一戸建ての平屋を舞台に自由人な29歳のフリーター・生田ヒロトと平屋に集う住人たちとの交流を描いた、真造圭伍先生による『ひらやすみ』。単行本1巻の発売の際は、6人もの豪華マンガ家たちから推薦コメントが寄せられた。
その中でも特に注目したいのは『女の園の星』の和山やま先生によるコメントだ。そもそも、真造圭伍先生が『ひらやすみ』1巻を刊行する際「ぜひ帯コメントを!」と真っ先に名前が上がったのが和山やま先生なのだ。
今回そんな2人への対談インタビューを実施。お互いの作品との出会いを振り返ってもらいつつ、好きなシーンや作品の魅力についても語ってもらった。
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初めましてはサイン会?!お互いの作品との出会いを語る
左:和山やま先生 / 右:真造圭伍先生
和山先生は顔出しNGということで『女の園の星』が表紙を飾った「フィール・ヤング」8月号でお顔を隠しながら記念撮影!隣は、和山先生との念願の対談インタビューにはにかみ笑顔を見せる真造圭伍先生。
ーー和山先生は真造先生のサイン会に行かれたことがあると伺いました。
『トーキョーエイリアンブラザーズ』2巻が発売された時、下北沢のヴィレッジヴァンガードで開催されたサイン会に行きました。
開催したのが2016年だから今から6年くらい前ですね!
ーー6年前ってことは、和山先生はまだデビュー前ですよね?
全然デビュー前ですね。
当時何描いたんだろ。
和山先生私物の『トーキョーエイリアンブラザーズ』サイン本
サイン会の順番は5〜6番目くらいだったんですが、サインやイラストを描きながらファンの方とお話しされていて。時間の許す限りすごく丁寧に対応されていた記憶があります。
ーーサイン会ではどんなお話をされたんですか?
当時はマンガや絵を描いていることを人にいうのが恥ずかしかったので、その辺の話は自分からできなくて...。
ちょうど真造さんの隣にいらっしゃった担当編集さんが「今の若者ってどういうことするの?」みたいな質問をしてきたので「今から渋谷に行きます!」って返しました。その後、友達と渋谷で遊ぶ約束をしていたので。
その質問は記憶にある...!でも、サインを描くのに集中しすぎて話まで気が回らなかった思い出があります(笑)
――そんなサイン会での初対面を経て、帯コメントや今回の対談の依頼がきた時はいかがでしたか?
いや、本当にめちゃくちゃ嬉しかったです!やったー!という感じです。
まさか依頼を受けて下さると思わなかったので僕も嬉しいです!
自分は『夢中さ、きみに。』が発売された時に、周りの人がSNSで「すごい面白い!」って言っていたのを目にして、和山さんの作品に興味を持ちました。
当時は近所の本屋で探しても、人気すぎて全く手に入らなくて...。ちょうど第二刷が入ってきたタイミングでやっと読めたのですが「面白い!」って感激しましたね。
――『夢中さ、きみに。』はSNSですごく話題になっていましたよね。和山さんは真造さんの作品を読むようになったきっかけは何だったんですか?
和山先生が思う、真造先生の作品の魅力
――和山さんは真造さんの作品のどこにグッときたのでしょうか?
いや、もう全部ですね!
恐縮です...(笑)
真造先生の作品は読み心地がとっても良いんですよね。
作中に登場するキャラクターたちに嫌味がないんです。悪意がないというか、気取ってないというか...。キャラクターたちが自然体だから読んでいて気持ちがいいのかなと思っています。
ーー『ひらやすみ』の帯コメントでは「ヒデキも…好きです。」と仰っていましたが、改めて、『ひらやすみ』で一番好きなキャラクターを教えてください。
もちろんヒデキが好きなんですけど(笑)でも全員好きですね。
登場人物全員好きになることってなかなかないのですが、『ひらやすみ』は本当にキャラクターもストーリーも何もかもバランスが良くて...。本当に選べないです。あと、なつみちゃんにすごく共感しながら読んでいます。
私も大学時代あまり友達がいなかったので、なつみちゃんの気持ちはすごく分かります。
僕も大学時代はサークルとかには入っていなかったので、最初はひとりでした。それからちょっとずつ友達が出来たのですが、なっちゃんのエピソードは当時の自分を思い出しながら描いています。
でも、なつみちゃんの今の状態はすごく理想的ですよね。本当に良い友達が1人いるだけでも、すごく変わりますし。
うーん、でも好きなキャラクターって言われたらやっぱりヒデキかな(笑)
ヒデキ...!実は、芸人さんだとコロコロチキチキペッパーズのナダルさんがすごく好きで。ヒデキの顔は、ナダルさんに髪の毛を付け足したイメージで描いています。
ーー和山さんは、真造さんの他作品で特に印象に残っているページやコマってありますか?
たくさんあるのですが『ノラと雑草』3巻(P115)で、しおりが初めて山田のことをお父さんと呼ぶシーンですね。
真造先生と『カラオケ行こ!』の共通点は〇〇の持ち方!?
ーー真造さんは、先ほど和山さんの『夢中さ、きみに。』を手に入れるのに苦労したというお話をされていましたが、実際に読んでみていかがでしたか?
