「ヤングマガジン サード」(講談社)で連載中の『踊るリスポーン』(通称「踊ポン」)。
本作は、死んでも最後に寝た場所で生き返る「リスポーン体質」の壇ノ浦調子(だんのうらちょうし)と、彼に命を救われたことで惚れてしまった山崎声(やまざきあん)が主役の学園ラブコメです。
「死因に嫉妬してしまうから」と刺殺してしまうほど調子が好きな声をはじめ、強烈な個性を持った人物たちと縁があるゆえに短命な調子は、毎話死んでは生き返ってを繰り返します。
アナーキーな世界観や斬新な設定のキャラクター、独特なセリフ回しなどがとても魅力的な作品です。
そして、『踊ポン』作者の三ヶ嶋犬太朗先生は現在(2020年6月)、なんと大学に通いながら、アシスタントなしで連載をされているのだとか。すごい。
この記事では、担当編集のヤングマガジンのスズキさんも「天才」と太鼓判を押す三ヶ嶋先生にインタビュー。スズキさんにも同席いただき、作品制作の背景を伺うと、驚きのエピソードの数々が明かされました。
記事の最後に、三ヶ嶋先生の直筆サイン色紙プレゼント企画もありますよ!
目次
- 大学に通いながら、アシスタントなしで月刊連載できる背景は?
- 中1から毎月1本、読み切りを投稿!デビューまでを振り返る
- カートゥーンのような「気軽に死ねるノリ」を大切にしている
- 「何かに物申したい気持ち」からキャラが生まれる
- キャラが勝手に動くから、ネームには迷わない
- あとがき
- 三ヶ嶋犬太朗先生の直筆サイン色紙をプレゼント!
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大学に通いながら、アシスタントなしで月刊連載できる背景は?
ーー現役大学生でありながら、『踊るリスポーン』を連載中の三ヶ嶋先生。マンガ家としての活動と学業を、いかに両立されているのでしょうか?
授業の時間割はわりと詰まっているし、レポートとかは出さなきゃいけないんですけど、まあなんとかやってます。
三ヶ嶋犬太朗先生
軽く言っているけど、マンガ編集を15年やってきて、大学に通いながら、しかも一人で描いている人は初めてです。なぜ両立できているのか、僕にもよく分かりません。三ヶ嶋さんは「異常」ですね(笑)。
ヤングマガジンのスズキさん
ーーえ、全部一人で描かれているんですか。
はい、全然ですよ。気分的にはラクに両立できてる感じです。
実は「三ヶ嶋犬太朗」は複数人による創作集団なんじゃないかと疑ってます(笑)。
ーー言葉を失っちゃいますね…。
まず、大学に通いながら連載をされる方ですら、結構珍しいですからね。
ーーお一人で制作をされているのは、なぜでしょう?
日中は大学にいるから、アシスタントさんに協力をお願いするにしても、活動時間があまり合わないじゃないですか。デジタルだけなら頼めるのかもしれませんが、アナログの作業もしているので…。
ーーだからといって、「アシスタントなしで描こう!」とはならないような…。やはり「時間が足りないのでは?」と思ってしまうのですが、大学でも授業中にマンガを描かれたりされているのでしょうか?
大学ではマンガ家だと悟られるような行動は避けています。マンガや絵に関係ある学部じゃありませんし、周囲にはマンガ家であることを秘密にしているんです。仲のいい友達はみんな、絵を描けることも知らないと思います。
ーー周囲には伏せているんですね!
マンガを描き始めた頃からずっとです。ノートとかに絵を描いていると見られちゃうかもしれないので、頭の中で考えるだけですね。だから、家にいるときだけネームや原稿をを描いています。
正体を隠しているとか、スーパーマンみたい(笑)。
ーー三ヶ嶋先生がマンガの登場人物みたいだ…。画業を秘密にされているのは、なぜでしょう?
