その可愛らしい見た目とは裏腹に、なんとも複雑で奥の深い物語に思わず引き込まれる！張り巡らされた伏線の数々、想像が広がり続ける唯一無二の世界設定。『シャドーハウス』。その影が照らし出すのは、わたしたちの想像力なのです。
あらすじ
”生き人形”と呼ばれる少女少年達と、煤（すす）を産み出す漆黒の身体の”シャドー一族”。主人公エミリコは、何もかも黒く塗りつぶされその表情さえ伺い知ることが出来ないシャドー一族の一人、ケイト・シャドーに仕えるためだけに「作られた」存在だった。
与えられた役目を健気にこなす。そんな日々に疑いを持つことを許されず、顔無き主人の世話をするためだけの日々。しかし、その世界には秘密があった。
shinotokino
この健気さと可愛らしさ…！
「シャドーハウスについて余計なことを考えてはいけない」
これは生き人形に課せられた約束。そして、読者であるわたしたちに投げかけられた枷<カセ>。
たった一つの言葉に、読む者の想像力が試される。全てが2重構造で組み立てられた、前代未聞のバディストーリー。
『シャドーハウス』を読む為に必要なたった一つのこと
エンターテインメントの殆ど全ては、娯楽としての最終的な完成度を、オーディエンス（読者や視聴者、プレイヤー）に依存しています。未完成の作品を読者が心の中で完成に持っていくのではありません。100%の完成作品を読者が心の中で参加して120%に昇華させるのです。
夢中になれる作品の定義の一つ（あくまで「一つ」ですよ！）として、そもそもその作品世界の中に「自分」がいることが重要です。登場人物そのものかもしれませんし、その作品世界への強烈なシンパシーかもしれません。それら何かしらの感情移入（自己投影かもしれませんが）を沸き立てる作品に出会ったときの驚きと喜びは最高です。
shinotokino
この圧力に息を吞み、こちらもその見えない表情を考えてしまう
（作品とオーディエンスが）お互いに良い距離を取り合ってお互いを信用して補完し合うのが理想的な関係です。
作品とオーディエンスだけではない、対になる関係の数々。2つの力のせめぎ合い。この関係というキーワード視点から『シャドーハウス』を読むと面白いことに気付くことができます。
『シャドーハウス』は、その「関係」が際立つマンガ作品なのです。
せめぎ合うもの
人物の「光」と「影」
言うまでも無く主人公のエミリコと、彼女が仕えるケイト・シャドー。光が陰に表情をもたらし、陰が光を一層輝かせる。それぞれがお互いを照らし浮かび上がったものから自分を成長させる種を発見していく。その描写の妙技といったら！
shinotokino
まさに姿見に映ったかのようなこのコマが素晴らしいです
世界の「光」と「陰」
二人の掛け合いの楽しさと、二人が住む世界の不穏さのギャップ。あの言葉を思い出さずにはいられません。
「シャドーハウスについて余計なことを考えてはいけない」
逆説的に考えれば簡単です。詮索を禁ずるのは、そこに秘密があるからです。読者のモヤモヤをほぐす様に、物語は少しずつ少しずつその陰に近づいていきます。
「作品」と「読者」の想像力
心を持たない人形に魂を入れるのは、ケイトと読者の想像力。
顔を持たない少女に感情を与えるのは、エミリコと読者の想像力。
そして作品は読者に想像力を求め、試し、読者は作品に想像力をぶつけ、融合していきます。
shinotokino
いや、判ります！僕だけのケイトが僕には見えます！
見えない（描かれない）ものを想像することで浮かび上がる登場人物達の表情や感情は、読者の心のキャパシティ毎にそれぞれ少しずつ異なります。参加者毎に異なるSNSのタイムラインのように、『シャドーハウス』は読む人ごとに違う表情を見せる作品と言えるです。
マンガは次のステージへ
『シャドーハウス』を読み進める内、やがて自分と作品は対峙していることに気付くでしょう。それは想像力と補完力のせめぎ合い。作品の正解を求めている自分と、作品の中に自身を探している自分がそこにはいます。
新機軸メイドコミックの形を借りた、作品世界の謎を徐々に紐解くサスペンスミステリーというだけでも充分楽しめます。
顔が無い主人公と自我が無い主人公のバディストーリーの角度から見ると、そんな単純な物語では無いのかもしれません。
ほらここでも作品への視線が2重構造に。
マンガの形を借りたDNA。『シャドーハウス』の螺旋から生み出されるエンターテインメントの新しいカタチを、是非体験してください。
shinotokino
マンガの新しい朝を示す暗示するナイスなコマ！
