2020年に開催予定だった漫画「もしも東京」展が、1年の延期を経て2021年8月4日から開催中!
容赦のない日差しとセミの鳴き声に包まれた真夏の東京都現代美術館。現地へ行ってきた筆者が、おすすめの楽しみ方を作品レビューとともにお届け!
涼しい美術館は夏の遊び場としても最高
もちろん遠方の場合や感染予防の観点から「会場に行くのはちょっと…」という方も多いはず。そんな方に向けて、作品集『もしも、東京』の魅力もあわせてご紹介します。
おすすめの楽しみ方は 会場+作品集
本展示には20名ものマンガ家が参加しています。そのうち18作品が展示される講堂エリアは、事前予約必須で1時間ごとの入れ替え制。会場の雰囲気は楽しめても全作品をじっくり堪能するのは難しいかも…というのが正直なところ。
そこでおすすめするのは、会場で見るべき作品を優先して楽しんだあと作品集を購入し自宅でゆっくり全作品を楽しむ方法。ここからは、会場で見ることで一層味わい深くなる作品をピックアップしてご紹介します。
👉作品集『もしも、東京』についてはこちら
👉イベント概要はこちら
現地で楽しむべき「もしも東京」
なるべく会場で味わいたい展示の工夫を楽しめる作品をご紹介します。
※作者名の50音順で紹介
大童澄瞳『East East』
地下1階「水と石のプロムナード」に展示されている本作は『映像研には手を出すな!』の作者 大童澄瞳先生の作品。
水と石とガラス。自然と人工物が違和感なく交わった東京を象徴するような空間に、マンガのコマとして置かれた透明の箱たち。それを通して建物に囲まれた背景とともに見る作品です。
角度によって自分自身が映り込んだり水面に映る上下逆さまの像に気づいたりと、大童先生が説明する「複数のコマを使って色々な視点から描き出す」(『もしも、東京』p.165)マンガならではの表現を増幅させるような展示になっています。
地下1階へは、石塚真一先生『Tokyo Sound』が展示されている1階中庭から屋外階段で降りることができます(天候により利用不可)。この2点は予約不要エリアなので、予約時間外にゆっくり楽しんでくださいね。
石塚真一先生『Tokyo Sound』は作品集でも細かい描き込みを楽しんで。
松井優征『東京の脅威とギンギンの未来』
ここからは講堂エリアへ。まずは『暗殺教室』などの作者 松井優征先生の作品。
東京に住む少年なら一度は想像するであろう「都庁ロボ」が登場する本作は、ディストピア的な未来像を語られがちな東京に対してあえて大きな繁栄の姿を描いた物語です。
現地で楽しんでほしいポイントは、展示ブースに収まりきらない高さの都庁ロボパネル。私たちは普段「全長○m」や「○階分の高さ」などの言葉で実物大を想像しますが、大きさを体感することはまったく違う体験です。
もちろん本物の都庁のサイズに比べれば断然小さいのですが、実際に見上げてロボットの存在を感じる体験は現地だからこそ楽しめるもの。人間にとっては3~5mもあればこんなにデカイんだ…!と実感させられます。
大きすぎて全体が収まりきらない…都庁はこの何倍もデカイ。
松本大洋『東京の青猫』
続いては『ピンポン』などの作者 松本大洋先生の作品。
詩人 萩原朔太郎氏の詩集『青猫』で詠われる東京に絵をつけた本作は、美しさや賑やかさ、かなしみを内包する東京の街を恋しく思う心を表現した作品。
展示では絵からやや距離をとって透明な板で文字を載せており、絵の上に文字が浮いて影を落としています。言葉は借りものであることを強調したような演出。「詩に絵をつけるという野暮を朔太郎が許してくれるといいな」(『もしも、東京』p.331)と語る松本先生の詩に対する強いリスペクトを感じる展示でした。
望月ミネタロウ『丹下健三の東京計画1960』
最後は『ドラゴンヘッド』などの作者 望月ミネタロウ先生の作品。
東京都庁などの設計で知られる建築家 丹下健三氏が1961年に発表した東京の都市構造改革の提案「東京計画1960」。高度経済成長期の人口増加に耐えうる都市デザインとして美しい模型とともに発表されたこの大胆な未来都市計画をモチーフにしたのが本作です。
望月先生の描くモダンな絵がバーンと貼り出されたポスター感こそ現地で見る醍醐味。新しい東京について来いと言わんばかりの気迫が伝わってくる…。当時の人々の「これから東京はどうなっていくんだろう?」という期待を想像させ、こちらまでワクワクさせられます。
その他にも、大迫力の屏風で展示された黒田硫黄先生『天狗跳梁聖橋下(てんぐのあそぶはひじりばしのした)』、変わる東京/変わらない東京の2層に分けて展示された山下和美先生『世界は変わっても生活は変わらない、という夢』など、展示方法が工夫された作品はなるべく会場で楽しむことをおすすめします。
ただの作品集ではない『もしも、東京』
本展の全作品が掲載された作品集『もしも、東京』は2021年9月10日に一般発売予定。東京都現代美術館内のミュージアムショップNADiff contemporaryでは、展示作品のグッズとともに先行販売しています。オンラインでもすぐに購入可能!