なんだろう…。これまで仲良くなった友達がみんな、あまりマンガを読まない人たちだったからでしょうか。仲間外れにされるわけじゃないけど、あえて言うことでもないというか。
いつか自分のマンガを読んでくれていたら、そのときに初めて言おうかなと思っています。
ーーすごい、かっこいい。
かっこいい。
だから、マンガを描き始めたときから「一応、内緒にしてみようかな」が今まで続いている感じです。
ーーご友人があまりマンガを読まれないなか、三ヶ嶋先生がマンガを読まれるようになったきっかけは?
お父さんとお母さんの影響ですね。
ーーなるほど、ご両親がマンガ好きだったんですね。ちなみに、どういう作品を好んで読まれていたんですか?
一番好きで、読んだ瞬間に「これを超えるマンガはない」と思ったのは、高橋よしひろ先生の『銀牙』(『銀牙-流れ星 銀-』シリーズ)です。
犬が戦いまくる名作ね。
ーーどれも名作ばかり!ご両親の影響からか、1999年生まれの方とは思えない作品のチョイスですね。
ーー『踊ポン』にも『ジョジョ』ネタは登場しますね。D4C(※)がサラっと出てきて、すごく笑いました。
※『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』に登場するスタンド。「Dirty deeds done dirt cheap」の略で、公式の日本語訳は「いともたやすく行われるえげつない行為」。
「カタカナ乱用すりゃすぐ埋まる」と反省文に「D4C」の名前を記述する調子。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
ーー三ヶ嶋先生はInstagramのアカウントで、ファンからの質問にとても丁寧にご回答されたり、リクエストされた絵やマンガを描かれたりされていますよね。どちらも、かなり頻繁に。学業との両立だけでもかなり多忙だと思うのですが、SNSにも力を入れられていてハンパないなと…。
三ヶ嶋先生のInstagramアカウントより引用。
SNSを更新する頻度が高いのは、『踊ポン』が月刊連載なので、読者さんをすごく待たせちゃってる意識があるからです。自分が読者だったとして、作家さんに「してほしい」と思うことは、できる範囲でやりたいなって。
ーー「言うは易し行うは難し」というか、それを実践できちゃってるのがやばいです…。
三ヶ嶋さんのファンサービスは本当にすごいと思います。
読者と自分の年齢が多分近いので、「これをやると嬉しいだろうな」って想像しやすいのもありますね。
中1から毎月1本、読み切りを投稿!デビューまでを振り返る
ーーInstagramでは高校時代のイラストも投稿されていましたが、マンガはいつから描かれてるんですか?
初めてちゃんとマンガを描いたのは、たしか中1だったと思います。元々はマンガ家じゃなくて絵本作家になりたくて、小学校低学年のときから絵本を描いていました。主婦と生活社に絵本を持っていったのが最初の「持ち込み」です。
ーーなんと!
中学に入って「絵本以外も描いてみたい」と思って描いたマンガを別の出版社に持っていったら、わりと褒められたんですよ、かつて絵本を持ち込んだときより(笑)。それで「マンガのほうが向いてるんじゃないか」と思って、そっちに集中し始めた感じですね。
絵本も今と同じテイストだったの?「こんな倫理観のキャラクターが登場する絵本は出せない」って思われたんじゃない?(笑)
はは(笑)。でも絵本って、マンガよりもキャラクターやセリフが大切な感じがするじゃないですか。だから絵本をずっと描いていたことは、マンガを描く上での筋トレみたいに機能しているかもしれないですね。
なるほど、たしかに。
ーー絵本を描かれていた経験が、『踊ポン』の魅力的なキャラクターやセリフにつながっているのかもしれませね。三ヶ嶋先生が描かれた絵本がすごく気になってきました…。
僕も見たことがないです。
「マンガでいこう」と決めてからは毎月1本ずつ描いてジャンプに持ち込んで…。
ーーえぇ!毎月1本ですか…。
はい。最初の頃の作品は、今読み返すと自分でも「こんな作品に賞をあげられないよなぁ」って思う出来ですけど。
ーーというか、ペースがやばいです…。
それから中2のときに週刊少年マガジンにも持ち込みをし始めて、そこで初めて担当さんがついて、中3で受賞だったかな。
MGP(※)?
