2020年に40周年を迎えたマンガ雑誌「スピリッツ」が、この節目に「創刊40周年記念 連載確約漫画賞」を創設しました。
その名の通り、大賞受賞作はスピリッツでの連載権を譲渡されます。そしてこの漫画賞、審査員もめちゃくちゃ豪華です。
公式ホームページには「特別審査員陣」として、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』浅野いにお先生、『映像研には手を出すな!』大童澄瞳先生、『あさひなぐ』こざき亜衣先生、『新九郎、奔る!』ゆうきまさみ先生の名前が挙げられています。
さらに「スペシャルゲスト審査員」として、映画『アイアムアヒーロー』、ドラマ『重版出来!』『MIU404』などの脚本を務めた野木亜紀子さん、お笑い芸人であり小説『火花』『劇場』などの作品も執筆する又吉直樹さんも参加。
この漫画賞の開催にあたり、審査員をつとめる4人のマンガ家さんの新人時代について、スピリッツ編集部が取材・構成したインタビュー記事をアルにて独占掲載!
第4回に登場するのは、『映像研には手を出すな!』大童澄瞳先生です。
オリジナル作品限定の同人誌即売会「コミティア」でスカウトされ、それから一年で連載デビューした作品『映像研には手を出すな!』が大ヒットと、華々しい道のりを歩んでこられた大童先生。
実は「スピリッツ」での連載準備を始める前は、職業訓練校に入る手続きをされていたのだとか。どういった経緯でマンガ家になられたのか、新人時代について話を伺いました。
マンガ家さんのプロフィール
大童澄瞳/1993年、神奈川県生まれ。高校では映画部に所属。東洋美術学校絵画科卒業後、独学でアニメーション制作を行う。その後、漫画を描き始め2015年、コミティア111に出品。2016年、『映像研には手を出すな!』にて連載デビュー。2020年、同作のアニメ化に際しED映像を手掛けたことで、アニメーターとしてもデビュー。
コミティアで2誌からスカウト。1年でデビュー!
ーーデビュー作『映像研には手を出すな!』が大ヒット中の大童先生。デビューのきっかけは、同人誌即売会でのスカウトだったそうですね?
はい。初めて描いたマンガを1冊の同人誌にして、コミティアに出展したときにスピリッツの編集者さんから名刺をいただきました。
実は、同じイベントで他のマンガ誌からも声をかけてもらいまして、その雑誌も読んでみたんですけど、そちらはお色気要素が強くて。「これはちょっと親戚に見せられないな」と思って(笑)。
ーーなるほど(笑)。
後日スピリッツの編集者さんに連絡しました。
ーー初めて描いたマンガでスカウトされ、マンガ家デビュー。夢のようなお話ですね!
うーん、そうですねぇ。タイミングとしても、22歳の「就職とかどうしようかな?」って考えていた時期で、人生の転換期ではありました。僕は発達障害があるので、もともと職業訓練校に入る手続きをしていたんです。
ーー大きな方向転換をされましたね。
はい。でも、本来、僕は自分が知らないところに身を投じるのが苦手で、新しい行動を起こすことが怖い“浅草氏タイプ”だったんですけど、運転免許が取れたことでちょっと自信をつけたという経験がありまして。
ーーどういうことですか?
自分の自信のなさに根拠がないことに気づいたというか。逆に、自信がある人だって根拠はないんだってこともわかってきて。
ちょっとずつチャレンジしてみようかなって気持ちの結果が免許を取ることだった。だから、スピリッツ編集部にも、「連載をいきなり始めるわけじゃないし、話を聞くだけでも」と思って行ってみたんです。
ーー行ってみてどうでした?
すべてを警戒してましたね(笑)。相手がいきなりタメ口だったら、こっちもタメ口返しにしてやるって心に決めていました。
ーー戦闘態勢ですね(笑)。
実際現れたのは、丁寧で優しくて、ぜんぜん高圧的な編集者じゃなかったんですけど。
そこから、連載向けのストーリーを考えて、連載準備作品として編集部の企画会議に出してもらって、っていうのを、1年やりました。
ーー初連載の準備期間がたった1年だったんですか!
1年で連載開始って早いらしいですね? 僕、その辺りのことまったく知らなくて、「もう半年も経ったのにまだ何にもできてないぞ!?」ってすごく焦ってました(笑)。
ーー編集者さんとの相性も良かったんでしょうか。やりとりする中で、意識していたことはありましたか?
これは何かの受け売りなんですけど、「編集者に求められたものをそのまま持っていくのは二流」っていうのは心の中にありましたね。編集者はマンガをたくさん読んで、売ってきた経験、知識がある。
自分と意見が違ったとしても、アドバイスにはある種の“正しさ”があるんだって信頼しつつ、「求めているものの正体はなんなのか」ということを考えながら試行錯誤しました。
自分の絵が本屋さんに並んでいて、痛快でした
ーーはじめて単行本が出たとき、書店に見に行ったりしましたか?
行きました。自分の絵が本屋さんに並んでいるのを見たとき、すごいニヤニヤしましたね。なにより、痛快でした。
ーー痛快というと?
姉も絵を描く人間で、「あなたは独特な絵を描くよね」「売れ線からは外れている」って言われたことがあって。
自分の絵の魅力が、イマイチ他人と共有できていないというか、“わかってくれない社会”に対する怒りみたいなものをずっと持ち続けていたので(笑)。
それを「それでも僕はこういう表現がいいんだ!」っていう方向に変換して、創作していたから、承認を得られた気がして気持ちよかったんです。
ーーメジャーではないという自認があったんですね。
そうですね。『映像研』は多分“サブカル”にカテゴライズされるんだろうなって思っていました。「ヴィレヴァンに置かれるマンガなんだろうな」と。
ーー結果として、サブカルの枠を飛び出した作品となりましたね。
想像以上に幅広い人たちに喜んでもらえる作品になって、それはすごくうれしかったです。
マンガは“伝わるかどうか”がすべて
ーーデビュー前の自分に何か声を掛けるとしたら、どうしますか?
「連載前のネームでそんなに焦らなくていいよ」っていうのは言いたいです。
ーー先ほどもおっしゃっていましたよね(笑)。
就職も考えていたので…。デビューするまでの“普通のテンポ”を知らなかったから、「1年で連載デビューできたら早いほうだよ」って教えてあげたい。
あとは、うーん、あんまりないですね。「自由にやっていいと思います」って感じです(笑)。マンガは内容じゃなくて、“伝わるかどうか”がすべてだと思うので。
ーー伝わるかどうか、ですか。
マンガ家は表現者として、マンガという媒体を介して、どんな内容だろうが伝わりさえすればいいんです。それがマンガという表現にチャレンジすることだと思います。
ーーなるほど。
描かれている内容を批評するのは批評家の仕事。応募作に対しても、僕は、どんなに意味がわかんなくても、そのマンガに何が描かれているのか、必死に読み解いてやろうと思っています。
取材・文:小西麗
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