作品概要
『図書館の大魔術師』(※)は泉光先生が描くビブリオファンタジーで、講談社の「good!アフタヌーン」で2017年12月号から連載されています。
(※)タイトルロゴ等では『圕の大魔術師』と表記されていますが、奥付や公式サイトでは『図書館の大魔術師』と書かれています。
あらすじ
ヒューロン族の小さな村に住む少年、シオ・フミス。勉強熱心で本が大好きな彼ですが、混血による外見の違いや貧民街に住むという環境から周りから疎外され苦しい日々を過ごしていました。
そんなある日、本の都「アフツァック」から村で見つかった魔術書の調査として司書(カフナ)の一団が村に訪れます。
アフツァックの中央圕には大陸中の本が集まると言われ、そこで数多の本を護るカフナは超難関の試験を勝ち抜いたエリートたち。村を訪れたカフナの1人、セドナとの出会いをきっかけに、ヒーローを待っていただけのシオの人生に変化が訪れます。
『図書館の大魔術師』は、そんな自らの手で物語を紡いでいくことを決意したシオが、書や人と出会い世界を繋いでいく物語です。
作品の魅力
民族、宗教から挨拶の仕方や差別感に至るまで綿密に作りこまれた世界観と、1巻1巻が1本の映画のような熱い構成、それらに説得力を持たせる泉先生の圧倒的画力など、全てが高い次元で同居するハイ・ファンタジー。まるでもう一つの人類史が存在するような確かな世界だからこそ、登場人物の生き方や葛藤、思想のぶつかり合いにしっかり感情と背景があり、ファンタジーのワクワク感と温度を持ったリアリティーが見事に両立しているのが本作の魅力です。
登場人物紹介
シオ=フミス
ヒューロン族の小さな村、アムンの貧民街に姉と二人で暮らす6歳の少年。ヒューロン族とホピ族の混血で、金髪、苔のような緑の目、白い肌、とがった耳という他の村人とは異なる外見をしています。姉の意向により貧民街出身としては珍しく学校に通っていますが、外見や出自から村の子供たちからいじめられており「耳長」と蔑まれていました。
本が大好きで、特に子供たちに大人気の冒険小説「シャグラザットの冒険」に夢中。世界中の本が集まり様々な民族が集うと言われる本の都アフツァックに行くことを夢見ており、また物語の主人公のような存在がいつか自分を見出してくれることを願っていました。
アムンを訪れたセドナと出会ったことで受動的で下を向いていた日々に変化が訪れ、セドナと同じカフナを目指すことを決意します。
7年後、成長したシオは司書試験を受けるためアフツァックに旅立ち、様々な人や文化と出会いながら成長していきます。
セドナ=ブルゥ
魔術書の回収のためアフツァックからアムンへ派遣されたカフナの一人で、守護室所属。
アムンを訪れた際、旅に持ってきていた一冊の本を通してシオと交流を持ち、その後の彼の運命を大きく変えるきっかけとなります。
常にカッコつけた言動でカフナの同僚たちからは若干あきれられていますが、風を操る魔術師として高い実力を持っており、シオにとっては物語の主人公のようにカッコよく憧れの存在です。
アンズ=カヴィシマフ
魔術書の回収のためアフツァックからアムンへ派遣されたカフナの一人で、渉外室所属。六児の母で普段はにこやかで温厚な性格ですが、本気で怒った時には背後に蛇が見えるほど恐ろしいと言われています。
ナナコ=ワトル
魔術書の回収のためアフツァックからアムンへ派遣されたカフナの一人で、修復室所属。愛想は悪いものの本への愛は人一倍強く、本の補修に情熱を燃やしています。セドナの同期でセドナのカッコつけには冷たい反応ですが、その実力は信頼している様子。
ピピリ=ピルベリィ
魔術書の回収のためアフツァックからアムンへ派遣されたカフナの一人で修復室所属。少しおバカなところがありますが修復の腕はピカイチで古書修復の名手です。ナナコの先輩ですが若干雑な扱いを受けています。