※週刊少年マガジン編集部が開催する月例賞「マガジングランプリ」。
そうですね。
ーーやばすぎる…。
「中3で受賞が若い」と思われる方もいるかもしれませんが、それまでに十数本は描いていましたからね。その後は月刊少年マガジンでデビューを目指し始めました。
ーー毎回、何ページぐらいの読み切りを描かれていたんですか?
31ページか45ページですね。ジャンプの新人賞の指定ページ数(※)なんですよ。今も癖がついていて、何も考えずにネームを切ったら31ページか45ページになります。
※2017年3月まで開催されていた「JUMPトレジャー新人漫画賞」におけるストーリー漫画の指定ページ数。現在は毎月「JUMP新世界漫画賞」が開催されていて、ストーリー漫画の指定ページ数は15~55ページです。
そういえば今月の大増ページ版のネームは45ページでしたね。
ちょっと長くしようと思うと、45ページになるんですよね。
ーーページ数の癖がつくの、面白い…。ちなみに、当時描かれた読み切りはどんな作品だったんですか?
だから、それがデビューだよね。
ーー今調べてみたら、どちらも掲載は終わっちゃってますね。残念。
いつかまた、短編集で。
ーー読みたい!思わずただのファンになっちゃいました。
楽しみにしていてください。
でも、その後はなかなか連載が決まらなかったんです。週マガ、月マガ、少年ジャンプ、ジャンプSQ.にそれぞれ担当さんがいたので、4人と同時にやり取りしていたのかな。でも、どこも上手くいかなくて。
めっちゃモテモテやん(笑)。
本当に渡り歩いてきて今って感じですね。連載が決まらなくて困っていたときに「DAYS NEO」(※)に投稿してみたら、スズキさんからスカウトメッセージをもらったんです。
※講談社と一迅社の250人以上のマンガ編集者とマッチングできるマンガ投稿サイト。編集者から作品に対してのメッセージがくるだけでなく、自分へ担当希望をした編集者の中から逆指名もできる仕組みになっています。
『大本営少女会議』(※)ね。三ヶ嶋さんの作品を見つけたときは、CDの「ジャケ買い」のような感じでした。目に留まったアルバムを何となく視聴したら、「すげー!」みたいな(笑)。
※三ヶ嶋先生のDAYS NEOへの投稿作。現在(2020年6月)はまだ公開されているので、ぜひご一読ください。スズキさんが三ヶ嶋先生に送ったラブレターのようなスカウトメッセージも、そのまま掲載されていますよ。
ーー圧倒されちゃったんですね。
当時はめちゃくちゃ忙しかったんで、担当希望をしないよう自分に縛りをかけていたんですよ。『HUNTER×HUNTER』の「制約と誓約」(※)みたいに(笑)。でも、三ヶ島先生の作品から受けた響きみたいなものが、いつまでも頭から消えなくて。思わずメッセージを送ってしまいました。
※『HUNTER×HUNTER』における「念能力」の設定の一つ。念能力の発動に際して、自ら縛りを設定して遵守することで、出力を向上させられる一方、破るとリスクを負う。スズキさんは、「メッセージは送るが、担当希望をしない」ことを自らに課し、他の業務に集中していたんですね。
ーー制約と誓約を破ってしまったスズキさんが仕事に追われる光景が思い浮かびました。
マッチング後に打ち合わせを始めて、すんなり『踊ポン』の連載が決まったんです。いきなり連載デビューが決まったので、同時に見てくれていた担当さんはみんな、びっくりしたんじゃないかな。
カートゥーンのような「気軽に死ねるノリ」を大切にしている
ーー『踊ポン』のアイデアがどのように生まれ、連載が立ち上がっていったのかお聞きしたいです。
最初は『踊ポン』の元になった『ワンダーアールド』というマンガがあったんです。『踊ポン』よりもSFチックな作品で、ネームの状態でスズキさんに見せ、そこから恋愛に寄せて練り直し、『踊るリスポーン』になっていきました。キャラクターとかの設定は何も変わっていないです。
ーー調子の「死んでも最後に寝た場所で復活する」という設定は、どういう風にできていったんでしょうか?
