人を惹きつける”魅力”の本質に近づける、美術の世界に魅了された主人公・矢口八虎の成長と発見の繰り返しの物語。
美大藝大を一度は目指したあなたに、辿り着いたあなたに、八虎と同じ”今”のあなたに、卒業してなお美術の本質を求め続ける永遠のあなたに。そして知らない世界を爛々としたまなこで見る、知的好奇心が溢れ出しているすべてのあなたに!読んで欲しい!!
あらすじ
人に合わせて生きてきた。人の言葉に逆らわず相槌を打ってきた。渋谷の夜、いつもの様に仲間と遊び騒ぎ飲み笑う。高校2年生、金髪の少年・矢口八虎はそうして生きてきた。要領と愛嬌で漂う高校生活が、ある出会いを切っ掛けに変貌していく。
ある日、偶然目にした先輩の油絵に引き込まれそうになる八虎。絵の魅力とは何だ?その絵は、何を言いたいのか?…!
誰が描いたの?
山口つばさ先生は、今をときめく新海誠監督の初期作品「彼女と彼女の猫」のコミカライズでデビュー。続く本作「ブルーピリオド」はマンガ大賞2019にて第3位、このマンガがすごい2019 オトコ編で4位を獲得、新しい切り口の作品にも係わらず熱い支持を集めています。
先生は主人公・矢口八虎が目指す東京藝術大学卒業で、もちろんその経験から語られる物語は臨場感に満ちています。
先日ご結婚され、招待客70名分の似顔絵と、その皆さんの紹介を兼ねたゲームソフトをご夫婦で作ってしまった山口つばさ先生。
https://twitter.com/28_3/status/1105099393944829953
ご結婚おめでとうございます!絵に描ける情熱、最高です!
芸術は何を語るのか?
表現とはコミュニケーション。言語だけでは伝わらなかったものを伝えるもう一つの言葉。そこに込められた意思が人に伝わること=ならば音楽も、映画も、ゲームも、そして勿論「絵」も。人の心を現す表現手段はすべてコミュニケーションなのです。
それを通じてあらゆる人々と、世界の見知らぬ何処かの人とも会話が出来きる。そうやって表現者の意思は伝わり世界へ拡散していきます。八虎は東京藝大入試を通じ、その力を芸術の中に見つけていきます。
伝えることを繰り返し
本作の中で語られるのは「伝えること」の大切さです。
さしたる目標もなく、大学の進学先に「ちゃんとしたとこ」を選ぼうとしたり、家庭事情に忖度して「学費が安いとこ」で考えていた八虎が、何かに心を突き動かされ想いが膨らみ初めて夢を持った時、その夢を母親に「伝える」為に必要なものは母親の絵を描くことでした。
描かなければ気づけなかったとこがあって、描いたからこそ伝わる気持ちが生まれのです(第2巻35頁〜)。絵にして、気持ちにして、言葉にして。伝えようとしなければ伝わりません。
知ろうとしなければずっと知らないままだったのです。
予備校の世田介からは常に言われっぱなしだった八虎(第2巻110頁〜)が、絵に出会い世界を見る目が変化したと自覚した時、自分の気持ちを世田介に対して正直に言います(第3巻176頁〜)。
それは初めての意思表示であり世田介に向けてのライバル宣言でした。成長したからこそ出せる言葉。絵を描いていたこそ実感出来た自分の変化。その変化に背中を押された言葉です。
八虎が絵の世界を選んだことを見て、恋ちゃんも一度は諦めていた道を選ぶことを告白します(第4巻92頁)。親友同士だから言えること、ぶつけられること。涙さえも言葉になって、気持ちのキャッチボールが心地よい素晴らしい展開です。
手段は様々。でも伝える意思は勇気で、伝えることは進む為に不可欠なステップです。
ブルーピリオドのちょっと小ネタ
鉛筆
鉛筆は宗教戦争なので、それぞれこだわりのメーカーがあるものの、削り方はこれ一択。(木炭デッサンでは)ケシゴム代わりに食パンを使う、お腹が減ったら食パンを食べる、なんてのも都市伝説ではなくアルアルな光景です。
学祭
美大藝大の学園祭の賑やかさは異常!どこかのブランド?と見間違えるようなハンドメイドのファッション雑貨の販売から、この晴れの舞台を目指して制作された作品の数々。学生ならではの微妙に稚拙な展示から、これもう完全にプロ裸足と思ってしまう素晴らしい展示物まで。
学園祭には学生や一般人に交じって青田買いのバイヤーやギャラリーの方もやってきて、これぞという作品にレターを残していきます。それを鑑賞の一つの目安にするのも手ですね!
人は表現で繋がっている
何かをしたくなる。何かを伝えたくなる。自分の中に眠っている何かが目を醒ます、そんな青春の物語。戦う相手は自分自身。もう一度、大学生活の一歩手前に戻れたら…!