2021年11月22日に発売された『東京サラダボウル ー国際捜査事件簿ー』は、刑事(女性)×警察通訳人(ゲイ)のバディがあらゆる国際事件の解決に挑む物語。
多様化した現代の東京における警察バディものという新しいテーマに意欲的に取り組んだ本作。マンガの好みにばらつきのあるライター4名で座談会を開催し作品の感想や魅力を語り合ったところ、さまざまな視点で楽しめるマンガであることが明らかに!この記事ではそんな座談会の様子をお届けします。
座談会に登場するライター
Ato Hiromi
少女マンガと社会派マンガ好き!話し出すとつい身振り手振りが大きくなってしまう。
江口ひろ
リアリティのある社会派マンガが好き。緊張しいなので人前で話すときはいつも早口。
もり氏
スポーツマンガが好き。声が低すぎて基本的に何を言っているかわからない。
Kanna Sato
どちらかというと少年・男性マンガをよく読む。この座談会の進行役。
※本記事には『東京サラダボウル ー国際捜査事件簿ー』のネタバレを含みますが、作品の読前読後、いずれのタイミングでお読みになっても読書体験を阻害しないよう最大限の配慮を行っています。気になる方は以下の試し読みを先にお読みください。
👉作品のレビュー記事はこちら
座談会スタート
本日はよろしくお願いします!まずは皆さんの率直な感想からお聞きしたいです。
シンプルにすごく難しいテーマを描こうとしているなと思いました。「警察通訳人」という職業も、東京に住んでいる外国人の割合なんかも全然知らなくて。マイノリティといっても実数にするとたくさんいることに改めて気付かされました。
僕は現実で誰かが体験している自分の知らない世界を体感させてくれる作品がすきで……例を挙げると『健康で文化的な最低限度の生活』や『闇金ウシジマくん』とか。そういう意味で、この作品も好みドンピシャでした。
私はもともと連載を追いかけていて、テンポが良く続きが気になる作品だなと思っていました。
私も江口ひろさんと同じで現実社会の話がすきなのですが、自分が外国人に日本語を教えていた経験があって、本作で描かれている内容をリアルに感じました。「そうそう、外国人って実はこんなことで悩んでる」とか「こんな背景があるんだよね」と思いながら読んでいます。
たしかに!作中で中国人の被疑者が「中国人の通訳連れてこい」と言うコマがあるんですが、そういうことって実際ありそうだなあと思いました。言語の問題だけじゃなくて、通訳人によって相手が対話をする姿勢まで変わるというか……。
説明しない導入が巧妙
本作は、扱うのが難しいテーマかつ警察に関する専門知識なんかも必要ですよね。この先事件もどんどん複雑になっていくのかも?
たしかに難しいんですけど、読者が興味を持てるような工夫が秀逸だなと感じていて。第1話のスタートから一気に説明だらけだと拒否しちゃう人もいそうですが、具体的なシーンから始まったりグルメ要素を入れたりして、ふたりの物語を追っているうちに気がついたら知識を得ている感じで、導入がすごく巧妙だと思います。
グルメっていうのはゲテモノ料理のことですね(笑)たしかに説明的でないところは大きな魅力のひとつです!みなさん他の魅力についてはどうでしょう?
「全員がマイノリティ」という新しさ
感想でも触れましたが、時代を反映していながらも、なかなか僕たちが触れることのない世界を切り取っているところがいいなと思います。
そうそう、実は私も警察官になりたかったんですよ。(一同「えー!」)
その時も女性の募集が本当に少なくて「えっ、これだけ!?」とがっかりして、狭き門で諦めてしまったんですけど……未だに状況が変わらないんだなって。そういうわけで、個人的には女性警察官の心理描写が気になっています。
あと、女性刑事の鴻田さんとゲイの警察通訳人の有木野さんが対照的なキャラクターとして描かれつつもマイノリティという共通点を持っているところがいいなと思います。そんなふたりのこれからの物語が楽しみです。
マイノリティを扱う作品って増えてきてますけど、今回でいうと被害者、容疑者、警察、すべての立場がマイノリティなのが魅力的ですよね。
「新しい価値観にアップデートしよう」というものって、どちら側かが虐げられて戦うっていう構図になりがちなんですが、全員がマイノリティということでさらに新しい価値観を提供してくれそうです。
あの、ちょっと脱線するんですが、有木野さんってゲイなんですか?
あ、そうですよ!
作品のアオリ文に書いてまして……!ネタバレした感じになってしまった(笑)
そうだったのか!なんかみんなサラッと話してるのでびっくりしました(笑)
知って読んでいると、さり気ないシーンがそれを暗示しているのがわかりますよ!
いろんな読者に刺さる!まさにサラダボウル
マイノリティの話題が出ましたが、『東京サラダボウル ー国際捜査事件簿ー』はどんな方がハマりそうだと思われますか?