「死んで生き返る」系の設定は、時間も巻き戻ることが多いじゃないですか。けれど、「死んでも時間が巻き戻らなかったら面白いんじゃないか」と思ったのが最初のアイデアですね。
ーーたしかに『踊ポン』の場合は時間が巻き戻らず、「調子が死んだ」という事実が残るからこそ物語が進んでいきますよね。
調子の死因にまで嫉妬してしまう声。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
もう1個あって、「『気軽に死ねる世界観』は面白いんじゃないか」と思ったんです。カートゥーンとかって、キャラクターが死んでオチがついて、次の回から普通に生きてることがよくあるじゃないですか。そのノリが好きなんです。
気軽なノリで声に刺殺され、次のページでは生き返っている調子。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
『トムとジェリー』でも追いかけっこの末に崖から落ちたりしますよね。けれど、崖から落ちてどうなったかは全然描かれないし、次の回では当たり前のように出てくる。僕は『踊ポン』のカートゥーン的な「物語の面白さに関係ないディテールはどうでもいいじゃん」ってノリが好きですね。
フィクションだからいいじゃん、みたいな。最近、そのポップなノリが失われつつあると思うんですよ。
ーーディティールを気にしがちなのは、たしかに私もです。調子が初めて死んだとき、「調子のママはどうやって死体を処理したんだろう」とか、変に考えちゃったんですよ。「普通に死体遺棄しちゃうとやばくない?」とか。でも、そもそも「そういうの、気にしないでよくない?」と。
0歳にして初めての死を経験する調子。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
1話で声ちゃんが「野暮なこと聞かないで」って言うシーンがあるんですけど、『踊ポン』は野暮じゃないノリを目指しています。
ーーちなみにスズキさんは初めて『踊ポン』のネームが上がってきたとき、どのような感想を抱かれましたか?
当時のことはほとんど覚えていませんが、多分「おもしれー」って言っただけだと思います(笑)。今もそうですが、『踊ポン』の内容に関しては「どっちのアイデアがいいですか?」と聞かれたら答えるくらいで、ほとんど口を出さないんです。そのままでも「おもしれー」ので(笑)。
ーーギリギリを攻めたアナーキーな世界観も、『踊ポン』の魅力だと感じます。失礼かもしれませんが、キャラクターたちがあまり教育に良くなさそうな発言を連発していますよね。
三ヶ嶋先生の「女好きな男性キャラは女性に優しいことが多いけど、めちゃくちゃ男尊女卑なキャラがいてもいいじゃない」という反骨精神から生まれた嘉吉嬉(かきつよし)。『踊るリスポーン』(2)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
ーーでも、それぞれのキャラクターは読者からすごく愛されていて、実際にSNSでは「#大麻高校美術部」のハッシュタグで、たくさんのファンアートがシェアされています。
言っていることが倫理的に間違っていても、キャラクター本人の中で矛盾していなければいいと考えています。作者の考えではなく、キャラクターの一人ひとりが考えを持っているはずなので。
三ヶ嶋さんの倫理観がやばいわけではないですからね(笑)。それに、作者がキャラクターの倫理観の是非なんて考えてちゃダメなんです。「危ない表現かどうか」なんて編集者が判断することで、そこを気遣って作品が面白くなくなるぐらいなら、とりあえず一番面白いと思ったものを描いてくれればいい。
その後の対処はいくらでもできるし、こちらが何とかしますって感じ。本当に世に出せないようなキャラクターが生まれたら、きちんと話し合った上で世には出しませんし。
ーー嬉に対する調子の「そんな最低なキャラ、ボツにしろ!」ってツッコミが思い出されますが、彼はその審査を潜り抜けて登場したんですね(笑)。
「何かに物申したい気持ち」からキャラが生まれる
ーー三ヶ嶋先生がどのようにキャラクターを考案されているのか、すごく気になります。
ほとんどの場合、反骨精神というか、何かに物申したい気持ちから生まれます。たとえば声ちゃんも、既存のヤンデレ像への反発から生まれたんです。ヤンデレって、なぜかすぐに身体の関係を求めようとするイメージがあるじゃないですか。
でも、そうじゃないヤンデレがいていいと思うんです。声ちゃんはスケベな服装をしているけど、めっちゃ純情な子にしたいと思っていますね。
ーーたしかに声ちゃんはすごく純情!
