私が選んだマンガ10作品の共通点は「新しい」。
この作品たちを読むことで、新しい価値観、感情、思考...今までの自分には持ち合わせていなかったたくさんの「新しい」をもらいました。
今回のテーマは「#読んで良かったマンガ10本 2020」です。生まれてこの方、出会い別れ出会ってきたマンガの数々から選んだこの10本、選り抜かれた作品はそのまま選者のクセ、個性、視線…色々なものを映す鏡になるのでしょう。
目次
- 『満州アヘンスクワッド』
- 『ブス界へようこそ』
- 『光のメゾン』
- 『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』
- 『adabana-徒花-』
- 『ひとりぼっちで恋をしてみた』
- 『【推しの子】』
- 『ハカセの失敗』
- 『1122』
- 『喧嘩独学』
- 2020年、私たちと一緒に走り続けた作品
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『満州アヘンスクワッド』
今年、新たに面白い!と感じたことの一つが「歴史」でした。学生時代はテストで良い点を取るために必死で歴史を情報として頭に詰め込んでいたのですが、歴史はその時代を生きた人たちが紡いだストーリーなんですよね。教科書にさらっと書かれている歴史の裏にはたくさんのドラマがあるんです。
そんな気付きを与えてくれた作品が『満州アヘンスクワッド』でした。
本作は、史実を基にしたフィクションで物語の舞台は第二次世界大戦前の満州国。戦地で右目の視力を失い、軍の食糧を作る農業義勇軍に転属した関東軍の兵士・日方勇は、農場の奥地でアヘンの原料であるケシが栽培されていることに気付きます。病気の母と妹弟を養うために勇はアヘン密造に手を染めます。自分で製造したアヘンを中華民国最大の秘密結社「青幇(チンパン)」の元へ持って行き売買を持ちかける勇でしたが、彼を待ち受けていたのは歴史では決して語られない満州国の裏の姿でした。
歴史に焦点を当てたマンガはたくさんあると思いますが、史実に基づいたフィクションマンガはとても珍しいと思います。
ウォーキングデッドのゾンビばりに恐ろしいアヘン中毒者の姿。そしてアヘン密造に手を染める勇たちと、そんな彼らを追う関東義勇軍の駆け引きや戦闘シーンは、マンガならでは疾走感で思わず引き込まれてしまいます。更にそこに加わるリアル(史実)なストーリー。
この絶妙なバランスが読み手である私を引き込んで離さないのです。
『ブス界へようこそ』
女性である私は、若い頃は「可愛い」という言葉に囚われ、大人になった今は「劣化した」の言葉に呪われ、少なからず他人からの容姿の評価に左右される人生を送ってきました。
そんな私にとって『ブス界へようこそ』はタイトルが衝撃的すぎて正直読むのを避けてきた作品でした。ですが、私がこの作品を手に取るきっかけとなった一コマがあります。
容姿を苦に自殺した主人公がたどり着いたのは「ブス界」。自分よりも綺麗な人を食べることで、今よりも綺麗な身体を手に入れることができ、ブス界で一番綺麗になった時、その綺麗になった身体で生き返ることができる...と言う容姿が原因で命を絶った主人公にとっては皮肉な世界です。
この世界で彼女は自分なりの戦い方を見つけます。それは、生前自分が得意(好き)だったことを武器にして戦うこと。そして、彼女は戦う中で更に覚醒していき、自己を肯定することでさらどんどん強くなっていくのです。
1巻を読み終える頃には、最初抱いていたタイトルへの嫌悪感は一切消えていました。それどころか、ブス界で戦う彼女の姿に大きな勇気をもらっている自分がいました。
作中で、彼女が一番最初に外見で変えたのは「姿勢」だったのですが...。それ以来私は、日常生活の中で周りの声に囚われたりして自分が見えなくなってしまった時、ブス界で戦う彼女のことを思い出しでピッと姿勢を正すのです。
『光のメゾン』
ファッションデザイナーという夢に向かって奔走する、千(セン)と燦(サン)、そして市(イチ)3人の物語を描いた『光のメゾン』。
ファッション業界という華やかな世界が舞台に、リアルな裏側や業界用語もしっかりと解説されている面ではまさに「お仕事マンガ」。ですが、この作品で注目して欲しいのは、孤高の天才・イチが、センとサンと出会うことで更なる才能を開花させる...いわば「チーム」としての一面です。
才能はあるけれどチームワークに欠けるイチ、コミュニケーション能力やプロジェクトの推進能力に長けているサン、そして底知れぬ情熱で突き進むセン。この3人の化学反応によって生まれるのはタイトル通り「光」のように輝くメゾン(ブランド)なのかもしれません。
今年はテレワークを余儀なくされ自宅で個人で黙々と仕事をする時間が増えました。ですが、彼らの姿を見ていると"「チーム」で働くことの可能性を諦めたくない"そんな強い気持ちが芽生え、新しい働き方について考えるきっかけにもなりました。
...知られざるファッション業界の用語解説や、矢島光先生ならではのアクセサリーやメイク、刺青など細部に渡り描かれているキャラクターたちのファッションの描写にも注目してください!
