二匹目の金魚

panpanya/著

二匹目の金魚の好きなところ

◆「もの」としての本づくり 内容ももちろん素晴らしいです.しかし,特に毎回感動するのは,徹底した「もの」としての本づくりです. panpanya先生の書籍では読者が手に取って楽しめるように「もの」としての技巧が凝らされています.表紙を外してみると,昭和の住宅にはよく見られた装飾ガラスの接写がそのまま装丁として使われています.模様部分とは印刷が分けられており,模様に触れるとよい手触りが感じられます.また,光にかざすと,微妙な色合いの反射がとても綺麗です. ◆panpanyaワールド panpanya先生の作品は基本的にいくつかの短編をまとめたものになっています.登場するキャラクターは女の子とその友達,ペットの犬(?)らしきものと謎の被り物をした人物のみで構成されます.キャラクターは描き込まれた背景に比べ淡白に仕上げられています. そして,日常に潜む些細なことにクローズアップしていくことで,どこかで見たことあるような,それでも体験したことのない不思議な世界を味あわせてくれます. たとえば,「メロディ」は街に鳴り響く17時のチャイムの音源を探す話です.主人公たちは町をひたすら練り歩き,あらゆる方法を駆使してその音の出どころを探索しますが... まだ町の中では自分の学校の校区くらいしか認識していなかった幼い頃,そこから町を歩き回ることで,町をどんどん自分のものにしていった感覚を思い出します. 「メロディ」の最後はこんな一言で締められます. 「町の広さが少しわかるようになった私たちも,もうすぐ6年生です.」 はたまた「季節の過ごし方」は,風鈴が音で涼しさを与えてくれるなら,蝉の声を録音して冬に流せば,寒さを和らげるのではないかと気づいた二人はそれを実行してみるが... なんて,馬鹿らしいお話です. 表題作「二匹目の金魚」では,「屋台の巣」というものが登場します. 「縁日の屋台は,祭りのない日は屋台の巣で営業してるんだと.」 「考えてみたら祭りの屋台の経営者も年に何日もない縁日だけで生計を立てているとは考えにくいです.」 なんとまあ最もらしいことを言っていますが,よくよく考えてみるとそんなことあるか!と思ってしまう,けれどもそんな場所があったらちょっと行ってみたい,そんなことを思わせてくれます. ◆日常とは異界への入り口である ファンタジーではないけど,非現実的. 見たことのあるような町で起こっている見たことのない出来事や人たち. そんな不思議なものを描くこの漫画は,私たち自身が日常の些細なことに思いを巡らせるだけでも人間は違う世界へ行くことができるのだと気づかせてくれます.

2020年 02月 15日

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