応天の門

灰原薬 / 著

時は平安、藤原家が宮廷の権力を掌握せんと目論んでいたその頃、都で突如起きた女官の行方不明事件。「鬼の仕業」と心配する帝から命を受けた・在原業平は、ひとりの青年と出会う。その少年の名は――菅原道真。ひきこもり学生の菅原道真と京で噂の艶男・在原業平――身分も生まれも違う、およそ20歳差のふたりが京で起こる怪奇を解決!? 「回游の森」「SP」の気鋭・灰原薬がおくる、平安クライム・サスペンス!

概要

灰原薬先生による『応天の門』は、月刊コミックバンチにて2013年より連載中の歴史ミステリー・サスペンス作品です。主人公・菅原道真とその相方(?)となる在原業平、彼ら2人が身の回りで起こる事件の謎を解いていくこの物語。その中で、平安時代の権力争いの渦中に、2人も次第に巻き込まれてゆく、というストーリーです。過去には第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した経歴も。

あらすじ

物語の舞台は平安時代。主人公となる菅原道真は文章生の身ながら、すでにこの頃より同世代の誰よりも博識な青年でした。ある日、彼の学友である紀長谷雄がとある事件に巻き込まれたことにより、彼は都で守護の任を務める左近衛権少将、在原業平との出会いを果たします。

平安の時代は物の怪や祟りなど、人ならざるものの存在が色濃く信じられていた時代。しかしその中で道真は「全ての現象は人の手によるものである」という信条を強く持ち、持ち前の知識を総動員させ、長谷雄が巻き込まれた事件についても見事解決をしてみせたのです。

その博識さと聡明さを目の当たりにし、彼に強く興味を持った業平。以降何かにつけて都で事件が起こった際、彼は道真の元を訪れるようになりました。それ以来道真と業平は、周囲で巻き起こる様々な事件を解き明かしていくこととなるのですが、同時にこの時代ならではの権力争いの渦中にもまた、それぞれが徐々に巻き込まれていくのです。

登場人物

菅原道真

本作の主人公。太宰府天満宮に祀られている学問の神として知られる人物ですが、物語では文章生という学問の研究を行う職についています。父・菅原是善は時の帝の教育係であり、学問への飽くなき探究心はれっきとした父親譲りのものの様子。ずっと慕っていた兄がおり、自身が幼い頃に疫病で死んだと聞かされていましたが、実際は時の権力者である藤原家の行いによって狂犬病で死亡しています。

基本的には家でずっと書物を読み耽るような人物で、宮中での政や複雑な人間関係、男と女の色恋沙汰の噂などにも一切興味を示しません。それどころか、周囲の人間に関しては基本的に自分より頭が良いと認めている人以外には見下したような態度を取る節も。

しかし在原業平との出会いによって、書物を読んでたくさんの知識を持つことと、実際にその知識を使う事は違う、ということに気付かされます。それと同時に、様々な思惑の渦巻く都の中では正義や書物通りの理が絶対のものではなく、時には理不尽がまかり通りようなこともある、ということも。

その中でも自身の信念に基づきより多くのものを守ろうと動く業平を見て以降、彼の存在をある程度認めるようになっていきます。その後も2人で様々な事件を解決していくのですが、その中で次第に地位や権力のある人物の息子である自分が、持っている知識や能力の高さで人の為、世の為にできる事は何なのか、というふうに、自身の持つ価値観を徐々に変えていくようになるのです。

在原業平

左近衛権少将という、都の警固を務める役職に就いている歌人。その為都内で起きる怪事件に立ち会う事も多く、道真と知り合っていこうその事件解決の為に彼の力を借りようとしばし館を訪れるようになりました。

一定の地位を持ちながらも大変な好色漢で、これまでにも様々な女性を惑わせてきた色男でもあります。それ故に歌を詠む才能にも非常に長けており、数々の雅な歌で大勢の女性を虜にしてきた様子。そんな自分の悪い癖のせいで事件を起こすこともしばしばあり、道真にはその度に呆れられていることもあるようです。時の幼帝の妃候補である藤原高子と駆け落ちをした過去があり、それもあって一部の都の中の大臣たち(特に政の権力を握ろうとしている藤原家)には厳重に目を付けられています。

