心、味覚、好き、嫌い。
愛する人の趣味嗜好がある日突然変わってしまう。それでもあなたは相手へ向けたその気持ちを抱き続けることができますか？
その問いの答えは、崩壊した世界で変わりゆく相手を愛し続ける一人の少女の物語『あげくの果てのカノン』にあるのかもしれません。
崩壊した世界で運命の再会を果たす
ゼリーと呼ばれるエイリアンの襲来によって廃墟と化した東京。
この街に住む本作の主人公・高月かのんには、高校時代から実に9年間想い続けている人がいます。
それは、ゼリーと闘う国家の特殊部隊「SLC」に所属する境宗介こと境先輩。爽やかなルックス、そして持ち前の正義感でSLCの隊員として活躍する国民的ヒーローです。
そんな境先輩に高校の卒業式で告白をして振られた経験を持つかのんでしたが、かのんが働いている喫茶店で奇跡的な再会を果たします。
境先輩が自分のことを覚えていたことに驚きと嬉しさを隠せないかのん。
さらには、境先輩から誕生日を祝ってほしいと言われ、かのんと境先輩は急接近します。憧れの人と突然再会し、デートの約束もして順風満帆に思えたかのんの恋。
...唯一、境先輩に奥さんがいることを除いては。
一途な想いと狂気
全ての始まりはかのんが境先輩を一途に想う気持ち。
高校の卒業式で失恋をしてしまった後も彼を思い続けるかのん。その想いの強さは、時には狂気じみた行動となって本作にも現れます。
1.彼のスクラップブック
国民的ヒーローである境先輩。
新聞、雑誌の取材記事は全て切り抜きスクラップブックに保存しています。このブックを眺めればいつだって境先輩に会えます。
2.彼との会話は録音
境先輩が喫茶店に来た際は、録音機器のスイッチをオン。もちろん何度でも境先輩の声を聴くためです。
3.とにかくいくらでも語れる
久しぶりに再会した同級生とお茶をしている時、話題は境先輩に。
境先輩について1聞かれたら100どころか10,000で返すのがかのんです。
闘うたびに変わっていく彼の想い
ゼリーから国を守るべく闘う境先輩。結婚している身でありながらかのんに迫る境先輩ですが、彼には大きな秘密があります。
それは「修繕」という治療の副作用によって心変わりを起こしてしまうこと。特殊部隊SLCの隊員は負傷すると、千切れた手足も元通りにするほどの「修繕」という特別な治療を施されます。
その修繕の副作用として、食や趣味の嗜好が変わったりしてしますのです。そして、その副作用は恋愛にまで影響を及ぼしてしまうのです。
喫茶店で再会したかのんに対して突然好意的な態度を取ったことも、この副作用の関係でした。
そんな「心変わり」を食い止めたい一心で、同じ特殊部隊SLCで研究に励むのが境先輩の妻である初穂。ゼリーと戦うたびに修繕を繰り返し、どんどん変わっていく夫。そんな彼の心を繋ぎ止めたい初穂は研究に打ち込みます。
初穂が夫との関係に釘を刺すかのようにかのんに会いにいく姿は、不倫劇という言葉では片付けられないような切なさを感じます。
不倫と呼ぶにはあまりにも
一見すると、不倫関係にあたる境先輩とかのん。
ですが、修繕によっていつ自分が変わってしまうか分からない恐怖に苦しむ境先輩を、高校時代から変わらず想い続けるかのんは、彼にとって唯一の救いになっているのです。
そして、かのん自身も、境先輩のかのんへの気持ちがいつ変わってしまうか分からないという、危うく脆い関係性を受け入れます。
かのんと境先輩の関係性は”人や世界が変わっていく中で、人を変わらず愛し続けることができるのか？”と私たちに問いかけているような気がします。
この恋の果ては
「あげくの果て」。
この言葉は「結果、または紆余曲折を経た結果」を意味し、あまり好ましくない結果に至った場合に使われることが多いそうです。
崩壊した世界で、心変わりをしてしまう境先輩を想うかのん...。
彼女の恋の顛末は『あげくの果てのカノン』をぜひご覧ください。
SFというにも不倫というにも、表現する言葉が足りなさすぎる物語
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