オセ=メネス
アムンの村にある図書館の館長で、もともと商人として成功した人物。本や図書館が好きというよりは名声のために図書館を運営しています。貧民街出身の人間に対しては図書館への立ち入りを禁止しており、シオに対しても厳しい態度を取っています。
サキヤ=メネス
館長の娘。本が好きで、父親に内緒でシオを図書館に招き入れて一緒に本を読んでいました。ケコと名付けられた猿のような動物といつも一緒。
ティファ=フミス
シオの姉ですが、一般的なヒューロン族の外見をしておりシオの特徴とは異なります。自身は読み書きができませんが、将来のためシオには色々と学んでほしいと思っており、彼を学校に通わせるため一日中働いています。
ミホナ=クォアハウ
シオがアフツァックに向かう途中、本通りの町イツァムナーで出会った少女で司書試験の受験者。小説に影響されやすく何か読むたびにキャラが変わります。基本的な能力は高いのですが、ここぞという場面でやらかしてしまうのが玉にキズ。
アルフ=トラロケ
シオがアフツァックに向かう途中、水車の街エスプレオで出会った少年。背が低く幼く見えますが、シオと同じ年で司書試験の受験者。立ち回りが上手く時には自らの背の低さも利用しますが、背が低いこと自体は内心気にしているようです。
ウイラ
エスプレオでシオが助けたフルア(双尾)という種類の小動物。フルア自体が希少種な上に、身体が白く目が赤い「シトラルポル」と呼ばれる超希少な存在です。助けられて以降シオの相棒的存在になりますが、何か大きな秘密がある様子。ウイラは「雷」という意味です。
ガナン=キアシト
アムンにある大工工房の親方。カフナを目指すことを決意したシオを自身の工房で育て、彼の夢を後押しします。普段は昼間から酔っ払っているような飲んだくれ親父ですが、非常に博識で人を外見や出自で差別しない先進的な考えを持っており、シオの良き理解者です。
ダイナサス=ディ=オウガ
シオが司書試験で出会ったクリーク族とヒューロン族の混血の少女。誰に対しても明るい社交的な性格で、人の視線を感知し思考を読み取るのを得意としています。
ナチカ=クアパン
シオが司書試験で出会ったヒューロン族の少女。非常に優秀ですが極度の心配性で「念の為」が口癖。司書試験にかける思いが強い分、周りへの言葉や態度がキツくなりがち。
コマコ=カウリケ
アフツァック中央圕の総代。かつて「ニガヨモギの使者」や「民族大戦」を鎮圧した7人の大魔術師の一人で、土マナの魔術を極めたものに与えられる「煉丹術師」の称号を持ちます。
世界観
重厚な『図書館の大魔術師』の世界。ここでは作品の舞台となる「アトラトナン大陸」の歴史や文化の一部を紹介します。
ニガヨモギの使者
かつて大陸を破壊しつくし人々を恐怖に陥れた厄災。7人の大魔術師によって封印されましたが、厄災が残した「灰白色の死」と呼ばれる霧が大陸を覆い、多くの土地を人の住めない場所にしてしまいました。
民族大戦
灰白色の死によって人が住める土地が大幅に制限された結果、残された土地を民族間で奪い合う戦争の時代が始まりました。この争乱の中で勝者は敗者を支配するため書の大量破壊を行い、他の文化や歴史を否定しようとしました。この状況を憂いた魔術師たちは争いを治めるため再び集まり、民族間の休戦を取り付けます。
この悲惨な経験を経て、先人の想いを護るために造られた場所がアフツァック中央圕です。
アフツァック中央圕
大戦中、支配者が書を利用したり破壊したりする様子を嘆いた魔術師たちが、全ての書を護り全ての民族の記憶を残す場所として造りあげた組織。中心となったコマコ=マウリケは「圕の大魔術師」と呼ばれ、現在も総代としてそのトップに立っています。
それぞれ異なる役割を持つ12の室から成り立ち、各室の室長は賢者とも呼ばれています。
7人の大魔術師
