ぽんこつポン子

矢寺圭太 / 著

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不完全なロボットと孤独な老人の完全な関係。『ぽんこつポン子』が描く機械と人の共生の姿

©矢寺圭太/小学館

©矢寺圭太/小学館

ロボットやAIが私たちの生活を支える、そんな少し先の未来を描いた『ぽんこつポン子』。

妻に先立たれ、田舎で一人寂しく余生を送っていたゲンジと家政婦ロボット・ポン子のスローライフを描いた本作は、時に笑えて泣けるエピソードやポン子の憎めないキャラクターが魅力的です。

ぽんこつポン子

そんなコメディーマンガとしての顔を持つ一方で、『ぽんこつポン子』は近い将来必ずやってくる高齢化社会、そしてロボットによる生活支援を描く社会派マンガとしての一面を持っています。

今回は、ゲンジとポン子の生活からこれから訪れる人間とロボットの未来を一緒に読み解いていきたいと考えます。

ロボットの役割って?

ぽんこつポン子

ぽんこつポン子』の見所は、ゲンジがポン子と生活を共にすることで、妻を亡くした傷心が癒され、町の人たちとも積極的に交流をするようになり、第二の人生を謳歌するところです。

その中で、ポン子は家政婦ロボットとして2つの側面でゲンジの生活を支えていることが伺えます。

1.利便性

ロボットには、人間の代わりに労働を担い利便性を提供するという意義があります。

作中でポン子はお茶を入れたり、肩を揉んだり、時には思い出のアルバムをデータ化して整理したりとゲンジの生活を支えます。ここでは単純な労働力ではなく、精神的な支援も同時に行っていることが判ります。

ぽんこつポン子

ポン子は、ロボットやAIが発達した本作の世界の中でも旧式ロボットのため、最新型のロボットと比較すると機能は劣り、手からマイナスイオンを出すという少々ずれた機能を披露するシーンもあります。確かにレトロな機能かもしれませんが、”癒やし”を提供するという機能ゆえの行動であり、またその機能を内包していることがポン子の白眉な個性でもあるのです。

ぽんこつポン子

ゲンジが倒れた時には、悪天候にも屈せずゲンジを病院まで連れて行くポン子からも判るとおり、全てに優先するのは”護ること”であり、田舎で一人寂しく暮らす老人にとっては無くてはならない存在として描かれています。

パートナーでもありバディでもあるポン子ですが、同時に一人で暮らし心まで硬直し始めていた老人をサポート=介護するロボットであり、それは少子高齢化の日本においていつか必ず求められる存在です。時に楽しく時にセンチメンタルに描く啓蒙の書として『ぽんこつポン子』は今のうちに読んでおきたい、未来を予言する大切な作品なのです。

ぽんこつポン子

ロボットとしてのポン子には、作中に未だ描かれていない未知の機能が満載です。作者本人が想像した(!)ポン子のひみつは、別記事の「『ぽんこつポン子』超ひみつ百科」をお読みください。

2.心理性

時にロボットは、人間らしい行動や感情を見せて私たちに癒しと安心感を与えてくれます。たとえそれが製作者によって意図されプログラミングされた結果の行為だとしても、人はロボットのそのような行為を愛おしく思う時があります。それは、人は一人では生きられない証なのかもしれません。

愛らしい表情と人見知りをするといった人間らしい行動が話題となったペット型ロボット「LOVOT」が、まさにそれを証明する代表例と言えます。

ぽんこつポン子

作中で、ポン子はロボットとは思えないほどの豊かな感情表現や奇想天外な言動でゲンジを驚かせます。それこそ、最初はうんざりしていたゲンジですが、一人きりでは産み出すことのできない人生の艶、ポン子の"人間以上に人間らしい存在感"が彼の生活に彩りを添えていきます。