Palcyは胸キュン系の作品が多いですが、本作は国際捜査という題材から青年誌もすきで読んでいる女性にはハマりそうだと思いました。私自身、胸キュンものばかり読んでいると時々胸焼けしてしまうこともあって(笑)
感想でもお話したような、自分の知らない現実社会を描いた「リアリティもの」というのはジャンルとしてあると思っていて。自分とまったく違った人生を人間ドラマで身近に感じさせてくれるマンガがすきな人は、僕と同じようにハマりそうだなと思います。
たしかに!紹介文などからマイノリティという入り口で読み始めてしまったところがあったんですが、実在する人の物語という意味では「マイノリティを扱った作品」といちいち括らなくていいのかも。
僕もはじめはKannaさんと同じように「マイノリティを扱う作品」という入り方だったんですけど、実際読んでみると少女マンガとしても青年マンガとしても違和感なく受け入れられて。作品自体がサラダボウルというか(笑)
あとは性格が正反対な男女ふたりの「バディもの」としてもおもしろく読めそうな気がするので、そういう関係性にグッとくる読者にはハマると思いました。
うんうん。これまで「マイノリティの生きづらさを理解する」みたいな感覚が一般的でしたが、もう一歩先の「誰にでも生きづらさがある」という話をしていく物語なのかもしれないですね。
さっきの、有木野さんがゲイだと僕が気づかなかった話もそうですが、例えば登場人物の血液型をわざわざ説明しないのと同じように、LGBTもあえてカミングアウトしなくていい、という温度感で描いている気もしますね。
現実で考えても、初対面で「はじめまして、僕はLGBTです」なんて言わないですもんね。長い間話をしていくなかで自然に知る感じがリアルですよね。
実写版だったら俳優陣は……?
本当にそうですね。そのリアルさにも関連して、この作品は実写化が向いている気がするのですが、みなさんはいかがでしょう?実写化/アニメ化など。
先日の00:00 STUDIOでの黒丸先生のインタビューで、先生が「鴻田さんを緑色の髪にしたのはビリー・アイリッシュの影響」とお話しされていたので、実写化の際はビリー・アイリッシュになるんじゃないですかね?(笑)……というのは冗談ですが、リアルに実写化あると思いますね!
私も勝手に出演者を予想してました!鴻田さんは波瑠ちゃん、有木野さんは中村倫也くんとか向井理くんとか。ふふふ。やっぱりアニメっていうよりも実写のイメージですね。
僕は、有木野さんは西島秀俊さんのイメージでした。
わかります!でも年齢的にもう少し下の方なのかなーって。
たしかに西島さんはちょっと上かもですね。うーん、痩せているときの鈴木亮平さんとかも合いそう。配役予想楽しいですねー!
すきなシーン、これからの展開など
最後に、まだこれからおもしろくなっていく段階ではありますが、本作に期待することや現状ですきなシーンなど自由にお聞かせいただけますか?
東新宿署が舞台になっているんですが、あのあたりって今実際に中国の方だけでなくアジアを中心に本当に多様な国の方々がいらっしゃって。有木野さんが中国語訳者という設定の都合などもあると思いますが、今後他の国の事情なんかも絡んできたらおもしろいなと思っています。
あとは主役のバディふたりの関係がどうなるのか、キャラクターがどう成長していくのかが楽しみですね!
すきなシーンで言うと、キャンディという中国人の女の子に鴻田さんが話しかけるところで。日本語だから理解できていないはずなのに思いが伝わって、キャンディが顔を上げて目を輝かせる。そして有木野さんが通訳をしたことで一気に涙を流す、という感情が2段階に高まっていくところが、この作品ならではという感じがしてすきなんです。
おおー、さすが、見つけますねー!
同じシーンで有木野さんが「おれ”たち”」とあえて訳すところがすきですね。彼がもともと「通訳で感情移入はしない」と強く宣言していた人だからこそ、人間らしさを感じて……。
たしかに今後も、有木野さんが感情を高ぶらせる場面はヒキの強いシーンになりそうですよね。そこにキュンとする読者もいそうだなあと思います。
関連してすきなシーンは、有木野さんが「通訳するときは意訳せず、一言一句そのまま」というポリシーを話して、鴻田さんがそれに賛同するところですね!
言葉の扱い方ってすごく個性が出るところだと思うので、ふたりがなにか大切な部分で通じ合っている感じがしてすきです。
それでいうと、鴻田さんが中国人男性の荷物を調べているとき、男性が「あいつ止めてくれよ」と有木野さんに言ったのを、そのまま訳してるところおもしろかった(笑)
ほんとだ、そこおもろい!(笑)
いやあ本当にいろんな話ができました。これからどうなっていくか楽しみです。みなさん、本日はありがとうございました!
テーマにとらわれずドラマを楽しんで
日本に住む外国人、社会にいるセクシュアルマイノリティ、警察で働く女性。多様化が進んだことで、切り口によっては誰もが「マイノリティ」となりうる現代。
それが決して我々と切り離された世界での出来事ではなく「現実のどこかで誰かが体験しているリアルな生活なんだ」という実感として届くのは、あくまでも登場人物たちがくり広げるドラマとして語られるからです。
警察ものやバディものとして、心の動きが緻密に描かれる女性マンガとして、社会に切り込む青年マンガとして、人と人との関わりあいが描かれるヒューマンドラマとして……。あらゆる視点から楽しめるまさに「サラダボウル」のような本作。これからどんな事件が起こり、このバディがどんな関係を築いていくのか、一緒に追いかけていきましょう!
「紅焼猪脳(ブタの脳みそ炒め)」食べたことある?
作者 黒丸先生へのインタビュー記事はこちら
第1巻のレビュー記事はこちら
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