ニガヨモギの使者およびその後に発生した民族大戦を鎮めた英雄たち。各民族から一人ずつ優れた魔術師が集まり、共に戦いました。
7つの民族
アトラトナン大陸には、大きく分けて7つの民族が存在します。また宗教としては司教(マナアクア)が多数派を占めますが、アシン教、起教など複数の宗教が存在しています。
民族 | 宗教 | 説明 |
ヒューロン族 | 司教 | アフツァックでは最も多くみられる民族。首府は父の都ベレへベツィ。 |
ラコタ族 | 司教 | 本や活版印刷を生み出した大陸文明の牽引者。全体的に背と鼻が高い。 |
ココパ族 | 司教 | 身体が小さく羽根を持っており、妖精のような外見。 |
ホピ族 | 不明 | とがった耳が特徴。詳細は謎に包まれている。 |
カドー族 | 起教 | 人前では常に仮面を被っており素顔を見せない。文字は縦書き。 |
クリーク族 | 司教 | 獣の亜人のような見た目で大柄。敬語は存在しない。 |
セラーノ族 | 不明 | 龍のような外見をした種族。他の種族とは一線を引いている。 |
七古抜典
大陸の歴史のなかで、その時代の体制や人々の暮らしに多大な影響を与えた7つの書。正の遺産だけでなく負の遺産も含まれます。一つの組織・民族が書の利益、力を独占しないようにするため、多くは中央圕で管理され一般公開されています。
名前 | 製作者 | 作成年代 | 概要 |
樹海創讃文書 | 不明 | 不明(1700年前頃) | アトラトナン伝説の一部が記されている。司教の聖典。 |
ネザファパレハの円盤 | ホピ族 | 不明(1400年前頃) | 万物に宿ると言われる8つのマナが描かれている。実在が確認されているのはそのうち7つ。 |
大三幻 | カドー族 | 1100年前頃 | 魔術書の生みの親であるカドー族によって作られた歴史上最凶と言われる3冊の魔術書。 |
アレマナカ | ラコタ族 | 758年前 | 2つの衛星対星を元に作られた長期暦。それまでの大陽を元にした単暦より精度が高い。 |
4頁の冒険 | ツネ=シロ | 391年前 | 金属活版印刷機によって世界で最初に印刷された小説。 |
黒の書 | ルゲイ=ノワール | 145年前 | ホピ族は劣等民族であると主張した本。これをきっかけにヒューロン族によるホピ族大虐殺が起こった。 |
明日に向かって吼えろ! | グレイブル=ダ=ヴェルボワ | 121年前 | ラコタ族の奴隷だったクリーク族が自由への権利を手に入れたきっかけとなったチラシ。 |
名言
数々の名言が飛び出すのも本作の大きな魅力の一つ。ここではその一部をコマで紹介します。
作者紹介
『図書館の大魔術師』の世界は、物語の外側から既に始まっています。
原作:風のカフナ
著: ソフィ=シュイム
訳:濱田泰斗
画:泉光
単行本の表紙を見ると、『図書館の大魔術師』には原作があることが明示されています。しかし風のカフナやソフィ・シュイムを調べても、実在の作品や人物としては見つかりません。そしてもちろん、カフナとはこの世界の司書たちの名称です。
つまり本作は、シオたちが住む世界の誰かが残した書を現実世界で訳し、泉先生が作画として描いているという形を取っているのです。
このメタ的な仕掛けが、作中でも鍵となるのかについても注目です。
泉光先生
代表作:『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『7thGARDEN』
Twitter:https://twitter.com/izumimitsu1102 (※)
(※)2020年の春に単行本4巻発売が延期になったことを受け、Twitterにて期間限定で『図書館の大魔術師』の設定や過去の読切作品などについて発信されていましたが、現在は鍵アカウントとなっており更新は停止中です。