みたいな気持ちは全くないかも。

ーー最近お話を伺った「ヤングマガジン」で編集者をされているスズキさんという方も、似たお話をされていました。担当作品を読むときは、一人の読者として楽しめるかをチェックしていると(※)。

※こちらの記事に書かれています。

そういうことですよね。僕たちの編集術と同じです。

ヤンマガの編集さんと同じだったとは…。

僕たち、いつの間にか同じところにたどり着いてしまっていました。

ちょっと言葉足らずでうまく言えなかっただけで、原宿さんもヤンマガの編集さんと同じことを言いたかったんだと思います。

ーーすごい勢いでまくし立ててきますね。

でも実際、一人の読者として、そのマンガ家さんが描きたいかつ面白くなりそうなことを一緒に見つけるお手伝いくらいしかできないんですよ。僕たちが描きたいものを描いてもらっても仕方ないし、それなら自分たちの手でつくればいいですからね。

「泥水をすすった後に描いたネコ」がウケる

ーーちなみに、オモコロ出身で人気になるマンガ家さんの共通点って何かあったりしますか?

一つあって、動物を描いた人から売れていく傾向にあるんですよね。カメントツの『こぐまのケーキ屋さん』もそうだし、剛もキューライスさんもネコを描いて売れているし。

そうそう。ただ難しいのが、いきなり動物にいくとダメなんですよ。

ーーどういうことでしょう?

1回這いつくばって泥水をすすってから、立ち上がってネコを描こう!となると良い気がするんですよね。

なるほど。たしかにそうかも。

泥水すすった後に描いたネコとそうじゃないネコって、なんかやっぱり分かりますよね。

ーー泥水すすった後に描いたネコ(笑)。

多分、何かを描き切った後に、ふと筆が走って動物のマンガを描いたときの抜け感みたいなのが良いんですよね。ウケようとして描いている動物は、なんか分かって白けちゃうんですよ。「こいつ、ウケようとしてるな」って。

つまり北斎漫画ですよね。葛飾北斎も精密なデッサンを突き詰めた先に、ふと力の抜けたスケッチを描いてウケた。

そうそう。武道と同じで、いかに力を抜くか。その技が人の心を打つんだと思います。

ーーめちゃくちゃ適当に喋っていませんか…?でも、何となく分かるような気もします。

そうそう、結構あると思うんですよ。動物じゃないけど、長イキ(長イキアキヒコ)はギャルでウケたし、次はなんだろうね。

ギャルもいきなりじゃダメだったかもしれませんね。

そうだと思います。ネギトロおじさん』とか、ドロドロしたものを出し切った後の「ギャルでも描いてみるかあ」から生まれた感じが良いですよね。

ーー同じ作者さんが描いた内容とは思えませんよね…。それにしても、やっぱりたくさんのマンガ家さんがデビューしていますよね。どんどん名前が出てくる。

すごいですよね。僕も「こんなにいたとは」と思いますよ。並べたら100人を超えるぐらいになっていて。

1回でも関わった人となると、それぐらいになっちゃいますね。いろんな人がいたなあ。

ーーマンガ家さんごとの担当編集は決まっていたりするんですか?

毎年、「担当を決めよう」と話題になるんですけど、みんな自分が誰を担当しているか忘れていくので、結局そのとき暇な人が対応するという適当な感じになってしまっています。

ーー適当だ。

でも、ものづくりって色んな人が色んな意見を言わないほうが良いと思っているので、僕も少しずつ周りに任せるようにしています。「俺はこの人の作品が好きなんだ!」と強く思っている人が、何かを言うべきだと思うので。

ーーそのマンガ家さんの才能をすごく信じている人と組んだほうが、良い作品が生まれそうですよね。

最近は恐山が中心になって、新たな風を吹き込んでくれている気がしています。お笑いと同じで、第7世代みたいな感じになってきているんじゃないかな。

SF第7世代というのもあるみたいですからね。

オモコロ第7世代の時期なのかもしれません。

ーーオモコロ第7世代!ちなみにどんなマンガ家さんがいらっしゃるんですか?

白湯白かばんさんとか、スマ見さんとか。

そうですね。あと橋本ライドンさんという方が最近入られたんですけど、すごい良い。

めちゃくちゃ良いですよね。

売れてほしいですよね。あと、ビューさんとかも。

森なつめさんとかも。

良いですよね。あとは最近描けてないけど、ナクヤムパンリエッタとか。新しい若者たちに、もうひと山もふた山もつくってほしいですね。

ーーおお、なんか良い感じに締まりそうな雰囲気になってきた。じゃあ最後に、これからオモコロをマンガ家さんにとってどういう場にしていきたいか、お二人の展望をお聞きして良いでしょうか。

プロを目指す人を出版社へもうちょっとうまく橋渡しできるといいなと思います。出版の販路を持たない分、印税で食わせるような責任は取れないので、デビューにつながる道筋があれば控えめに誘導させていただきたいなと。

作家からすれば、いずれは商業誌でやりたい人が当然多いですからね。オモコロに関わることで原稿料がもらえ、読者が増えるなら、多少は創作を続けるモチベーションになるかなと思っていて。僕たち自身が皆さんの作品をもっと読みたいから描き続けてほしいですし、そのための貢献をしていきたいです。

あとがき

最初は「この人たち、本当に何も考えていないんじゃ…」とかなり不安になりましたが、とても良いお話をたくさんお聞きすることができました。原宿さん、恐山さん、ありがとうございました!

取材を振り返れば、2人は一貫して「オモコロを伸ばすため」ではなく、「メディアに関わる一人ひとりが幸せになるため」の話をされていました。

ふざけるときは徹底的にふざけつつも、とても誠実なメディア運営をされているからこそ、声かけされたクリエイターの人たちも「オモコロでやりたい」と思うのではないか

それこそが、プロのマンガ家がどんどん輩出される理由ではないか。そんなことを考えたインタビューでした。

***

原宿

オモコロ編集長。シャウエッセンの旨さと値段の高さに慣れない日々を送る。Twitterアカウント:@haraajukku

ダ・ヴィンチ・恐山

オモコロ副編集長。公園のヒキガエルを捕まえていたら終電を逃してタクシーで帰ったことがある。Twitterアカウント:@d_v_osorezan

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