【20世紀編】人の身体は食べ物で出来ている。 空腹時に見ると死ぬ、胃袋鷲掴みのグルメマンガの歴史を辿る!

今ではもう一大勢力となったグルメマンガ。一日三回、人の命を80年とすると、3×365×80=87600回も美味いモノを食べるチャンスが人生にはあります。

冷静に考えてみればたったの87600回しか美味いモノが食べられない!妥協するわけにはいかない!失敗するわけにはいかない!それは決して高いものなのではなく「美味い」もの。

美味いものを入れろ!と荒れ狂う胃袋をなだめるためにも、グルメマンガを読んで美味しいモノセンサーに磨きを掛けるのが、マンガ好きの務めかもしれません。

今回はそんな人生の必須栄養素、グルメマンガの系譜を辿っていきたいと思います。

元祖もはやりラーメンとスイーツだった!

1970年、日本は大阪万国博覧会を控え、来たるべき未来に興奮し浮かれている時代でした。この年に二つの歴史的作品が誕生します。

少年マンガからは、『ワイルド7』『ケネディ騎士団』など今なお名を知られる作品を描かれた望月三起也先生の『突撃ラーメン』。

突撃ラーメン
望月三起也

少女マンガからは、本作後『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』など語り継がれる作品を次々と描かれた萩尾望都先生の 『ケーキ ケーキ ケーキ 』。

ケーキ ケーキ ケーキ
萩尾望都/著

ラーメンとスイーツという、50年後の現代でも先頭を走る食のジャンルからグルメマンガは始まっていました。両作品とも、まだ完全に食に特化した作品というわけではなく、例えば「柔道」や「ピアノ」といったものを食に置き換えたような構成とも言えます。

料理対決の片鱗は『ケーキ ケーキ ケーキ』に見ることはできますが、いわゆるグルメバトルやウンチクの完成・出現にはまだ数年の月日が必要でした。そして3年後、当時の少年達の喉を鳴らし舌を惑わした、今でも語られる伝説のマンガ作品が出現します。

よぉし!キャベツの千切りで勝負だ!

1973年、週刊少年ジャンプで連載が始まった『包丁人味平』は、現在に脈々と受け継がれる
対峙 → 特訓 → 試合→ 解説 → 勝負
というグルメバトルマンガのフォーマットを生み出した革命的作品でした。

包丁人味平
ビッグ錠/著,牛次郎/原著

生まれたてのグルメバトルマンガはスポ根の踏襲でした。「魔球」は途方もない包丁技となって再現され、読者を興奮のるつぼに巻き込んだのです。

カレー戦争編では、カレーのスパイス内に麻薬的成分を入れ客を呼び寄せるエピソードがありましたが、先日そっくりの事件が実際に発生し、まさにそういった料理の世界の闇に対しても預言書でもありました。

出来そうで出来ないも奇想天外な料理のテクニック、それは(もっともらしい解説はあるものの)投げそうで投げられない魔球に通じるものがありました。おかんに無理言って買ってもらった鶏肉(豚肉は高くて買えない)で「白糸バラシ」をしようとした子供達も、今では還暦間近です。

ビッグ錠先生はその後『スーパーくいしん坊』『一本包丁満太郎』とグルメマンガ界に爪痕を残す怪作を続々と発表されています。

それよりはるかにうまい物を味わわせてやる!

『包丁人味平』の衝撃から10年後、グルメ漫画は次なる進化を遂げることになります。禁断の果実それは「蘊蓄(ウンチク)」。料理にウンチクという情報を載せて出現したのが、1983年週刊スピリッツで連載が開始された『美味しんぼ』だったのです。

美味しんぼ
花咲アキラ/イラスト 雁屋哲/著

小学生の頃に『包丁人味平』の洗礼を受けた子供は、この頃ちょうど20歳前後。闇雲に何でも食べる歳を過ぎ、自分のお金で美味しいものを食べようとしてる、そんな年頃です。世間はまだバブル景気以前、せめて食くらいは、という時代に『美味しんぼ』は颯爽と登場しました。

作る側の視点ではなく、食べる側の視点で描かれたマンガ。何を食べる?どう食べる?何が美味しい?どこに行けば、いい?

料理をコアにした社会問題、味とは何かと読む人に投げかけられる本質的疑問、そしてその食材、調理法で知るべきこと。『美味しんぼ』は食の情報の宝庫でした。ですがそれは後に『ラーメン発見伝』内で「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」と言い放たれてしまう人を大量に輩出するきっかけになったのもまた『美味しんぼ』なのです。それほど料理の「情報」は、料理自体よりも美味く中毒的な魅力があったのです。

うまいゾ!

