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作品概要
2011年8月より『ビッグコミックスピリッツ』にて連載がスタートした中学時代美術部員で運動経験ゼロの女子高生・東島旭(とうじまあさひ)が主人公の「薙刀(なぎなた)」を題材にした青春部活マンガ。旭や真春をはじめとした薙刀に青春を捧げる女子高生達の凛とした姿を描く青春ストーリー。
第60回小学館漫画賞一般向け部門受賞、2017年には乃木坂46のメンバー出演による舞台化、映画化がされた。
あらすじ
二ツ坂高校の新入生・東島旭(とうじまあさひ)は通学中の電車の中で痴漢に遭遇したところを同じ高校の2年生・宮路真春(みやじまはる)に助けてもらう。
入学式の部活動オリエンテーションで薙刀部の演舞を見せた真春に、半ば脅迫じみた理由で薙刀部へ勧誘されるものの「薙刀はスポーツに縁のなかった人間が突然全国に名を轟かすことがある高校部活界におけるアメリカンドリーム」であるという言葉に心を掴まれ、真春の様に強くなりたい一心で入部を決意する。
登場人物
▼二ツ坂高校関連
東島旭(とうじまあさひ)
二ツ坂高校1年。入学式の日に先輩の真春と出会い、薙刀部への入部を決める。
薙刀を始める前は運動経験ゼロであったが努力の末2年時には試合の代表メンバーの戦力として積み重ねて来た実力を発揮する。
宮路真春(みやじまはる)
二ツ坂高校2年。幼い頃から薙刀経験がある実力者として注目されている二ツ坂のエース。
未経験の旭の根性を買っており目にかけている。
紺野さくら(こんのさくら)
旭と同級生で同じく薙刀初心者だが、高身長で基本的に器用で何でもこなせるが、すぐに調子に乗り油断してしまうのが玉に瑕。
八十村将子(やそむらしょうこ)
中学時代まで経験がある剣道から薙刀へ転向することにした旭と同じ1年。
荒っぽい言動が多いが仲間思い。
野上えり(のがみえり)
2年の部長。部の全体を冷静に見ている。
実力も才能も飛びぬけている訳ではない分、自身の実力を考慮し団体戦では自分の試合を引き分けで終わらせ次に繋げる場面が多い。
大倉文乃(おおくらふみの)
2年。太っているが運動神経が良く明るい性格。
八十村に目をかけている。
宮路夏之(みやじなつゆき)
真春の弟で旭と同級生。
薙刀経験者だが真春との実力の差に挫折して離れたものの旭と関わっていき再び薙刀を始める。旭のことをいつも気にかけている。
小林先生
二ツ坂薙刀部顧問だが、薙刀の経験も知識もなく実質使いっぱしりの状態。
寿慶(じゅけい)
二ツ坂高校の夏の練習合宿先の寺の副住職。
薙刀教士(武道団体が与える称号)の段位を持つ。
福留やす子
薙刀の個人・団体インハイ、インカレ優勝経験者。
寿慶の依頼で二ツ坂薙刀部の監督になる。
▼國陵高校
一堂寧々(いちどうねね)
熊本から親の都合で東京に来た1年で國陵のエース。
強豪・熊本東高校にいる憧れの選手・戸井田(といだ)と薙刀が出来なくなったことと國陵の選手達の実力の差が合わない理由などから部員達に心を閉ざしている。
的林つぐみ(まとばやしつぐみ)
寧々と同じ1年。薙刀経験者で寧々の実力を認めており交流したいと思っているが、頑なな態度を取る寧々に苛立ちを覚える場面もある。
寒河江純(さがえじゅん)
2年で部長。反抗的な寧々に対しても優しい態度を取る。
寧々の態度に不満を持つ部員を嗜めている。
▼熊本東高校
戸井田奈歩(といだなほ)
強豪・熊本東高校2年でエース。薙刀を「武道」という姿勢で捉えている。
真春などの強い選手には注目するが弱い選手には一切興味を示さない。
島田十和(しまだとわ)
1年で旭同様に薙刀初心者。
戸井田に憧れるものの実力が伴わず焦る気持ちを抱いている。
※下記の「作品の魅力」には本編のネタバレが含まれています※
作品の魅力
▼迫力ある試合の描写
こざき先生の高い画力により、薙刀の動きとスピードを画面から感じられる。線で描かれた薙刀の軌道を追うと、まるで薙刀が動いている様に見えるのだ。
例えば、紺野さくらと相手選手が「如意(にょい)」と呼ばれる手を滑らせ薙刀の柄のリーチを相手に伸ばす技を繰り出すシーン。
どちらも柄のリーチを伸ばし打突させようとするのが見て取れる。
また打ち合いのシーンや真剣勝負に入る集中状態になっている様子が効果線や背景のベタの効果が相俟って肌感覚で伝わって来る。
熱気と緊張感、息遣いさえもはっきりと感じ、その場で試合を観ている様な錯覚を起こさせ、読んでいる間に息をすることを忘れてしまう。
▼モノローグの響き
