マンガというものは、「層」のようになっている・・・と思っています。ここでいう、層とは、文脈や文化と言い換えてもいいかもしれません。
一つの層ができると、その層の上にさらに新しい作品が生まれていく、というイメージです。たとえば、ドラゴンボールやジョジョのあとには、それらの作品が切り開いた世界観や考え方をベースにさらに発展したバトルもののマンガが生まれるといった形です。
そして、今、ファンタジーの世界を舞台にしたマンガでも、新しい潮流が生まれています。それは「ファンタジーの世界観を、極めて解像度をあげていくことで、まるで現実の世界の話のように感じていく」というものです。
そこで、この記事では、ファンタジーの世界の設定を、リアルな観点で解きほぐしていく作品たちを紹介したいと思います。
モンスターを捕まえて食べる - ダンジョン飯
その代表作は、ダンジョン飯です。
ダンジョン飯は、とある島に「迷宮」と呼ばれるダンジョンができ、そこに数多くの冒険者が挑むという話です。主人公のライオスのその冒険者の一人ですが、冒険の途中で妹がレッド・ドラゴンに食べられてしまい、妹を救出するために、再度迷宮にチャレンジする・・・というのが大筋です。
無一文になってしまっているため、ライオスたちは、迷宮内のモンスターを食べながら、自給自足をすることにしたところ、ドワーフのセンシという人物に出会い、一緒に旅をすることになります。センシは、モンスターを調理する技術に長けており、倒したモンスターをさばき、調理し、料理の一品として出します。
干しスライムで出汁をとったり、バシリスクを薬草でローストしたり、ミミックをシンプルで塩で茹でたり・・・。
完全に剣と魔法のファンタジーの世界で、モンスターも、他のファンタジーマンガで見るようなものが多いのですが、その生態系や生物としての裏側をしっかりと描いており、その上で、それを調理するとしたらこうなるのではないか・・・というのが、まるで本物のグルメマンガのように描かれています。
あ、こういうモンスターはたしかにこう食べるとおいしそうだな・・・と感じます。モンスターをおいしそうと考えたことは、ほとんどの人はなかったのではないでしょうか。
亜人ちゃんは語りたい
亜人ちゃんは語りたいは、いわゆる「ヴァンパイア」「デュラハン」「雪女」といったような、空想上の亜人たちが、実際の日本に存在しており、珍しくはあるものの、世間にも溶け込んでいる世界観の話です。
主人公の教師の高橋は、好奇心が旺盛で、亜人の性質について詳しく考え、仮説を立てていきます。
たとえば「吸血鬼はなぜにんにくが嫌いといわれているか」や、「デュラハンの頭と身体はなぜ離れているのか」などです。
いわゆる、空想の世界でのお約束設定のようなものに、一つ一つ、論理だてて解説していくところが、この作品の魅力です。
空挺ドラゴンズ
こちらは、龍を捕まえる捕龍船のクルーたちの話です。龍は希少なので、それを捕まえる専門家たちといった感じでしょうか。
龍の油も肉も人気なので、市場で売られていきます。それを生業としているのです。
マンガのメインは龍のグルメです。たとえば、第一話では、龍の尾身のステーキが出てきます。
おいしそう!
デザートも・・・。
まるで、グルメマンガのように調理方法が出てくるのは、ダンジョン飯と同じスタイルです。
しかし、龍が中心のため、「龍に捨てるところねえな!」っていう気分にさせられます。
様々なモンスターを対象とするのではなくて、あえて巨大な龍にしぼることで、多種多様な龍の品種による違い、また地域などによっての料理の違いなども描かれているのが物語に深みを与えています。捕龍船という、狭い生活空間のでの、それぞれのキャラクターを掘り下げる話も魅力的!
ヴィーヴル洋裁店
ヴィーヴル洋裁店は、異世界とオートクチュールという珍しい組み合わせのマンガです。主人公のババ・キヌヨの祖母は、「クチュリエール シガラキ」という、一生着られるお気にいりを提供することをモットーに、オーダーメイドの服を作り続けていました。
キヌヨは、その店を継ぐことを決意します。
この作品の特異なところは、ドラゴンやセイレーンなど、幻獣たちの素材を使って、服を作る過程を細かに表現しているところです。
たとえば一話目では、ドラゴンのライダースジャケットを作ったりします。ドラゴンの革を手に入れ、皮をなめして作ろうとしますが、ドラゴン皮は繊維構造が緻密なので、オリハルコンでなめしたりします。
ファンタジーの世界にも洋服があり、誰かが洋服を作っているわけです。では、その洋服は、現代の地球と同じなのか?というと、当然、生態系が違うので全く別のはずです。じゃあ何の皮を使っているか?というと、ファンタジーの世界のモンスターだったりするわけです。
物語の中では、たとえば「天敵におそわれているセイレーンを助けて、抱っこひもを創ることで、お礼でもらったもので服を創る」や、「一角獣のケアをしてあげて、そのときに削った角で染料にする」など、「モンスターを狩って服にする」という物騒な形ではなく、共存して助け合って服を作っている・・・という点もとてもよいです。
幻獣たちを使った服を作るおもしろさと、キヌヨと幻獣たちの心温まるやり取りが魅力な作品です!
ヘテロゲニア_リンギスティコ
ヘテロゲニア_リンギスティコは、ファンタジーの世界 x 言語学、といった感じでしょうか。
どのファンタジー世界でも共通しているのが「なんだかんだ、種族を超えても言語でコミュニケーションしている」という設定です。たまに言語が通じない設定のもありますが、魔法か何かでお互いのいっていることがわかるようになったり、逆にまったく通じないので、敵同士で戦い合うのみ、という場合もあります。
しかし、実際にファンタジーの世界で、様々な知的な種別がいたらどうなるでしょうか?
音声での言語によるやり取りは、人間の耳や声帯に依存しています。しかし、犬や狼に似た種族の場合は、鼻も敏感なので、匂いでのコミュニケーションも盛んになり、音声でわざわざやり取りをしなくてもいいケースがあるでしょう。その種族ならではのボディランゲージが重要なものもあります。
種族によっては、声帯が人間と全く違うので、発音が難しい場合もあります。また、種別ごとにコミュニケーションが違うので、中間言語のように、「この種族の言葉でお互いやりあおう」みたいなケースもあります。
言語学者がそのあたりを解きほぐし、まだ解明されていない種族のコミュニケーションを学んだり、四苦八苦したりするのがとてもおもしろいです。
妖怪の飼育員さん
妖怪たちが専用の動物園にいる設定、といえばわかりやすいでしょうか。"大きな都市ならどこにでもだいたいある妖怪園"の飼育員さんの話です。
様々な生態系を持つ妖怪たちを、妖怪園で飼育しつつ、お客さんにその姿を見せるという趣旨のマンガです。
鬼や河童などのメジャーなものから、すねこすり、つるべ落としなどの、妖怪好きなら知っているものまで、幅広く出てきて、「あ、本当に妖怪がこの社会にいて、生態系が解明されてたら効果も」と思わせるリアリティがあります。
基本的に、そのまま動物園の飼育員さんが、妖怪の飼育員さんになった、という感じで、日常的なほのぼのさがあるので、動物好きの人とかでも楽しめてしまうと思います。
おわりに
ということで、「ファンタジー設定を、やたらとリアルに解像度をあげる」という系のマンガを紹介してみました。
個人的な意見ですが、大きな嘘(ファンタジー)がありつつ、その他の部分をごまかさずに徹底的にリアルに描く、というのが好きなので、今後、どんな作品が生まれていくかとても楽しみです。