『もしも、東京』にはマンガ作品に加え、小説家 角田光代氏や映画プロデューサー 鈴木敏夫氏など各界で活躍する方々が書き下ろした特別寄稿、また世界の”奇妙なもの”を撮り続ける写真家 佐藤健寿氏の作品が収録されています。
マンガと文章と写真それぞれが表現する東京の姿が一冊のなかで相互補完的に存在していて、もはやこれは漫画「もしも東京」展の付属品として捉えるべきではありません。
マンガ部分だけ見ても、会場で見るのと紙面ではまったくの別物!ページ数の多いマンガ作品は会場で人混みを気にしながら読むよりもむしろ紙面で時間を気にせず楽しむべき。3,980円(税込)という価格だけ見ると結構なお値段…と一瞬怯みますが、盛りだくさんの内容を考えるとちょっと安すぎるくらいです。
Amazon予約はこちらから
なぜいまマンガなのか?
東京を表現するのになぜいまマンガという方法なのか?その答えはマンガが「日本が世界に誇る一大文化だから」という理由だけではありません。
1枚の絵画に比べ、複数のコマやセリフの効果で物語性が強まるマンガは、人の数だけ物語が集まる東京を表現するのにぴったりの方法。またそこにあるものを映し出す写真と比べても、「もしも」の世界を提示し想像させる方法としてマンガは強い力を発揮します。
2020年に突如やってきた激動の時代。浅野いにお先生が2020年開催時に展示予定だった作品で描かれた「もしも」の世界は図らずも現実のものとなってしまいました。
【#もしも東京 ニュース:浅野いにお】昨年の2020年夏、漫画「もしも東京」展が開催延期判断となったことで、展示会ではなく、特別読み切り作品として雑誌掲載することとなった『もしも東京』がコチラから読むコトができます。https://t.co/R1bMjojF6m— 漫画「もしも東京」展_公式アカウント (@moshimo_tokyo) August 10, 2021
かつて/いま/これからの東京。あったかも/あるかもしれない東京。ますます先の見えない都市となった東京に改めておもしろさを見出すことが、マンガという表現にいま託された希望なのではないでしょうか。
漫画「もしも東京」展、会場でも自宅でもあなたに合った方法で楽しんでください!
筆者のマイベスト作品は、浅野いにお先生が2021年開催に向けて描いた新作『TP』
グッズも充実!ポストカードを友人へのお土産に…。
【9/5まで無料開催】イベント概要
会期
2021年8月4日(水)〜9月5日(日)
*休館日、8月10日(火)・16日(月)・23日(月)
開館時間
10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
*初日8月4日(水)は13時からとなります。会場
東京都現代美術館地下2階講堂、中庭、水と石のプロムナード
入場料
無料、講堂内のみ事前予約制
▶入場予約
漫画「もしも東京」展 | ArtSticker
参加漫画家(50音順)
浅野いにお、安倍夜郎、石黒正数、石塚真一、市川春子、岩本ナオ、太田垣康男、大童澄瞳、奥浩哉、小畑友紀、黒田硫黄、咲坂伊緒、出水ぽすか、萩尾望都、昌原光一、松井優征、松本大洋、望月ミネタロウ、山下和美、吉田戦車
OGP画像及び記事内画像はすべて筆者撮影