「男の無限料理」という言葉をご存じでしょうか。「肉500g買って来たから全部入れちゃうかっ!」「せっかくだからちょっとこれを足して…」「しょっぱいからこれを入れてっと」「お、そういえばジャガイモ余ってた」と思い付くまま食材を投入し、思うがままに味を調整していくうち、当初考えた量の何倍もの完成品が出来上がる、という男が主に掛かる魔法です。

それでも(一部の)男は料理が大好き!ステキなマイホームパパであり、男が「こうだったらオレも…」と夢見る対象にさえなる、そんな新機軸のグルメ漫画が『美味しんぼ』から遅れること2年、1985年にモーニングで連載が始まった『クッキングパパ』です。

クッキングパパ
うえやまとち/著

料理の温かさは人柄の温かさ。物語の最初こそ、男が料理することは「恥ずかしい」のでその事実を隠す、という展開でしたが、現在では、料理を通じて人が繋がるということに重点を置いた物語になっています。

今も昔も男は料理が好き。『クッキングパパ』を読んで無限料理を卒業した人もきっと多いはずです。戦うために作るのではなく、食べるために、いいえ、食べてもらうために料理を作る。そんな当たり前のジャンルの先駆けとなったのが本作でした。

うーまーいーぞぉぉぉぉっ!!

『クッキングパパ』から遅れること1年、1986年に週刊少年マガジンで連載が始まったのが『ミスター味っ子』です。80年代はまさにグルメマンガの当たり年。今に繋がる源流となる数々の作品が始まっています。

ミスター味っ子
寺沢大介

そこまで破天荒な料理バトルではありませんでしたが、連載開始翌年からオンエアが始まったTVアニメ版の、味皇様の味への荒唐無稽なリアクションが話題を呼び、その後ジャンルを超えて様々な作品に影響を与えました。

80年代を代表する料理バトルマンガであり、『包丁人味平』の正しい後継者が本作です。

和は良酒を醸す

料理の大切な友、お酒にフォーカスした『夏子の酒』を、グルメマンガと一括りにするのははばかられます。1988年、モーニング紙上に連載された本作は、酒造りを通じて人と文化、綺麗事だけでは片付けられない社会のしがらみを描いた社会派マンガでした。

夏子の酒
尾瀬あきら/著

お酒は丁寧に付き合えば、一生の友達です。料理を引き立てるように、一緒にいる大切な人と人を繋ぐ。そういったお酒の顔を『夏子の酒』を通じて気付いた読者も多く、間違い無く日本酒ブームの一端を担った作品とも言えます。バトルという破壊の儀式から、醸造という創造の儀式への変革。『夏子の酒』はグルメマンガの新しい道を切り開きました。

うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ

90年代、最大の発明は紀行系グルメマンガの出現です。1994年、月刊PANJAで連載が開始されたのが名作『孤独のグルメ』。読む人に寄り添った料理野数々、騒々しくない、一人で黙々と食べるグルメ。個の時代にはまさにふさわしい作品でした。

孤独のグルメ
久住昌之/著,谷口ジロー/イラスト

奇を衒った料理が出るわけでも無く、倒すべき敵がいるわけでもない、ただひたすら胃袋を満足させる旨いものを探し喰うその主人公の「あたりまえ」が多くの読者を惹きつけました。

2012年から放送開始されたTVドラマ版は断続的に8シリーズの放映といくつかのスペシャル版が作成されています。グルメという嗜みを趣味に昇華させたのも、脳内で独り言を言いながらゆっくり味わう人が増えたのも『孤独のグルメ』があったからこそです。

ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!

2000年問題で世界が滅亡すると人類が勘違いしはじめた1999年、ビッグコミックスペリオールで始まったのが『ラーメン発見伝』です。

本作の最大の特徴は、食とはバランスであると強く語っていた点でした。これまではただただ美味いモノをエキセントリックに作ることで邁進し続ける主人公達が描かれていたのがグルメバトルマンガでしたが、本作では味のバランス、旨さと採算のバランスなどが主人公に突きつけられ悩み苦しむ姿さえ描かれます。

ラーメン発見伝
久部緑郎/著 河合単/著

ラーメンで始まったグルメマンガの世界は、30年近く経ち、同じラーメンを素材に、美味しさを形作る為の手段まで作品に取り込まれるようになりました。

それはどうやって作られているのか?この旨味は本物なのか?今、食べる側が試されているのだと、本作で気付いた方も多いのではないでしょうか?

そしてグルメマンガの世界も21世紀に突入していきます

何食わぬ顔で21世紀を迎え、グルメマンガはさらなる進化を遂げていきます!

発酵、ただならぬウンチク、憧れの食、食べる場所、食材ではない食材、そして数学。グルメの世界の進化はまだまだ止まりません!


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