大好きなあの作品の原画展、メディアに特化した美術館や図書館、絶版作品が電子書籍やwebサイトで復活・・・これらに共通するキーワード、それが「アーカイブ」です。
アーカイブとは元々公文書の保存庫を指す言葉で、現在では重要な資料や情報資源を長期に渡って保存・提供し未来に伝達することを指して使われています。
普段マンガやアニメなどと結びついて語られることは少ない言葉ですが、原画や関連資料がきちんと保存されていないと原画展も過去作品の復活もありませんし、美術館や図書館は昔からアーカイブの役割を担ってきた場所。
そんなマンガなどのメディア芸術におけるアーカイブの現状と未来を考えるイベント、「MAGMA sessions〜マンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアートのアーカイブの現在〜」が2月16日より開催中です!
MAGMA sessionsとは?
MAGMA session(マグマ・セッション)とはマンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートのメディア芸術4分野について、アーカイブという観点からその課題や意義、そして面白さを発信していくイベントサイトです。MAGMAはManga、Animation、Game、MediaArtの頭文字から取られています。
「令和2年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業」の一環として文化庁が主催し、普段あまり取り上げられないアーカイブやその周辺に焦点をあて、本イベントを通して多くの人にアーカイブについて考えるきっかけを作ることを目的としています。
一口に「アーカイブ」と言ってもその意味するところや対象、手段は非常に多岐にわたります。本イベントではマンガ家の赤松健先生を始め、メディア芸術関連施設の館長や図書館司書、編集者から大学教授、弁護士まで様々な立場の専門家が集まって幅広い議論を交わしており、メディア芸術の現状と未来を考える上で必見のイベントになっています。
イベント内容
2月16日より順次トークセッションやインタビューが無料公開されており、また2月19日にはメインイベントとも言えるライブ配信が予定されています。
イベントサイト自体もテーマに沿うようデザインされており、コンテンツは動画、テキスト、音声の3形式が用意され、またサイト内には用語集まで備わっています。
トークセッション
メディア芸術アーカイブの目指す未来 〜メディア芸術アーカイブについて語りつくす 大座談会〜
アーカイブ・企画展の現在地~「機動警察パトレイバー 2 the Movie」「ゲンガノミカタ 展」の現場から~
アーカイブを「みんな」でつくるには?~アーカイブはコミュニティのHUBになり得るのか~
…など
令和2年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 連携基盤整備推進事業 報告会
2月19日(金)13時よりライブ配信
この他、各分野の有識者に対して行われたアーカイブ活動の現在についてのインタビューも公開されています。
なぜ今アーカイブなのか?
マンガやアニメなどが世界に広まり芸術的な価値も認められつつある今。デジタルへの移行や新しいテクノロジーによって作品造りの環境が大きく変わっている今。そしてコロナ禍によって物理的な移動や接触が減り社会の変化が一気に進んだと言われる今。実はアーカイブという活動の重要性と複雑性も急激に増しています。
イベント内でも多様なバックグラウンドを持つ専門家が様々な観点から興味深い議論を展開していますが、最初はどういう点に着目すればいいのかちょっと分かりづらいかもしれません。理解や思考の助けになるよう、ここでは論点の一部を紹介します。
紙の原画を守る
マンガが大衆の娯楽となって数十年となり、その間膨大な作品が生みだされてきました。その中で顕在化しているのが、紛失や破棄、海外への流出や権利者と連絡が取れないなど、原画が失われる、または行方不明になるという状況です。
原画が失われればその作品を電子書籍等で復活させるチャンスは失われますし、紙は保存状態によって経年劣化がどんどん進んでしまいます。よって後世に貴重な財産を残していくためには、管理された場所に適切な状態で保管し、同時にデジタルデータ化していくことが非常に重要となります。
例えば本イベントのインタビューにも登場する秋田県の横手市増田まんが美術館はマンガの原画保存で日本をリードする存在ですが、これは2020年に亡くなられた横手市出身のマンガ家、矢口高雄先生がご自身の全原画を寄贈したことをきっかけとしています。
館長の大石さんは、自分たちの取り組める形で活動を進め仲間を増やしていきたいと語られており、増田まんが美術館は役割分担として紙資源の原画保存に注力しているようです。
※増田まんが美術館の活動にアーカイブ活動に関しては、2020年11月20日に発売された『釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝』の中でも詳しく語られています。
デジタル化すれば安心か?
