ラブひな

赤松健/著

ラブひなの好きなところ

懐かしい・・・ラブひなを最初に読んでから、もう20年近くになるのか。 近くにあった児童センターの図書室で、北斗の拳を読んでいた頃。 隣の棚にカワイイ女の子の漫画があった。「ラブひな」である。 小3のころの私は「こんなの読んでるところ見られたら恥ずかしい」と思っていた。 だから私はずっとラブひなを避けて、魁!男塾を読んでいた。 でも、ある日どうしても気になって、開けてしまったのだ。禁断の扉を。 一発で虜になった。 カワイイ女の子たち。 古き良き、木の香りがしそうな旅館。 嘘を本当に変えるために努力する主人公。すべて魅力的だった。 子供の自分にはご都合主義のストーリーでも十分入り込めたし、「よくあるハーレムもの」という先入観も無かったので、本当に楽しめた。 その後も形を変え、場所を変え、思い出すとラブひなを読んでいた。 ある時はBOOKOFFで、ある時は家で(保管に苦労した)、ある時は満喫で・・・そして今はKindleで。 不思議なことに、好きなヒロインも年齢とともに変わっていく。 小学生の頃はしのぶが、 中学~高校の頃はモトコが、 大学の頃はなるが、 そして今は・・・断然みつね推しである。(スウ・むつみ、はるか、ごめんな・・・) 不思議なことに、ここ5年くらいはみつね推しでストップしている。年齢的にははるか推しにシフトするはずだが・・・ さておき。 実は、ラブひなを読んでいて一番心に刺さったのは、ラブストーリーじゃない。 作者の赤松氏は、全ての作品がコメディベースでありながら、時々かなりシリアスな話を入れる特徴のある作家だと思う。(一つ前の作品ではヒロインがこの世から消えそうになる) そして、ラブひなにもそんなシリアスな話がある。 最終巻の14巻。山手線のシーンである。 ヒロインは自分が「主人公が結婚を約束していた、思い出の女の子ではなかった」と確信して、主人公の元を離れようとする。 しかし主人公に山手線で捕まってしまい、そのままズルズルと何週もすることに・・・ 二人は疲れて寝てしまうのだが、そこでヒロインは夢を見る。 それは過去の走馬灯であり、みんなでワイワイしていたあの頃の思い出だった。 時間は逆行して、どんどん昔の思い出へとさかのぼっていく・・・ 景太郎の婆ちゃん、はるかさん、キツネ、スウちゃん、しのぶちゃん、瀬田さん、モトコちゃん・・・そして景太郎。 毎日ドタバタ、トラブル続きの旅館だったが、ヒロインにとっては皆大事な人で、大事な思い出だった。 旅館に来た初めの思い出までさかのぼると、ヒロインはその頃の自分を見てつぶやいた。 「戻りたいな あの日に 楽しかったよ ずっとずっと 幸せだった ようこそ 成瀬川なる・・・・ あなたはこれからそこで 人生で最高の日々を 送ることになるのよ そんなに緊張しなくて いいよ この先 色々あるけど 未来は楽しくて キラキラに明るいから 安心して・・・ ホントだよ 約束する」 何度読んでも、ここで目頭が熱くなる。 前作とはベクトルが違うが、ラブひなの中で1、2位を争うシリアスシーンだ。 ラブひなは、主人公も、ヒロインも、その他の登場人物ですら、時間軸とともに成長していく。 だからこそ、「楽しかったあの時は、もう戻ってこない」という感覚が現実味を帯びて来る。 楽しかったあの時は、もう戻ってこない。 そんな単純な事実を突きつけられるだけで、私はどうしようもない気持ちになってしまう。 それは、ラブひなが説得力のあるストーリー、キャラクターを生み出しているからだ。 大人になり、「もう戻ることが出来ないあの時」を沢山抱えた人にこそ、この作品を読んでほしいと、心から思う。 私と同じく、どうしようもない気持ちになるはずである。 以下、蛇足である。 山手線から外の景色(思い出)を見る、なる。 漫画の外から漫画の中を見る、私。 二つは同じ構造である。 私にとって「何度も懐かしい漫画を見る」という行為そのものが、「山手線に乗る」という行為なのだ。 私は、なるやみつね、景太郎に会いに行くたび、 「彼らはもうここにはいないのだ」という事実を再確認させられる。 それが辛くて、でも止められないのだ。 思い出すことが、止められない。 ラブひなは、登場人物が成長し、変わっていくことに切なさを感じる、稀有なラブコメだった。 今、私はほとんどの登場人物よりも年上になってしまったが、これからも愛読書であり続けると思う。 赤松先生、ありがとうございました。 P.S.今もまだ、「ラブひな」公式サイトがある。この事実に私は一層どうしようもない気持ちになる。 また、全ての作品に時間を意識させるストーリーがあることから、私は赤松氏の属性を「時」だと認識している。

2019年 07月 27日

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