綿密に練られたストーリーと圧巻の画力でコアなマンガファンからも絶賛され、ジワジワ知名度が上がってきている泉光先生のビブリオファンタジー『図書館の大魔術師』。
考察しがいのある重厚な世界観の作り込みようがファンの心を掴んで離しません。しかし、この作品の魅力は物語の深さだけに留まりません。司書の役割を知るためのお仕事マンガとしての描かれ方にも目を見張るものがあるのです。
今回は、実際に図書館員でもある筆者が注目した司書の役割について学べるシーンをピックアップし解説してみました!図書館のお仕事や、司書に興味のある方にも楽しんで頂けたらと思います。
いざ、あなたの知らない図書館の世界へ!
そもそも図書館と司書の役割って?
図書館を利用したことはありますか?もし利用したことがない方でも、小学生の頃に図書室があったことを覚えている方は多いと思います。そもそも、私たちの生活において図書館とはどんな役割を果たしているのでしょうか。その答えは、もしかしたらみなさんの思い描くイメージと少し違うかもしれません。
日本の法律、図書館法により図書館は「基本的人権である知る自由(権利)を持つ国民に資料(図書)を供することが最も重要な任務」であると定められています。
それはこの作品の世界でも同様で、このコマからも作中では「圕法(としょかんほう)」に則って各地方の図書館が運営されていることがわかります。
そして、その使命を全うするために図書館で働いている人々が司書です。この世界では「カフナ」と呼ばれています。中央圕の司書たちは圕十二室に分かれて多岐にわたる各分野の業務を専任しながら、図書館の使命を日々遂行しているのです。作中ではカフナになるための司書試験はかなりの難関で非常に狭き門となっているようです。
では、具体的にどのようなことをしているのでしょう。ベテランのカフナや司書試験に挑むカフナの卵たちが活躍するシーンを参考にその一端をのぞいてみましょう。
資料を収集し、保存し、護り抜くこと
知る権利、言い換えれば、みなさんが誰でも情報という資料を手に取ることができる環境を護り抜くために、司書は何をしなければならないのでしょう。それは、図書を収集すること、保存すること、護り抜くことです。
資料を収集する
中身のないおもちゃ箱には心惹かれないように、図書館という建物の中に本棚があっても本そのものがなければ意味がありません。資料(本)の収集は基本です。
書店や出版社から仕入れることはもちろんのこと、郷土資料や貴重書のような一般には流通していないオンリーワンな資料を求め、司書たちは時に図書館を出て自分の足を使って資料の収集をしているのです。
例えば、この作品はファンタジーなので、現実の私たちの世界ではありえない魔力が込められた魔術書のような類の図書が存在します。物語は魔術書を回収しに主人公の住む村にカフナ達がやってくるところから始まるのです。ワクワクしますね。
資料を保存する
次に資料を集めたら、書架(図書館の大きな本棚のことです)に収めます。ただし、収めるだけではなく適切に管理し続けなければならないのです。なぜなら、未来まで本を残していくこともまた使命だからです。
そして、図書館の本は多くの人の手に渡ります。時には不注意で表紙を破いてしまったり、汚してしまう利用者も少なくありません。そういった資料を修復することも司書にとっての大事な仕事なのです。
実は、作品で紹介されている修復に必要な道具は私たちの世界の司書もほぼ同じものを使用しています。
修復の仕方にも一つ一つに意味があるのです。みなさんも、図書館で借りた本を誤って破ってしまったら、そのままの状態で図書館の司書さんに返してくださいね。
破けたり、汚れたのであれば新しいものを買えばいいじゃないかと思う方もいるかもしれません。しかし、このコマで語られているように丁寧に修復した資料を収めることで次に手に取った利用者に「本を大切にする気持ち」を抱いて欲しいという意図が込められているのです。利用者教育も司書の仕事のうちです。
ぜひ、本棚から本を取り出す時に本を傷めにくい取り出し方を以下のシーンから学びましょう。本棚には指一本で本が傾く冊数だけ収めるのがコツです。
資料を護る
最後に、司書にとって一番大切なことを学ぶことができるシーンをご紹介します。
※「排架(「配架」と書くこともあります)」とは図書館が受け入れた資料を一定のルールにしたがって書架に並べることです。
図書館、司書が最も大切にしなければならない信念。それは、図書館を利用する人々と収める資料を選んではいけないということです。老若男女、人種、思想・信仰、考え方、歴史、そういったものを選別せずに分け隔てなく様々な資料を収め、あらゆる利用者のための門戸を開いておかねばなりません。
図書館法でも触れられている最重要の任務である、私たちみんなが持つ権利を守るためです。利用者が、あらゆる情報から得られる未来への選択肢を狭めてはならないのです。
世界には星の数ほど本があります。全てを図書館に収めることは到底難しく、司書は図書館に収める本を選別しなければなりません。選書といって図書館に収める資料を選ぶ仕事は中立性を担う司書にとっては非常に難しい責任ある仕事なのです。
物語の序盤に登場する人種差別によって利用者に制限を設けていた館長は、カフナにお叱りを受けてしまいました。
番外編
他にも、様々なシーンが司書の仕事の奥深さを物語っています。
例えば、資料の案内を意味するレファレンス。利用者の数だけ悩みがあり、調べたいことがあります。それら全てに精通することは人間にとっては困難なことではありますが、それでも対応しなければならないのが司書です。
そこで、司書は「レファレンスブック(参考図書)」を活用します。司書にとっては欠かすことのできない三種の神器です。調べ物の出発地点に立つためにはまず、調べたいことの基礎知識を身につけたり、事実確認をしなければなりません。そのような際に役立ちます。
例えば、このコマのように辞典一つとっても種類も内容も千差万別!主人公の最終試験の時も役立っていましたね。
図書館はいつでもあなたを待っている
いかがでしたでしょうか。この作品は一見ファンタジーとしての物語の面白さに心を奪われがちです。しかし、要所で今回紹介したようなシーンが挟み込まれていることにより、『図書館の大魔術師』には図書館の役割、司書の使命といった信念とも言うべきものがしっかりと根付いていることに気付かされます。改めて、泉光先生のこの作品に注ぐ熱量の高さが垣間見えとても感動するのです。
上質なファンタジーとしてはもちろんのこと、司書のお仕事についても知ることができる非常に懐の深いこの作品。今からでも遅くはありません。この途切れることのないワクワクにあなたも追いついてみませんか?
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