『チェーザレ 破壊の創造者』はスペイン名門貴族の庶子、チェーザレ・ボルジアを中心とした歴史絵巻です。チェーザレというのはイタリア語で、ラテン語で読むと「カエサル」になります。「ブルータス、お前もか」という言葉で知られる古代ローマ帝国の英雄と同じ名前をもった人物なんですね。
全ヨーロッパを統一し古代帝国のような平和と栄光を復活させようとしたチェーザレの、若い頃から発揮される政治的手腕や貴族たちの駆け引きや、レオナルド・ダ・ヴィンチが生きるルネッサンス期のイタリアの様子が魅力的に描かれています。
本作7巻では、チェーザレの思想に影響を与えたと思われる有名な歴史的事件「カノッサの屈辱」を紐解きます。
カノッサの屈辱とは?
1077年にカノッサ城で皇帝ハインリヒⅣ世と教皇グレゴリウスⅦ世が直接対決した事件のことで、「皇帝が教皇に屈服して頭を下げさせられたできごと」とされています。
本書では、この事件についてチェーザレに説明する教授が「その時代には皇帝の勝利、後世においては教皇の勝利」と言っています。
なぜ対立が起こったのか
信仰によって人々の信頼を得る「教皇」と武力によって人々の指示を得る「皇帝」は、人々にとって二つ並んだ太陽のような存在のはずでした。しかし当時、司教の任命権は皇帝にあり、教皇には事実上、何の権力もなかったのです。
これに異を唱えたのが教皇グレゴリウスⅦ世で、歴史上初めて皇帝をひざまずかせた教皇になります。教皇グレゴリウスⅦ世はミラノ司教の後任を選出しますが、すでに神聖ローマ帝国皇帝のハインリヒⅣ世によって司教が選ばれていたために、ミラノ司教が二人いるという前代未聞の事態になってしまいました。
この事態に皇帝が激怒。教皇と皇帝がそれぞれ司教を任命しつづけ、人々の混乱を招くことになります。そしてついに教皇は皇帝の破門を決断します。
任命された司教は、自分を任命した人に租税を奉納することになっていたので、叙任権を巡る争いは租税の奪い合い闘争でもあったんですね。
聖なる悪魔という汚名
教皇グレゴリウスⅦ世は税金の法制化も進め、教皇庁は巨額の現金収入が得られるようになりました。教皇庁の財政難が解消されたんですが、これらの経緯から教皇のことを「聖なる悪魔」と呼ぶ者も現れました。
廃位に追い込まれる皇帝
破門が解かれなければ、皇帝ハインリヒⅣ世を廃位し、新たな皇帝を擁立すると諸侯会議で決定がなされたために、皇帝は大慌て。諸侯たちと教皇を会わせないように、皇帝は急いで兵を挙げます。
この時、教皇が逃げ込んだのがカノッサ城でした。破門を解く気がない教皇は、皇帝の要求を無視しつづけますが、皇帝はなんと、粗末な服装を着て三日三晩かけて悔い改めたのです。
まさか皇帝がこんなにみすぼらしい姿で懺悔するとは思っていませんでしたが、これには教皇も破門を解かざるを得ませんでした。
悔い改める者を許さなければ、教会の権威が保たれないからですね。
その後、皇帝は再び破門を言い渡されますが、この経緯のために破門はもはや効力がないものになっていました。何回破門されても、悔い改めれば許されることが分かっているからです。
結局、どっちが勝ったの?
教皇と皇帝の争い、結局どっちの勝利なのかと考えてみた時に、「その時代には皇帝の勝利、後世においては教皇の勝利」という言葉が思い起こされます。
教皇が皇帝をひざまずかせたという事実はつまり、教皇が皇帝より上ということ。このことを後世の聖職者たちが時間をかけて啓蒙していったため、後世においては教皇の勝利と言われているのですね。
歴史の解釈はさまざま
7巻の巻末にある監修の原基晶先生のコラムに「教皇と皇帝、そして国王たちの対立が西欧世界の歴史を作ってきたといっても過言ではない」と書かれています。チェーザレが生きたのは「カノッサの屈辱」から約500年後になりますが、この権力闘争がチェーザレの時代までずっと続いているのです。
チェーザレが成そうとしたことを伝える上で、教皇と皇帝が激しい対立を見せた最初の事件である「カノッサの屈辱」は描かれる必要があったと原先生はおっしゃっています。それだけ、この作品全体を通じてとても重要な事件なのだと感じました。
「歴史は勝者がつくる」というような言葉もありますが、500年近く前の出来事を正確に読み解くことはできません。
ネット上で「チェーザレ・ボルジア」を検索すると、ボルジア家は残虐で非道な一族だったという記載を見かけることがあります。しかし、チェーザレと同時代に生き、「君主論」を書いたニッコロ・マキャヴェッリによると「理想的な君主」として語られているんですね。
チェーザレが本当はどんな人物だったのか、周りの人への気遣いや恋愛など、歴史的事実としては語られないような姿が描かれているのも本作の魅力です。
中世イタリア半島の歴史がすべて詰まっている
美術作品に残されたダンテの想いや、芸術を支えたメディチ家が心がけていたこと、
貴族と庶民の考え方の違いや、それぞれの立場での自らの生き残りをかけた振る舞い、
当時の貴族の生活や衣装のほか、庶民の暮らしなども丁寧に描かれています。
父の期待を一身に受けたチェーザレが、「平和」についてどのような考えを持ち、実現しようとしていくのか。歴史や政治、宗教、ルネッサンス期の芸術などに興味がある方には特におすすめです!
これほど深く歴史を掘り下げた作品はなかなかない!
巻末に参考文献や監修の原基晶先生のコラム、用語解説などもあって充実の一冊。世界史を学んでいるお子さんへのプレゼントにもぜひ!
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