人は時に恥じ、エゴや照れが行動に制限をもたらします。それを「素直になれない」と称するなら、ポン子には行動を抑えるためらいがありません。人の為にしなければならないこと、人が幸せになるために行動しなければならないことをストレートに見せてくれます。その無垢さこそロボットの特徴であり、人間を越えた真っ直ぐな存在とも言えるのではないでしょうか。

ぽんこつポン子

いつしかゲンジは、ポン子をきっかけに町内の人と新たな繋がりが生まれ、疎遠だった孫のゆうなとは一歩寄り添った関係を築くようになります。

ポン子は、利便性だけではなくセラピーロボットとしての一面を持ちゲンジの生活を豊かに、そしてゲンジを社会と繋げるという重要な役割を果たしているのです。

ぽんこつポン子

ロボットは〇〇な方が良い

ぽんこつポン子

利便性と心理性の側面でゲンジを支える...。一応ロボットとしての役割を果たすポン子だが、とにかく彼女はその名の通りポンコツです。

ぽんこつポン子

突然首が外れてしまったり、顔の表情を左右する機能が壊れてしまいゲンジを驚かせるのは日常茶飯事。それがポン子の魅力とはいえ、良いロボットといえば"利便性を追求した高スペックなロボット"を想像する人からすると、その姿は「あまりにもポンコツすぎるのでは...?」と不安になるほど。

けれど、実はロボットはポンコツな方が良いのです。

ぽんこつポン子

その理由は、先ほども登場したペット型ロボット「LOVOT」からも伺うことができます。

LOVOTは人間の代わりに労働を行うのではなく、甘えたりすることを求め人間に何かしてもらうことをねだります。

そんなLOVOTが生まれた背景を開発者であるGROOVE X代表・林要氏はこう語っています。

人は自らの献身的な行為を通して、自らを癒やすからです。人は集団で生きる社会的な生き物で、子育てに長い時間を掛ける生き物でもあります。また、集団の存続にとって良いことをすること、すなわち他者と助け合うことが心地良く感じる生き物でもある。

引用元:Forbes JAPAN

...ゲンジはまさにポン子に尽くされるどころか、尽くしているように見えるのは間違いではありません。ロボットと人の共生関係、頼る頼られる以上の不完全なロボットだからこそ、ほっとけないし愛着が湧く。そしてそんなポン子を支えるゲンジは、自分の存在意義や生きることへの活力を見出しているのではないでしょうか。

相手を見て自分を見つける。相手の行動から自分の意味を知る。そんなロボットと人の共依存関係。お互いのモチベーションを産み出す精神的マッシュアップ。『ぽんこつポン子』から、自分自身は何を見つけることができるでしょうか。

ぽんこつポン子

ポン子から読み解くロボットと私たちの未来

国民的ロボットが登場する『ドラえもん』や、廉価版のロボットとの結婚生活を描き話題となった『僕の妻は感情がない』。

...思い返せば、マンガで描かれるロボットは私たちが未来に期待するような"完全無欠"な存在ではありませんでした。それは、完璧な人などありえない以上、その人が産み出すロボットもまた完全ではないということであり、ロボットは人間の鏡として描かれ、失敗から学び、成長する、そのプロセスこそロボットを描く時の骨子とも言えるものだったからです。

ロボットにどこか不完全なところがあるからこそ、人間たちはそこに愛らしさを感じ自分が補うような行動をするのでしょう。穴を見つければ、それを埋める方法を模索し考える、そんな人間を愛し信じているからこそ『ぽんこつポン子』は描かれています。

ぽんこつポン子

ぽんこつな家政婦ロボット・ポン子と田舎で孤独な余生を送るゲンジのコメディマンガという顔と同時に、独居老人に必要なこと、今置かれているであろう現状、これからの課題。それらをゆるくしかし的確に伝え、あるべき未来の予想図を描いているのが本作です。

コロナ禍によって急速にオンライン化やAI技術の発達が進み、人間とロボットが共存する未来は想定より早く到来するかもしれません。

いつか必ずくる未来を『ぽんこつポン子』で、一足お先に覗いて見てはいかがでしょうか。

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