一つひとつはなんてことない話なのですが、キャラクターの特殊性によって、ものすごく面白く読ませてくるというところが本当にすごいなと思いました。例えるなら「静かなズレ」というか。あと、なんでこんなに絵がうまいんだろうって...!
――特に印象的なシーンはありますか?
難しいです...。
自分だったらこういうふうには描けない。あと車の中のシーンも印象的です。男性の身体がかっこよく見える仕草を理解されていて...。ものすごい観察力があるんだなと思います。すごいとしか言いようがないですね。
キャラクターの仕草一つ一つがすごく丁寧なんですよね。
狂児がマグカップを上から掴むようにしてコーヒーを飲むシーンあるのですが、これがすごく良いなと思っていて。これは無意識に描いたんですか?
これは実際に自分で鏡の前でやってみて、どういう持ち方をしたらより狂児というキャラクターの男らしさが出るかを考えながら描きました。普通に持たせると女性っぽくなってしまいますし。
実は僕もこの持ち方よくするんですよ!アイスコーヒーを飲む時、狂児みたいに持って飲んでます(笑)
あと、聡実が飲んでいるジュースのストローに噛み跡があるところとか。本当に全部なんでこういう風に描けるんだろうって思います。
ーーちなみに真造さんは『女の園の星』だと誰推しですか?
やっぱり星先生ですね!
僕、俳優の加瀬亮さんが好きで。星先生に似たようなものを感じていて、もしかしたら和山さんも加瀬亮さんがお好きなのかな...と思っていました。
余談ですが、『森山中教習所』を描いている時は轟木は加瀬亮さんをイメージというか、憧れみたいな感じで描いてました。
加瀬亮さんのお顔好きです!あと、染谷将太さんとか顔のパーツがはっきりされている俳優さんが好きです。
自身の作品に対するこだわり
――お相手の作品の中で好きなコマやシーンを伺ってきましたが、現在連載中のご自身の作品の中で特にこだわっているところや注目してほしいシーンはありますか?
『ひらやすみ』は、なるべくそのときの空気感が出ればいいなと思って描いています。ちょうど今描いている原稿が、夏から秋に変わる前の季節のお話しなんですが、ちょうどその季節って雨がいっぱい降るじゃないですか。その日の夜に空気がもやっとして、虫が鳴いている...あの空気感が出せるように意識しました。
先ほど、真造さんの作品は「読み心地が良い」という話をしたのですが、作中に漂う空気感とかも全部スッと入ってくるんですよね。真造さんが作品を作る上で大切にされていることが全部ちゃんと伝わってきます。
――和山さんはどんなところにこだわって描いているんですか?
全作品共通して「読みやすさ」はめちゃくちゃ意識して描いてます。
本当に基本的なことなんですけど、このセリフは誰がしゃべってるのかとか、このキャラクターどこにいて何をしてるのとか...。この辺りが分かりにくいと読んでいる内にストレスが溜まってしまうんじゃないかなと。読者の方には、何回も読み戻したりして「あれ、今どうなった?」という状態になってほしくないので、気を付けて描いています。
――「読みやすさ」をすごく徹底されているから、読者にもしっかりと面白さが伝わのかなと思いました。こだわりとは別に、ここはうまく描けたなと自分で思うイチオシのシーンを教えてください。
僕はおばあちゃんがヒロトを抱きしめるこのシーンですね。
ここは「良い表情描けたな」って自分で思いました。そう思うことって中々ないんですよね。
このカラーの扉絵もすごく良かったです。
これもすごく気に入ってます。高円寺のルック商店街がすごく好きで、春になると提灯がぶわーっと並ぶんです。それを見ると「ああ、春が来たな」と思える。その風景を描けて良かったです。
着色って何でやられてるんですか?
メインは水彩で、あと色鉛筆も少し使っています。
すごい、絵がうまい...!
いやいや、和山さんのほうがうまいですよ。
――和山さんのイチオシのシーンはいかがですか?
『女の園の星』で緑川先生の結婚が生徒に知れ渡るところですかね。うまく描けたというよりも、単純に描いてて楽しかったです(笑)キラって指輪が光っているコマが好きです。
今後の注目ポイントとは
ーー最後に、今後自身の作品で読者の方に注目してほしいところがありましたら教えてください。
あんまり注目はせず...(笑)
和山さんは本当に謙虚だ...。この謙虚さを見習わなきゃいけない!
読者の方が好きなキャラクターを見つけて「この人また出るかな...」という感じで、登場を楽しみに待っていただけたら嬉しいです。
――真造さんはいかがですか?
やっぱりヒロトに注目してほしいですね。ヒロトといえば朗らかなイメージですが、彼の中に実はこんな一面があるんだなというのを出せれば良いなと思っています。
決してヒロトが変わるのではなく、彼のことが更に分かってくるというか...。読者の方にはそのギャップを楽しんでいただきたいですね。
お互いのマンガが繋いだ意外な2人の対談インタビュー。
2人のプライベートや画業の原点に迫った様子は本日発売の「週刊ビッグコミックスピリッツ 2/3 号」にて7ページに渡り掲載中。
また、『ひらやすみ』2巻も絶賛発売中!どちらもお見逃しなく!