『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』
「天才」ってどんな人のことを指すのでしょうか。
生まれながらにして特別な能力を持っている人...?努力では到達しないようなレベルの才能を秘めた人...?
その答えは『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』にありました。
現役藝大生を妻に持つ小説家・二宮敦人先生。突然亀の彫像を作りだしたり、夜中に全身像を作るために全身白マスクを纏ったり...。とにかく奇想天外な行動で二宮敦人先生を驚かせる現役藝大生の奥様。そんなちょっぴり不思議な彼女と暮らすうちに「藝大には知られざる別世界が広がっているのでは?!」と興味をった二宮敦人先生が、秘境・東京藝術大学への潜入取材をする物語です。
二宮敦人先生の奥様が所属する彫刻科に始まり、日本画科、そして音楽学部にも潜入する本作。3巻では、今をときめくスターバンド「King Gnu」のボーカル・井口理さんの藝大時代の様子が描かれています。
その類稀なる才能で、周りからは「天才」と称され畏敬の念を抱かれることも多い藝大生。ですが、本作を読んでいると、彼ら彼女たちが「天才」たる由縁は非常にシンプルで誰の心にもある感情が原動力になっているのだと気付かされます。
『adabana-徒花-』
咲いても実を結ばない花のことを「徒花(あだばな)」と呼びます。
悲しさと同時に儚さを感じさせるこの言葉がタイトルになっている『adabana-徒花-』は、女子高生殺人鬼という衝撃的な事件の裏に隠された真相に迫るサスペンスストーリーです。
雪が積もる小さな町で、女子高生・五十嵐真子(マコ)が身体を切断された状態で発見されるという猟奇的な殺人事件が起こります。犯人として警察に自首してきたのはマコの同級生である藍川美月(ミヅキ)。ミヅキの供述から辿る2人の関係と隠された秘密...。
NON先生が描く美麗な女子高生と、その絵からは想像もできないような登場人物たちの闇。このアンバランスさがとても魅力的です。
事件の真相はもちろん"徒花"のように儚さを感じる本作から目が離せません。
『ひとりぼっちで恋をしてみた』
自分を好きになること。それは、誰かを好きになること以上に大切なことなのだと教えてくれたのが『ひとりぼっちで恋をしてみた』でした。
本作の主人公は、超ド級の天然女子・有紗。突拍子もない発言や行動で周りを困らせることは日常茶飯事。そんな自分自身と周りとのギャップに違和感を感じながらも平和な高校生活を送っていました。
ですが、有紗はその天然さゆえの行動で大好きな人を傷付けてしまいます。そんな自分自身に絶望した有紗は、これ以上大切な人を傷つけない「大人になる」ために家出をすることに...。そんな家出の旅を通して有紗が人として成長してく姿を描きます。
ひとりぼっちの有紗が恋する相手...。それはきっと大嫌いな自分自身。
不器用だけれど温かい有紗の物語に2020年とても胸を打たれました。
『【推しの子】』
推しの芸能人が結婚・妊娠する度に「推しの子に転生したい〜!」なんて言う方。よくネット上で見かけますよね。そんな全ネット民の夢を描いた作品といえば『【推しの子】』。
