かくかくしかじか

東村アキコ / 著

世紀の名作『かくかくしかじか』から学ぶ、天才になるただ一つの方法

「かくかくしかじかありまして」なんていう風に日常では使われているけれど、実際その略された内実をことこまかに知る機会はそうあるものじゃない。

それはきっと本人的にはあくまで隠したくて、伝えたくなくて、でも確かにあったんだという事だけは伝えたい。そんな矛盾した感情から去来した言葉なのだと思う。

成功した今だけを見てほしいという気持ちを強く持ちつつ、でも私だってただ何もせずに成功したわけじゃないんだよーーと。そんな風に。

かくかくしかじか
東村アキコ/著

かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
東村アキコ/著

少女マンガ家、東村アキコ先生

描いた作品は次から次へと売れに売れ、アニメ化、ドラマ化、映画化ーー。メディアミックスされた作品が軒並み成功している。

東村アキコ先生の公式Twitter

海月姫

東京タラレバ娘

偽装不倫

今一番ノリにノッているマンガ家の一人といってもいいと思う。(しかも美人だし)そんな先生の事を、世間の人は皆「天才だ!」なんて言う風に手放しで称賛するに違いない。東村アキコ先生が天才であること。それは間違いの無い事実である。

でもそんな天才だって、ただ何も努力することなく天才になったわけじゃない。天才である今にたどり着いたわけじゃない。作品のタイトル通り、今に至るまでの『かくかくしかじか』があったわけで。

『かくかくしかじか』とはつまり、東村アキコ先生が東村アキコ先生になるまでの物語であり、記録であり、記憶である。

これは"天才"の正体に迫るマンガ

『かくかくしかじか』の物語は、林明子(後の東村アキコ先生)という少女が美大進学を目指す為に"日高健三"先生がやっている絵画教室に入塾する所から始まる。

2015年マンガ大賞受賞!

絵画教室初日。自分の事を天才だと考えていた林明子は、描いた絵を日高先生にビリビリ破られてしまう。しかも「下手くそでーす!」なんていう風に、罵倒されながら。罵倒され、その肥大した自尊心をぼろぼろに打ち砕かれた所から、日高先生の指導は始まるのだった。

とにかくやらせる教育

日高先生は一見厳しく、スパルタだけれども、しかしすごく優しい人だ。

明子がある美大に落ちた時だって、未成年を居酒屋に連れていくという、とても不器用なやり方ではあるけれど、優しく励ましてくれた。

そんな日高先生が明子へ送った言葉、教育。数えきれない程たくさんあるそれらだけれど、一番伝えたかったことは限りなくシンプルで分かりやすい。しかし一番難しいであろうこと。

それはひたすら"描け"ということだった。

「絵は毎日描かんとダメや。一日も休むな」

大学時代。絵が描けなくなった明子の元を訪れた日高先生が伝えた言葉。それは、絵を描く事を一日だって休んだらいけないという事だった。

何を描くかなんて事を迷って、考えているから駄目なのだと。そんな事を考えず、ただ描く事に没頭しろ。

その言葉で明子は再び、絵を描けるようになる。

描くから、描ける。描くとはつまり、とにかく手を動かすという事だ。

僕たちが知るべきなのは方法じゃない

今の世の中は情報化社会だ。欲しい情報が指先をちょっと動かすだけで手に入る。例えば"美味しいご飯の作り方"だったり、"上手な文章の書き方"だったり、"絵が上手くなる方法"だったり。検索すると、一瞬で数えきれないほどの"上達する方法"がでてくる。でてくるのだけれど、しかし僕たちは気付くべきだ。いくら方法を調べた所で上達はしない。変化も訪れず、天才にもなれない。上達するための道はただ一つ。ひたすらに"描く"こと。


もし天才になる方法が存在するとしたら、きっとそれしかないのだろう。


それを肝に命じて、ぼくもただひたすらに、愚直に手を動かし続けたい。

いつか将来過去を語る時「あの頃はぼくも、かくかくしかじかありまして〜」なんて風に、少しばかりの気恥ずかしさと共に語ることの出来る過去を創る為に。

かくかくしかじか コミック 全5巻完結セット (愛蔵版コミックス)
東村アキコ/著