東京 (28)
【イワシの群れになれなかったあなたへ】 「社会には溶け込みたい」というシンプルな願いが、うまく叶えられない人のジタバタを描いた物語。 ドラマ化されていて知名度も高い作品。 生きていてふと感じてしまう、息苦しさや違和感が、まるで古い映画のように優しく浮かび上がってきます。 あらすじ ・主人公の凪は28歳のOL。くせ毛に毎日ストレートパーマをかけ、職場の空気を全力で読み、常に普通であろうと生きてきた。 ・しかしある日、同僚の口から出た自分への陰口や、隠れて交際していた他部署の彼氏の心無い言葉を聞いてしまい、過呼吸で倒れる。 ・会社を辞め、持ち物のほとんどを処分した凪は、東京の郊外の安アパートでくせ毛をほったらかしにしながら暮らし始めた。 会社とか学校とか、あるいは社会全体とか、たくさんの人で作られているものに属するにはある程度「周りに合わせる」ということが必要になります。 でもそれが行きすぎると、周りからの要望が自分のすべてになってしまう。 ファッションやメイク、会社選びや家族関係。人それぞれ違うはずなのに、「こうしなさい」という声のない声がどこからか聞こえる。 少しだけ、その声が聞こえないふりをしたい。 というのが作品の根っこの部分だと思います。 魅力として推したいのは、それをとても抽象的かつ心に刺さるような表現で伝えてくれること。 回想シーンで、主人公と元彼が水族館へいく場面があるのですが、そこでの2人の対比がほんとに見事。 2人は水族館で同じイワシの群れを見て、全く別のことを思うのです。 整然と1つの集団をつくるイワシを見て「憧れ」を抱く主人公と。 不気味なほど乱れないイワシの行軍を見て「嫌悪」を抱く彼。 その対比が持つ意味合いの深さ!背景! 2人の人生観と価値観、社会への向き合い方! そういった直接描くとエグみが出がちなものを、イワシを象徴にすることで柔らかく描くセンス! そういうところが大好きです。
2019年 10月 20日