調子の親友かつライバルを自称する桶狭間荒(おけはざまあらし)が登場する第3話の一幕。声は「スキって言って♡」と迫ります。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
同じように、調子くんは「もっと『陽キャ』っぽい雰囲気の主人公がいてもいいんじゃないか」って気持ちから生まれました。マンガの主人公って「コミュニケーションは苦手だけど、才能はある」みたいなキャラクターが多い気がするんです。
調子くんは気だるそうな感じではあるけど、最初から友達がいっぱいいるし、根っこにパリピっぽい部分がある。そういうキャラクターを描きたかったんですよね。
三ヶ嶋さんが特殊なのは、情報摂取源がテレビやSNSとかじゃないんですよ。Twitterで話題になっているトピックを、意外と知らなかったりする。これは僕の想像ですが、三ヶ嶋さん自信が「陽キャ」としてクラスの中心みたいなところで生きてきた人なんだろうなと。
かと思えば、誰にも知られることなく自宅でマンガを描き、『銀牙』のような名作を読み耽っていたりする。色んな世界を知っている特殊な人だからこそ、絶妙なバランス感のキャラクターを描けるんだと思っています。
リアルの友達と話していて、心の中で「もっと面白い世界を知ってるよ」と思っていることはあるかも(笑)。
ーー三ヶ嶋先生の正体が気になりすぎる…(※)。ストーリーはどのように考案されているのでしょうか?
※音声のみのリモート取材なので、筆者は三ヶ嶋先生にお会いしていないのです。
基本的にはキャラクターが勝手に動くんですけど…。たとえばキャラクター同士の関係性って、勝手にできていく感じなんですよね。描いていて自分も本当に驚くんですよ、「君たち、こういう関係になったか」みたいな。
ーーどういうことなの…。
僕は勝手に「ポピュラス型」の作家さんと呼んでいます。90年代に発売された『ポピュラス』ってゲームがあって、ユーザーは神として地形を変えたり、地震や津波を起こすことしかできなくて、勝手に人間が村とかをつくっていくのを眺めるんですよ。
多分、三ヶ嶋さんは、たとえば文化祭やクリスマスみたいなイベントだけを作品の世界にポンと発生させて、そこでキャラクターたちが取った行動を描いている感じなんですよね。
連載を1年続けてみて、「本当に君たちは勝手に進んでくれるなぁ」と思うようになりました。調子くんはほとんど毎話死ぬんですけど、「今回はどうやって死ぬのかな」と思っていたら、「あ、こういう死に方をするのか」みたいな。
この前、「こんな死に方をするなんてびっくりしました」って自分で言ってたもんね。あなたが描いたんでしょって(笑)。
ーーすごい…。
あと、「こういう関係になるのか」って思ったのは、嬉と育(いく)ちゃんですね。
師弟関係ね。
女として育てられた声の弟・山崎育(やまざきいく)は、彼を一目で男と見抜いた嬉を師匠として慕います。『踊るリスポーン』(3)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
殺子(あやこ)と祈莉(いのり)ちゃんもそうでした。読者より先に、最初にびっくりするのが自分って感じですね。
ーー実際の打ち合わせを見てみたい…。
「おもしれー」って言うだけの簡単なお仕事ですよ(笑)。編集者として「面白いだろう」と思って読まないようには気をつけていますけどね。「一人の『踊ポン』ファン」ぐらいのテンションで(笑)。
一人の読者として最新話を読んだとき、期待通りに面白くて「ありがたや」と思えるかどうかを心に問うて、可否を判断しています。
その見方ができる編集さんって、すごく貴重です。これまで会ってきた編集さんは、ほとんどの方が「面白くなるように直してあげなきゃ」という姿勢だったように思います。
自分の中で100%の完成度の作品を持っていっても、変えられちゃうんです。みんなにスズキさんのスタンスを見習ってほしいと思っています。
いやいや。いろんなやり方があるので、たまたま三ヶ嶋さんと僕の相性が良かったということです。
ーーお二人のお話を伺っていると、すごく良いコンビだなと思います(笑)。お話をお聞きする限り、作品とは関係ないところで反骨精神からキャラクターが生まれ、創造主たる三ヶ嶋先生に選ばれたキャラクターが『踊ポン』の世界に登場するイメージですが、合っていますか?