田舎に暮らす産婦人科医・ゴローは、活動休止中の彼の推しアイドル・星野アイの超極秘出産に立ち会うことに。ですが、出産直前に何者かに襲われゴローは命を落としてしまいます。そして再び目が覚めた時には、推しの子...「アイの子供」として生まれ変わっていました。生まれ変わったゴローは「星野愛久愛海(ほしの あくあまりん)」として、新しい人生を歩み始めます。
現在は、星野アイの死の真相を探るべくアクアと、共に転生した双子の妹・ルビーと一緒に芸能界に潜入する第二章に突入しています。
コメディ作品ですが、昨今の芸能界の誹謗中傷問題に切り込むなど社会派マンガとしての一面を持つ本作。横槍メンゴ先生の甘くてキュートな絵と、怒涛の展開で読者を引き込む赤坂アカ先生のストーリーがタッグを組んだらもう最強。本作は間違いなく2020年の推しです。
『ハカセの失敗』
自分を傷付けてきた他者を憎みながら生きてきたハカセ。復讐のために世界征服を夢見るハカセは、そのパートナーとしてクローンベイビーを生み出して育てることに。そんなハカセとクローンベイビーの日々をハカセの最期の日から辿る2人の回顧録です。
世界征服という野望のために生み出したクローンベイビー。けれど、いつの間にか子育てに奔走するハカセの姿がなんとも微笑ましくてほっこりします。
そんな心温まるコメディ要素がある一方で、心の中に小さな闇を落とすようなラストは七野ワビせん(旧・史群アル仙)先生ならではです。
ハカセにとっての失敗は何だったのか...。読了後にぜひゆっくりと考えてみてください。
『1122』
数あるマンガ作品の中でもとても印象的な最終回を迎えた本作。今年発売された最終巻を読んでからこの作品がもっと好きになりました。
本作は、不倫を容認している結婚7年目の仲良し夫婦・いちことおとやの物語。「公認不倫」と言うセンシティブなテーマを扱いながらも、結婚そして夫婦の性のあり方について切り込んだヒューマンドラマです。
以前、作者の渡部ペコ先生はインタビュー記事でこう仰っていましたが、最終話でいちことおとやが踏み出した新しい一歩は、まさにこの先生の言葉を体現したものでした。
『喧嘩独学』
Netflixの「梨泰院クラス」に日韓合同プロジェクト「Nizi Project 」...。2020年は空前の第4次韓国ブームでしたが、その勢いはマンガ界にも進出してきたように思います。
そんな2020年、私が最もハマった韓国マンガはT.Jun先生の『喧嘩独学』です。
ヘタレでいじめられっ子の主人公・志村は、ある日ひょんなことから動画配信サービスで喧嘩の様子を配信したら想像以上にバズり大金を手にすることに...。それ以来、喧嘩をコンテンツにした動画を配信して動画配信サービス界はもちろん、スクールカーストを駆け上がっていく物語です。
...いじめられっ子が頼るのは未来の猫型ロボットではなく、動画配信サービス。まさに、新時代のいじめられっ子の姿を描いています。
喧嘩を通して心身ともに成長していく志村、そしていじめられっ子の時には考えられなかった仲間たちの存在...。そんな感動的な要素もありつつ、リアリティのある動画配信サービスの裏事情も描かれているところが本作の魅力です。
2020年、私たちと一緒に走り続けた作品
今回ご紹介した10冊は偶然にも2020年中に連載を開始したり、最終話を迎えたり、連載真っ最中だったり...。まさに2020年、私たちと一緒に走り続けた作品たちでした。
来年はどんな「新しい」に出会えるのでしょうか。