紙の原画や物理的な作品には天敵や制約も多く、経年劣化だけでなく火事や自然災害、保管スペースなども大きな問題となります。ではそれらを全てデジタル化して、データとして保存しておけば安心でしょうか?
実はそうとも限らず、今使われているファイルやテクノロジーが100年後200年後も使えるのか?サービスの一部または全部を企業に依存している場合、そこが倒産したりサービス停止した時どうするのか?など、デジタルならではの問題も数多くつきまといます。またデータ化した場合も同じく、保管スペースとそのコストを確保し続けなければいけません。
最近ではそもそもデジタル環境で制作し紙の原画が存在しない場合も多くありますが、上記を考えると紙の原画が無いことが将来的には実はリスクになる可能性があります。それに備えてあえて紙で印刷して残しておくべきなのか?なども考慮に入れる必要があります。
作品を守ればいいのか?文化も含めて守るのか?
アーカイブの対象を作品だけにすべきなのか、その周辺にも広げるべきかというのも重要なポイントです。最近では「プロセスエコノミー」と言われたりもしますが、特にメディアアートなどは完成品だけではなく制作過程や背後にある思考、時代性なども重要な意味を持ちます。
また最近のゲーム分野ではゲーム内がある種のコミュニティーやSNSのようになっていたり、ゲームをやらずに配信者のプレイを見る「ゲーム実況動画」が一大ジャンルとして確立していたりと、作品それ自体を遺すだけでは文化的な価値がわからないこともあります。
ただし対象を広げれば広げるほど当然多くの難題が出てくるはずで、どこまでをアーカイブ対象とするのか、そもそもきっちり定義できるものか、などもまだまだ未知の段階です。
アーカイブの利用と権利関係
アーカイブは保存出来たらそれで終わり、ではありません。適切な状態を保ち後世に遺していくと同時に、新たな作品や文化が生まれる土壌となるよう多くの人の目に触れる場所に置き、利用されなければ意味がありません。
当然手間やコスト、手段も課題になりますが、同時に切っても切り離せない問題が、著作権をはじめとする権利関係。メディア芸術は多くの人が関わる分野なため、この大きなハードルに関してもイベント内でたびたび言及されています。
アーカイブが生むメディア芸術の未来
アーカイブという言葉を聞くと、なんだか難しそうで専門的、もう少し言えば自身とはあまり関係ない話のようにも感じてしまうかもしれません。
しかし、あなたの大好きな作品も必ず過去の作品やその時の文化の影響を受けていますし、そういった文化をしっかりと後世に遺していくことが、新たな名作を生む土壌となっていきます。
また、作り手や受け手の在り方が多様化している今、作品を作ること、楽しむこと、アーカイブすることの境界も曖昧になってきています。
例えば「この作品が大好きだ!!」という熱い想いをnoteやtwitterで吐き出すのも、読み手の熱狂を後世に伝えるという意味で立派なアーカイブ活動かもしれません。
内包する要素の膨大さと複雑性から、アーカイブに関する議論や方法論は一朝一夕、一つのセッションで結論が出るようなものではなく、MAGMA sessionもそのきっかけを提供する場として位置づけられています。
イベント内でも「仲間を増やす」という言葉が繰り返し登場するように、まだまだ議論が始まったばかりのこのテーマ。ぜひ肩肘はらずに覗き見て、新しい観点からメディア芸術の現在と未来を考えてみてください。
多くの人の関心と認知が、今後のアーカイブ活動を推進しマンガやアニメの未来を守る原動力となっていくはずです。