そうですね。
ーーでは、『踊ポン』の世界にキャラクターを登場させる基準はありますか?
すでにあるキャラクター同士の関係性を壊したり、読者からのヘイトを集めたりしないかどうかだと思います。どのキャラクターも読者さんに愛されてほしいと思っているので。だから、荒くんを出すときは結構悩みました。
万一、荒くんが調子くんから声ちゃんを奪うようなことにでもなれば、荒くんがヘイトを集めちゃうじゃないですか。でも荒くんは声ちゃんに特別な好意を持っていないのに声ちゃんに接近するから、みんなから変な人だと思われている。
だから声ちゃんと調子くんにくっついてほしいと思っている読者にとって、不安を与えたりヘイトを集めたりしないバランスを保ってくれています。
調子と同じ目に遭っても死なないほどに頑丈な荒は、彼のライバルとして声の奪い合いを望みますが、あくまで調子と張り合いたいだけ。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
そのうえ彼は、むしろ声ちゃんから調子くんを奪おうとするじゃないですか。だから登場させられました。
祈莉ちゃんを登場させるときも悩みましたね。調子くんだけに「神様!」ってなっていたら、声ちゃんのライバルみたいになっちゃう。けど、祈莉ちゃんは声ちゃんのことも大好きになって、二人は仲良くなりましたよね。
神を呼ぶための儀式をしていたところに調子がリスポーンし、彼を神と思い込む傅月祈莉(かしづきいのり)。その後、調子を刺殺する声を見て「神を殺せるのは神だけ」と、声のことも女神として崇めます。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
僕は祈莉ちゃん推しです。
ーー唐突な推し宣言!
キャラが勝手に動くから、ネームには迷わない
ーー『踊ポン』は途中で影が薄くなっちゃうキャラクターがいないというか、全員が三ヶ嶋先生から愛されていると伝わってきて、すごく素敵です。「キャラクターが勝手に動く」ということですが、実際にネームを描かれる際はどのような手順で描かれるのでしょうか?
プロットとかは書かず、最初からコマを割っていきますね。大体、その回の雰囲気と、必ず入れたいシーンを一つだけ決めて描いています。
お目当てのシーンにたどり着くまでキャラクターたちに勝手に動いてもらって、そのシーンを越えた後はみんなにお任せな感じです。
ーー天才っぽい表現すぎる…!
感性の人なので、つくり方とかは特に考えていないんじゃないですかね。
「お目当てのシーン」と言うと作品にとって重大なシーンだと思われるかもしれませんが、案外とりとめないやり取りが、自分の描きたいところだったりします。
ーーまさに、その回の雰囲気を左右するようなシーンというか。
そうです。
ーーあと、もう一つ気になっていたのが言葉の魅力です。一話のタイトルでもあり、声ちゃんが調子への好意を表現した「息を吸ったら 吐くから好き」というセリフをはじめ、一つひとつの言葉の力がすごいなと。
キャラクターたちのセリフも、一人ひとりが勝手にどんどん喋ったりするものなんですかね?