作中、旭や他の登場人物のモノローグが散りばめられている
モノローグの静けさが詩の様で、読んでいて心地良い気持ちにさせてくれる。
等身大の気持ちが表現され、高校時代を思い出し懐かしさも染み出す。
▼「今」を駆け抜ける若者達の姿
ストーリーとしての魅力を感じる点としては『あさひなぐ』では主人公の旭をはじめとした「今」精一杯に薙刀をやっている若者一人一人に丁寧に焦点を当てている所だ。
ひたむきな旭の薙刀への情熱、はじめ心を開かなかった寧々が國陵の一員であることを自覚していく様、
そして旭が関東大会で出会った、個人戦で一人研ぎ澄ます様な薙刀をする河丸摂(かわまるせつ)の薙刀に対する想いや
全国大会常勝校・熊本東のエース・戸井田の「スポーツ」としてではない「武道」として薙刀をやりたいという気持ち等、他校の選手の描写も丁寧に描かれている。
また女子だけに留まらず、ごく僅かな競技人数である男子の薙刀で日々努力を重ねて来た乃木という青年達の「今」も描かれており、読んでいてその真摯さに魅了される。
しかし、作中では前向きで真摯な薙刀への情熱だけが描かれている訳ではない。
本来ならエースだった筈の的林の寧々への嫉妬
才能ある姉・真春と比較した時の夏之の劣等感
強く美しい薙刀を追求する戸井田への憧れを捨ててしまった島田の心中
有望な選手に対する嫉妬、劣等感等の醜くて目を逸らしてしまいたくなるが多かれ少なかれ誰でも持ち合わせている心理についても向き合っているのだ。
また、試合中に相手選手からの衝突で真春は選手生命に影響する怪我を負ってしまう。
怪我をさせた相手も故意ではなく完全なる試合中の事故だ。
その事故をきっかけに真春に怪我をさせた選手・山田は薙刀から離れてしまう。
大きな挫折を経験すると、そこで全てが終わってしまう感覚がある。
しかし作中の大人達の様子を見ると、現役という「今」だけではない「未来」もあることを我々読者にも示してくれるシーンが多数存在するのも魅力のひとつなのだ。
▼若者を見守る大人達の目線
二ツ坂高校の監督となった福留自身、現役時代の試合で仲間の足に負担を掛けさせ選手生命を奪ってしまった過去があった。
そんな彼女が二ツ坂の部員たちと関わることで前進する。
また、真春に選手としての将来のことを慮りインターハイ出場を止めた、怪我で引退経験のある寿慶に対しやす子は過去のモノサシで今の選手を測るなと嗜め、寿慶も考えを改めている。
過去に辛い経験をしてもまた乗り越えられるとその背中で教えてくれる。
そして普段はほとんど活躍を見せていない顧問の小林先生も、真春が怪我をし今後インターハイに出場するのを止めるかどうかの選択を医師に尋ねられた際も「今オレの前で決めちゃダメだ」とすぐに答えを出させなかった。
すぐに結論を求められる場面の多い今の時代で、こう発言出来る教師は貴重だと感心し好感が持てる。
この作品は旭達と同じ年代で読んだ時とやす子達の様な大人になってから読むと、内容感じ方はまた違ってくるだろう。
ある程度月日を経てから読み返して捉え方の変化を楽しむのもいいかもしれない。
▼それぞれの勝負に対する想い
有望選手の真春の怪我というハンデを抱える二ツ坂。しかし、二ツ坂以外にも様々な状況で困難を抱え試合に臨む姿がある。
優勝候補レベルでありながら熊本東の壁を越えられない弦平
三人だけの部員の為、団体戦で全員の勝利が必須の出雲英豊
負けた瞬間に挫折と汚名を背負うことになる熊本東
彼女達の心中を知ると、どのチームにも勝って欲しいと願わずにいられなくなる。
インターハイという舞台での試合の勝敗は大事だ。しかし、寿慶の
「闘い方とは、生き方だ。正しいも間違いもない。」
この言葉の通り、勝負以外の正解の無い一人一人の生き方、試合への捉え方にも注目して見て欲しい。
オンラインイベント情報
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名言
本当はもっと、高校生活は楽しい事があるのかもしれません。 遊んだり、買い物に行ったり、デートしたり。 でも、私達はもうとっくに、後戻りできないところまで来てしまっているのです。
”今日の主人公は”、”私”。そう思ってりゃいいのよ。
私の望みはヒーローになることじゃない。 チームが勝つ事なんだって。
感情で打つんじゃない。 気持ちで打ちなさい。
嬉しい時も、辛い時も、元気な時も、そうでない時も、生きている限りずっと。 私はそんなふうに薙刀を続けていきたいのです。
作者情報
こざき亜衣先生のTwitter @kozaki_ai