雪花の虎

東村アキコ / 著

戦国の世を、義を貫いて駆け抜けた軍神・上杉謙信。毘沙門天の化身とされる名将中の名将は、実は、女だった―――時は享禄二年、1529年。越後の春日山城城主・長尾為景の第3子が誕生する。不甲斐ない嫡男・晴景に代わる後継ぎとして期待された赤子は、しかし女児だった。失望する為景だったが、すぐに決意を新たにする。「この子を、姫武将として育てる」「名を虎千代とする」と――強い父、やさしい母、穏やかな兄、健気な姉に囲まれ、小さな山城でお転婆に育つ虎千代。その双肩に背負う運命の重さを、未だ知るよしもなく……。東村アキコが挑む本格大河ロマン、越後の虎、女・上杉謙信の一代記がいま、始まる!!

3行でわかる雪花の虎

  • 上杉謙信は女だった? 歴史の「IF」を大胆に解釈して語られる越後の虎・上杉謙信に秘められた謎の生涯

  • 毘沙門天の化身と予言され生まれた赤子は女子だった。虎千代と名付けられたその子は、野を駆け剣を振るう腕白として育っていく

  • 歴史に興味ある人も苦手な人にも、東村アキコ先生が巧みな構成で誰にでも判りやすく解説。もしもの歴史もしもの世界が、面白い!

作品概要

東村アキコ先生著のビッグコミックスピリッツにて連載され2020年10月26日本誌で最終回を迎えた『雪花の虎』は戦国武将・上杉謙信女性説を基に創作された女武将・謙信を主人公にした歴史マンガ。

掲載誌

「ヒバナ」(2015年3月~2017年3月)

「週刊ビッグコミックスピリッツ」(2018年1月~2020年10月)

受賞歴

第47回アングレーム国際漫画祭:ヤングアダルト賞

登場人物紹介

上杉謙信

(元服時は長尾景虎、31歳時は上杉政虎、上杉謙信は40歳の時に改めた名前)

雪花の虎

毘沙門天の生まれ変わりと言われ、姫武将として育てられる。

家臣をはじめ周囲に「虎様」と呼ばれ人望があり越後(現在の新潟県)の為に戦った。

武田信玄

雪花の虎

甲斐国(現在の山梨県)の武田家当主。謙信とはライバル関係。

あらすじ

越後の春日山城当主・長尾為景(ながおためがけ)は、妻・お紺の夢枕に毘沙門天が立ち「現世に生まれ変わる為に腹を貸して欲しい」と告げられた事を聞き期待に胸を膨らませていた。

雪花の虎

しかし、実際に生まれたのは女子。一度は落胆したものの、為景はお告げを信じ「虎千代」という男名を付け姫武将として育てる決意をする。

雪花の虎

その後成長するにつれ頭角を現し、成人して武将となった後、有名な「川中島合戦」で武田信玄と戦う事になる。

作品の魅力

▼東村先生によるわかりやすい歴史解説

歴代の武将達が戦うゲーム「戦国BASARA」に登場する上杉謙信をはじめとした上杉謙信女性説を取り扱う作品があるものの、どんな根拠で女性説が出ているか詳しく知らない人も多いのではないだろうか。本作では女性説の根拠を東村先生が具体的に説明しており、女性説に違和感を感じさせない。

雪花の虎

マンガ下部のは時折東村アキコ先生が読者にわかりやすく解説をしてくれる「ティータイムコーナー」を設けており、歴史に対する苦手意識や途中で挫折してしまうという事が起きない様に工夫されている。

雪花の虎

それに加え、上杉謙信の肖像画を実際に見た東村先生の実体験も描かれていることで「その可能性があるかもしれない」と思わせ作品に引き込まれていくのだ。

雪花の虎

▼史実を基にした謙信のカリスマ性

自身の国の橋の修理を公共事業を民間委託するという他国には無い形で補う柔軟な思考力、

雪花の虎

謙信に助けを求めた関東管領である上杉憲政(うえすぎのりまさ)の為に屋敷を建てて住まわせたりと人への情けに厚い様子が描かれており歴史的知識を得られると共に女性だから出来る思考、行動なのかも知れないと納得させられる。

雪花の虎
雪花の虎

▼人間模様の描写

謙信は天下統一等願わず、越後を守る為、助けを求めた人の為に戦う。

雪花の虎

過去に謀反を起こされた事があったものの、それ以降は謙信自身の才覚や人望に惚れ込み従う優秀な仲間達に恵まれて性別に捕らわれない謙信の魅力が伝わる。

雪花の虎

また女性としての生きづらさについても触れられている場面も多々あるが、男の様に振舞う謙信を幼い頃から見守り、常に根底にある女性らしさを肯定し続け精神的な支えとなっていた林泉寺の僧侶・益翁宗謙(やくおうしゅうけん)の存在が描かれている事が読者にも安心感を与えてくれる。

雪花の虎

一方で、敵である武田信玄についても戦う背景を丁寧に描く。

幼い頃、父に嫌われ泣いていた信玄の元に暗殺目的で山本勘助が現れる。しかし醜い容姿で蔑まされていた自分を同じ人間と言って認めてくれた事に感激し彼に仕える立場になった二人の信頼関係を見ていると冷酷な信玄に対しても思わず心動かされ応援したくなってしまう。

雪花の虎
雪花の虎
雪花の虎

歴史に限らず、人は個々による思考・信念があり、その人の立場で物の見方は異なるので善悪や敵味方も自分自身の捉え方次第なのだと気づかされる場面があるのもこの作品の魅力の一つだ。

▼歴史に想いを馳せる楽しさと物事への柔軟な姿勢を教えてくれる

かつて「1192(いい国作ろう)鎌倉幕府」と覚えた年号も、現在は「1185(いい箱)作ろう鎌倉幕府」に変化している様に、歴史は常に更新され、事実が次々と変化していく事に戸惑いを覚える事もある。

将来、上杉謙信について更に新たな事実が判明するかもしれない。

しかし結局のところ、過去の出来事は、当時を生きた本人達しか知る由もないのだ。

作中には謙信の恋についても描かれていて「こんな事があったかもしれない」と想いを馳せるのも歴史創作の醍醐味だと教えてくれる。

性別に捉われず自分を貫いた謙信の様に、自由で柔軟な姿勢で物事を見る素晴らしさを『雪花の虎』を通して感じて欲しい。

名言

雪花の虎

男にできて女にできないことがあるように、男にできないことを女がやればいい。

引用元:1巻 208p 雲水の台詞

男の様に教育された謙信の女性である事を宗謙が肯定する場面。

彼の存在が無ければ謙信の生き方もまた違っていたかもしれない。

雪花の虎

女子の心は猫の目のように変わるのじゃ。気まぐれな雌猫に仕えるのが嫌ならば…お前が儂を虎に化かしてみぃ。

引用元:5巻118P謙信の台詞

謙信のブレーン・宇佐美が「今の貴方では信玄を倒せない」と忠告した場面。

感情的になって切り捨てずに自分を強くしろと言う姿が勇ましい。

作者情報など

東村アキコ先生Twitter
https://twitter.com/higashimura_a

『雪花の虎』公式Twitter
https://twitter.com/yukibananotora

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