『圕(図書館)の大魔術師』は、小さな村の貧民街に暮らす少年シオが中央図書館の司書セドナと出会い、一冊の本に導かれるように自分の物語を紡いでいくお話です。細部まで創り込まれた世界観が素晴らしく、もう一つの人類史を読み解いているような壮大なストーリーが魅力です。
魔術を使いこなす彼らの世界の文化や歴史には、私たちが暮らしている世界のものとリンクしていることも多くあります。その一部をご紹介しながら、本書を紐解いていきましょう!
友愛児の少年の運命の出会い
小さな村の貧民街で姉と暮らしをしていたシオは、ヒューロン族とホピ族のハーフ(友愛児 ※後序)です。耳が長いという特徴をもつホピ族は、かつて劣等民族としてヒューロン族から大虐殺を受けたという歴史があります。シオはその2つの民族のハーフなんですね。
シオは村の図書館を使うことも許されず、子どもたちからいじめを受けていました。
「友愛児」というのは、この世界の社会学者によって生み出された言葉です。「混血」という言葉にいいイメージを持たない人々の意識改革のために、中央図書館のある都市アフツァック中心に使われるようになってきています。「混血」と言っているか「友愛児」と呼んでいるかにより、物語の登場人物の育ちや意識、その都市に浸透している教養などが推察できます。
本書ではこのような文化背景が緻密に描かれているので、ぜひこれから読まれる方は、登場人物の「言葉選び」にも注目してみてください!
シオが暮らす村で貴重な書が見つかったという報告を受け、「中央図書館」から司書(カフナ)の一行が村を訪れます。司書の一人、セドナが置き去りにした本をきっかけにシオの運命は大きく動き出します。
セドナへの憧れから、本好きの少年シオは中央図書館の司書になるべく勉学に励み、出会いから7年後、ついに司書試験を受けに村を旅立つのでした。
ニガヨモギの厄災と歴史
昔々、ニガヨモギの使者という災いが大陸を破壊しつくし、人々を恐怖に陥れました。
7人の大魔術師によって使者は石棺に封印されましたが、使者の残した灰白色の死という霧が大陸の多くの土地を奪ったため、残された土地を巡る民族紛争が起こってしまったのです。
ニガヨモギというのは、私たちの世界の「聖書」にも登場する植物です。
1986年に原発事故の発生した旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ周辺ではこのニガヨモギが多く自生しており、チェルノブイリというのもヨモギの仲間を意味する言葉として使われています。事故から25年の2011年には「ニガヨモギの星公園」という記念施設がチェルノブイリ市に建設されています。
本書で語られるニガヨモギの使者の正体とはなんなのか。霧で覆われた世界はどうなっているのか、気になりますよね!
民族同士の不和と図書館の役割
民族間の不和がある世界観の中で、異民族同士の結婚や友愛児の存在は人々の心に多くの葛藤を引き起こします。
民族の違いは言語や服装、文化だけでなく、習慣にも表れていて、たとえばラコタ族という一族は親しい者同士では舌を出して挨拶する習慣があります。
同様の挨拶が私たちの世界ではチベットにあり、チベットの人たちは舌を突き出して挨拶するんですね。ラコタ族は黒髪ですし、細い目もアジア人っぽい特徴があるので、親しみが湧きます。また、セドナもラコタ族の出身です。
また、性別によって職業が分けられていたりする世界観で、女性では就けない職業というのも存在します。そんな中、図書館司書は女性が就ける数少ない高位の職業のため、多くの優秀な女性たちが受験しており、司書の女性比率も非常に高いです。
このような世界観の中で「図書館」は民族の平等を守り、誰にでも本を貸し出すという姿勢を堅持しており、「図書館」や「書」が持つ重要な役割を浮き彫りにしているのが本書の魅力の一つです。
仲間との協力を思い出させる司書試験の方法や重要な役職は各民族から平等に抜擢するシステムなど、「図書館の大魔術師」の想いが体現されているのが「中央図書館」ではないでしょうか。
紙や本の歴史に類似点
本書に出てくる紙の作り方や、石板から持ち運びやすい巻物に変わっていくような書の歴史は、私たちの世界のものとも共通点が多いです。
手漉きによって紙がつくられていた頃、ヨーロッパでは古くなった服(木綿のくず)が主な原料になっていました。
また、紙に入ってる透かしはウォーターマークと呼ばれ、紙の生産地や制作年の特定も可能です。スイス人の研究家ブリッケによれば、最も古いウォーターマークとして1282年に作られた紙が見つかっています。
世界の描写が美しい
まるで世界中を旅しているような自然や建築、そして遺跡の描写がとても美しく、本書は図鑑を見るように、美麗写真をパラパラと眺めるような楽しみ方もできます。
世界を創る一冊の本
シオとセドナの出会いを誘い、シオの背中を押した謎の本。これには世界のために戦った大魔術師と図書館の物語が書かれています。
これはセドナにとって大切な本であり、セドナが司書(カフナ)を目指したきっかけの本でもあります。
「書を護ることそれ即ち 世界を護ること也」
しかし、この本を読み終えたシオは「悪用しようと思えば、社会(せかい)を破壊できる危険な本だ」と言います。かつて、この世界では「黒の書」という本によって、多くの人が殺されたことがありました。この本に書かれた物語とはなにか。ますます先を読む手が止められません!
紙の本もオススメ!
本書を紙で持っている方はぜひ、表紙を外してみてください。裏表紙にはその巻に出てきた用語の詳しい解説や四コママンガが載っています。各話ごとのウラ話まで出ているので、本書の世界観に深く入り込めること間違いなしです!
👇📔こちらは電子書籍のまとめ買いリンクです📕
👇📖ウラ話がもっと知りたい方はこちらの記事もチェック📙