博識で頭の良い道真の実力を認めながらも、彼に対してはまだ幼さゆえに世の理を真に理解はしていない、という評価を持っています。書物の中の知識だけではどうにもならない理不尽さや不公平が蔓延るこの世界で彼がどのような大人になり宮中の人間となっていくのか、期待と好奇心が混ざった心持ちで接しているような部分が見受けられることも。

紀長谷雄

道真の学友であり、業平の親類でもある青年。気が弱い性分ながらも好奇心旺盛で様々な出来事に首を突っ込みたがるので、トラブルに巻き込まれて道真と業平に助けられることもしばしば。女性に対しても移り気であったり、弱い癖に博打に手を出しては素寒貧になったりと、諸々の立ち回りがあまり上手くない人物のようです。

白梅

道真に仕える女官。元々はとある姫君の教育係として仕えていたのですが、道真にその学問の才を買われ彼の家に仕える事となりました。少し気の弱いところはあるものの気が利く献身的な少女で、気難しい道真を不器用ながらに気遣ったり、彼の許婚である島田宣来子との間を取り持ったりと奔走している様子。男の人に対してはあまり免疫がなく、女性に慣れている業平から向けられる一挙手一投足に赤面する様もしばしば見受けられています。

藤原良房

政治を牛耳ろうとしている藤原家の筆頭。太政大臣という政の重役でもあり、幼い帝のバックについて藤原家の地位を絶対のものとすることに執心しています。その野望の為には身内に対しても非常に冷酷な態度を見せる事も。妃にしようとしている姪の高子に以前手を出した業平を非常に警戒しており、教育係の是善やその息子の道真についても、自身の野望の駒に使えたり、あるいは自身の邪魔をしないかと目を光らせている状態です。

平安時代の豆知識も着いちゃう!?面白トリビアの一例をご紹介!

本作のユニークな点は、物語の幕間に東京大学史料編纂所の本郷和人先生による平安時代当時の文化や暮らしについての解説文が掲載されている点。物語とあわせてチェックする事で、道真や業平の生きた時代のリアルな情景を知る事も可能となっています。

中でも当時の暮らしについて、解説文にも記載されている面白い豆知識を一部ご紹介致しましょう。

平安時代の結婚適齢期について

日本人の平均寿命については、実は戦前まで50歳に到達していないくらいでした。現代の平均寿命80歳が平安時代の50歳に相当すると仮定すると、現代の24歳が平安時代の15歳、現代の16歳が10歳に相当する計算です。このことから考えると、平安時代では初潮を迎えた12、3歳頃に結婚をする、ということも大いにありえたようですね。

平安時代の香りについて

この頃の時代には今のようなお風呂の文化がありませんでした。その為特に雅な人たちは自身の体臭の対策として、「お香」を非常に重宝していたそうです。自らの周囲の空間や纏う衣服にお香を焚きしめ、ある種人物を象徴するような香りもあった様子。書簡や手紙の香りからその人を想起させる、というのも雅な色恋の要素の1つだったのかもしれません。

平安時代の男性の恥ずかしいこととは?

時代や文化によって、人にとって「恥ずかしいこと」というのは多種多様。海外の部族の人たちのなかには、当たり前のように裸で過ごしている人も大勢いますよね。もちろん平安時代もこの例に漏れないのですが、今の私たちにとって理解しがたい彼らにとって恥ずかしいこと、それは「人前で冠や烏帽子を取る事」だったんだそう。眠っている時も、博打に負けて身ぐるみはがされた時も、烏帽子だけは被っている様子が描かれていたというのですから面白いですね。

作者紹介

作者の灰原薬先生はこれまでにもウルトラジャンプなどで度々読み切り作品を掲載。ビッグコミックスピリッツでテレビドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』のコミカライズを担当したり、人気ゲーム『戦国BASARA2』シリーズのコミカライズやビジュアルブックのイラストも担当しています。長編作としては本作『応天の門』が、これまでで最も連載の長い作品です。

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