『きのう何食べた?』『大奥』等、数々の作品を輩出するよしながふみ先生のヒューマンドラマ短編集『こどもの体温/彼は花園で夢を見る』をご紹介します。
よしながふみ先生が描く「家族」の光景
『きのう何食べた?』では主人公が同性愛者であることをなかなか認められずにいる両親、そして『大奥』では将軍の血筋の歴史から顕される、共に「家族」というものをよしながふみ先生は様々な面から表現しています。
短編集『こどもの体温/彼は花園で夢を見る』でも日本と中世の異国の若い青年を中心に「家族」をテーマに奥深く描かれています。
この短編集は元々タイトルの通り「こどもの体温」と「彼は花園で夢を見る」と別々の短編集として発行されており、現在は文庫版で合併して構成されています。
こどもの体温
短編集の同タイトル「こどもの体温」は上手く育ったと思っていた中学生の息子・紘一に「クラスの子を妊娠させたかも知れない」と言われショックを受ける父・酒井が検査の為に相手の女の子・森と二人で産婦人科へ行くというストーリー。
中学生が性体験をしているという事実に「今時の子供は理解出来ない」と思っていた酒井が、些細な会話の中で自分が中学生の時と変わらないと知り親しみを覚えるという展開が穏やかつ静かに描かれています。
「ホームパーティー」では酒井の妻・加菜子が亡くなって一年後に加菜子の実家を訪れた際に義父のホームパーティーの料理の準備をするというストーリーなのですが、登場するメニューや調理の描写が細かく、見ているだけで食欲をそそり『きのう何食べた?』を彷彿とさせます。この料理は亡き加菜子のレシピであり、死んだ後もレシピや想い出として家族の記憶に残っている様子が素晴らしくて優しい気持ちにさせてくれます。
他にも酒井の大学の後輩二人が事故に巻き込まれ複雑で切ない状況下において奇妙な同居生活を始める話や、紘一の同級生の天才バレエ少年が母親への後悔の念を抱き迷う話等のエピソードが纏められており、同じく「家族」をテーマにした柴門ふみ先生の短編集『家族の食卓』を彷彿とさせ、どこか懐かしさと安心感をもたらしてくれる作品集です。
彼は花園で夢を見る
第一話に位置づけられる「男爵令嬢」は、戦争により孤児となった青年ファルハットが音楽師のサウドに拾われ義兄弟として共に生きていき、ある国の男爵に気に入られ城に滞在する所から始まる物語。
その男爵の養子の令嬢・アンティエットと出会い、彼女がサウドの生き別れの娘であることが判明し二人が城から旅立ったことでファルハットはサウドと別れを惜しみながら男爵のお抱え音楽師として生きていくのです。
同タイトル「彼は花園で夢を見る」はファルハットが主人公ではなく、青年時代の男爵・ヴィクトールの回想の物語です。
結婚相手と思われる少女・イザベルと恋愛関係になりながらも、その後彼女は流れ者の男に殺され、ヴィクトールはイザベルの姉妹・ラウリーヌと結婚します。
愛情の無い夫婦生活を過ごしたある日、戦争の遠征から帰省したヴィクトールの目に一面の美しい花々が飛び込んで来ました。
それはヴィクトールへ少しでも心慰めになって欲しいというラウリーヌの愛によって育てられたもので、そこから改めて二人の愛情が生まれます。
草花を愛でるラウリーヌの様子が描かれたシーンは1枚の絵画の様に美しく、ヴィクトールの目線、心情になった錯覚に陥りそうになる程です。
全体的に「こどもの体温」と比較して悲しさが漂いますが、最終話にあたる「夢を見たあと」はハッピーエンドです。
家族の数だけある家族の物語
自宅で家族と過ごす時間が多くなり、楽しいだけではない感情が募る場面もあることと思います。そんな時にこの「家族」というとても身近でありながら一筋縄ではいかない関係性を丁寧に描く、よしなが先生の作品に是非触れてみて下さい。
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