「息を吸ったら 吐くから好き」という声のセリフは、コミックス1巻の帯にも採用された。『踊るリスポーン』(1)より引用。©︎三ヶ嶋犬太朗 / 講談社
そうですね。だから、キャラクターのセリフに悩むみたいなことはないです。1話のあのシーンは、描きながら「声ちゃんって、こんなに調子くんのことが好きなんだな」って思っていました。
でも、キャラクターに言わせたい言葉が過激な表現すぎて使えないときは、すごく悩みますね。「こういう言葉に変えちゃうと、この子は言わないだろうなぁ」って。
ーーやばい…。キャラクターたちが勝手に動いて、ネームに悩まないとなると、執筆の作業がめちゃくちゃ早そうです。だから、学業と連載を両立できているのかもと思ったりしました。
そうだと思いますよ。
ーー新妻エイジ(※)を見つけた気分…。
※タッグを組んでマンガ家を目指す二人の青年を描いた作品『バクマン。』の作中で、主人公のライバルとして登場する天才マンガ家。
才能があるとしたら、マンガをつくったり、読者とコミュニケーションしたりすることを全部めっちゃ楽しめることだと思います。
僕の大好きな羽生善治さんと同じこと言ってるよ(笑)。
ーー無敵の才能ですね…。最後に、何か読者さんに向けてメッセージをいただけますか?
あ、読者にはすっごく感謝していて、というのも一緒に世界観をつくってくれているんですよ。質問やリクエストを送ってくださるとき、「こう声ちゃんに伝えてください」みたいに送ってくれたりするんです。
たとえばディズニーって、キャストも世界観を守ろうとするじゃないですか。それと一緒だなっていつも感動するんです。
読者と一緒に作品を楽しめている感じはすごくあるよね。
そうなんですよ、感動します。ファンアートとかもみんないっぱい描いてくれて、すごく嬉しい。
三ヶ嶋さんご本人も楽しんで描かれていますけど、とにかくファンがどう思うかを第一にされているので、すごい人だなって感じます。僕は作品の内容に貢献できていないので、なるべくファンを一人でも増やす仕事をしなきゃといつも思っています。
すごいんですよ、スズキさんは。
ーーお二人はお互いを信頼し合えている、本当に良いコンビですね。
あとがき
インタビューを終えてビデオ通話ソフトの会議室を閉じてから、しばらく呆然としてしまいました。三ヶ嶋先生のパワーに圧倒されたのだと思います。本当に新妻エイジに会った気分…。
インタビューを通して伝わってきたのは、三ヶ嶋先生が一人ひとりのキャラクターを心から愛していることです。創造したキャラクターたちをいたずらに作品に登場させることはせず、すでに他のキャラクターたちがいる世界にちゃんと馴染み、読者に愛されるか配慮した上で送り込む。
「調子くん」「声ちゃん」と、まるで実在する友人のことのようにお話しされる三ヶ嶋先生の声を聞き、そんな「善き創造主」のもとに生まれたからこそ、『踊るリスポーン』のキャラクターたちは読者の方達から強く愛されているのだろうなと思いました。
そんな『踊るリスポーン』の最新第3巻が、2020年6月19日に発売されました。
購入はこちらから。
また、6月20日から原宿表参道ビジョンで、三ヶ嶋先生が描き下ろした『踊ポン』キャラクターたちのイラストを元にしたスペシャル映像が流される予定です!
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三ヶ嶋犬太朗
1999年生まれ。月刊少年マガジンで受賞後、新しい場を求めDAYSNEOにてマッチングし、 ヤングマガジンサードで18歳で連載デビュー。
Twitter:https://twitter.com/kentaro143
Instagram:https://www.instagram.com/kentaro_831/
ヤングマガジンのスズキ
2006年講談社入社。週刊少年マガジンを経て、現在はヤングマガジン編集部と投稿サイト事業チームを兼任。DAYS NEO責任者。うさぎ飼い。喫茶店が好き。
Twitter:https://twitter.com/ym_suzuki
三ヶ嶋犬太朗先生の直筆サイン色紙をプレゼント!
コミックス3巻の発売を記念して、アルでは三ヶ嶋先生の直筆サイン色紙を抽選で1名様にプレゼントいたします。
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・注意事項はインタビュー記事をご覧ください
👇記事はこちらhttps://t.co/xtqYc0h4qR#踊るリスポーン#踊ポン3巻 pic.twitter.com/kRxOlWrS4S— アル公式@マンガだいすき (@alu_inc) June 18, 2020
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当選者には7月上旬までにダイレクトメッセージにてご連絡いたします。
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