大友克洋監督・脚本で2007年に映画化もされた『蟲師』は、ヒトの目には見えない蟲による病や現象と対峙していく蟲師・ギンコを語り部とした物語です。自然や生命への畏敬を思い起こさせる摩訶不思議な出来事とヒトと蟲の関わりや蟲の営みに強烈に惹きつけられます。
実は、ドイツ人の友達と好きなマンガの話をした時に、最初に名が出てきたのが『蟲師』なんです。いやー、すごく好きなマンガなので嬉しかったです!すごく日本的なマンガだなぁと思ってたんですが、ドイツでも広く読まれてるなんて感激。
ドイツ語で「ムシ」って言うと、日本とはぜんぜん違う意味になるみたいです。ドイツ語の「ムシ」の意味は記事のラストに!
禁種の蟲を封じた一族
『蟲師』は短編構成なのですが、特に好きな話は淡幽(たんゆう)という女性が出てくるお話。彼女は狩房家という特殊な家の出なのですが、この家の先祖はかつて、世界を滅ぼそうとした禁種の蟲を自身の体に封じたことがあったのです。
それ以来、子孫には体の一部に「墨色のあざ」を持って生まれる子が現れました。このあざを持つ子孫は代々、筆記者として禁種の蟲を封じ続ける役目を担います。淡幽は狩房家の4代目の筆記者でした。
ナレーションの文章も物語に深みを出していて、読み進めると細胞一つ一つにストーリーがじわじわしみ込むようで最高なんです。
蟲の封じ方が独特!
すでに体に憑りついた蟲をどうやってさらに封じるのか。狩房家では蟲退治の話を集めていて、その話を「書き記す」ことで体の外に蟲を出しているのです。書き方もペンとかで書くわけではなく、体から文字がにじみ出るみたいに残すんですね。
この記録は狩房文庫と呼ばれているのですが、膨大な量の蟲に関する記録なので、蟲師の間では非常に重宝されています。筆記をつづけることにより、淡幽の体のあざも少しずつ、少しずつ薄くなっていますが、それも本当にわずか。墨のあざを持った足で、淡幽は満足に歩くこともできません。
淡幽が歩けるようになったらしたいこと
生きている間に歩けるようになるかも分からない淡幽ですが、もしも足が治ったら「ギンコと旅がしたい」と言います。蟲を殺す話ばかり聞きつづけ、しかし役目を拒否することもできない淡幽にとって、ギンコの持ってくる「蟲を殺さない話」は癒しでもあったのです。
なんか告白っぽい淡幽の願いに、ギンコは「いいぜ」と答えます。でもそれまでに蟲に食われちゃってるかもなー、っていうギンコに対し、淡幽が言い添えた言葉にすごくじんわりきました。
蟲とヒトのそれぞれの営み
蟲に影響を受けた人を救うこともできますが、治療法が確立されておらず、ギンコにもどうしようもない場合もあります。蟲自体は悪いものなわけではなく、普通に生活しているだけ。それでも、人間の暮らしと合わない部分もあり、時にぶつかり、時に救いになることもあって。蟲とヒトのそれぞれの事情に触れていると、自然の意志みたいなものを感じてしまいます。物語が本当に壮大なんです!
最後に、Muschi(ムシ)っていうのは、ドイツ語だと「女性器」の意味です。微妙に下ネタっぽいんですが、ドイツのマンガ好きさんと出会った時にはいい会話ネタになるかも?
単行本は和紙っぽい紙の質感もいいので、購入するなら単行本がお勧めですよ!