乙嫁語り

森薫/著

『乙嫁語り』から知る日本人がまだ知らない中央アジアの結婚観と歴史

シルクロードの中継地の中央アジアは、東西民族の遺伝子も文化も入り交じり、美男美女が多いことで知られています。そんな気絶しそうな美しい女性達の群像劇のような物語、『乙嫁語り』の最新刊が2021年3月15日に発売されました!

本記事では、彼らの分岐点となるような大きな出来事を直後に控えながらも、まだその変化が訪れる前の幸せで笑いあふれる生活が描かれた最新13巻のレビューをお届けします!

『乙嫁語り』とは

『乙嫁語り』は、アニメ化もされたメイドと貴族とのブリティッシュロマンスを描いた『エマ』の作者、森薫先生の長編2作目です。2008年より「Fellows!」創刊に合わせて連載がスタートし、後に「ハルタ」に誌名変更されてからも継続的に連載されている同誌の看板作品とも言える作品です。

19世紀の中央アジアを舞台に、さまざまな結婚模様を描き連ねていく本作品では、様々な地域に住む女性達の生き方が描かれています。手縫いの繊細な刺繍がされた布や手作りのジュエリーで着飾る女性たちの結婚観、価値観、家族のあり方などに触れることができます。

物語の中心にいる アミルとカルルク

年の差婚の一組の夫婦を中心に物語は始まります。弱冠12歳の夫、カルルク・エイホンと、20歳の妻、アミル・ハルガル。この土地、この時代の人々からすれば、20歳での結婚というのは相当な晩婚で、アミルはいわゆる「行き遅れの嫁」として遊牧民の村から定住民のカルルクの元へ一人嫁いできました。

このカップルの年の差婚の行く末を見守る物語と思いきや、夫・カルルクの村で一緒に暮らす女性たちや、少し離れたところに住む双子の姉妹など、様々な境遇の女性たちが登場します。物語の語り部として、民族や文化に強い興味を持つイギリス人旅行家、ヘンリー・スミスを通して、現地の人々の生活がより鮮明に綴られています。

文献の少ない中央アジアを知れる

少数民族、遊牧民が暮らす地域で、言語も文化も多様であるが故に文献も少ない中央アジアの歴史。特にロシアの植民地時代やソビエト連邦の支配下にある時代では、情報が規制され言論規制や報道の自由を奪われ、出版物なども厳しく規制されていたこともあり、植民地になる前の様子は現地でしか知りえない情報もたくさんあるそうです。

森薫先生は、中央アジアへ取材に何度か訪れており、ヴェールに包まれた彼らの生活を取材の実体験と共に、マンガで惜しみなく表現されています。ストーリーの面白さだけでなく、衣食住や文化・歴史も知る事ができる貴重な作品となっています。

日露戦争に続く、混乱の予兆が描かれる最新刊!

同時期の日本は江戸時代末期、ペリーが来航し開国を迫られた頃です。その頃の中央アジアではロシアが不凍港を求めて南下し、クリミア戦争が勃発。ロシアがイギリスとフランスに敗北したため、中央アジアに進出を始め、ロシア軍の侵攻が顕在化する逼迫した様子が描かれています。

その後のアジア側の不凍港を占拠すべく始まった、日露戦争につながる時代背景も描かれており、世界史も学べる作品となっています。

物語の続きは2021年4月20日創刊の新漫画誌「青騎士」で!

13巻以降の物語は新しく創刊される「青騎士」に移籍します。

青騎士は、同じジャンルの作品を集めたマンガ誌が一般的になっている中、その常識を見つめ直し、アクション、ラブコメ、歴史、4コマなどさまざまなジャンルの作品を掲載される、全く新しいコンセプトのマンガ誌となっています!「今までになかった作品を生み出す」きっかけとなる場を目指すとあって、多ジャンルの作品がどう融合していくのか楽しみです!

森薫先生の担当編集者でもある大場渉さんのインタビューでは、「Fellows!」「青騎士」創刊についての裏話が紹介されています。ぜひこちらもお読みください。

知ることの幸福を体感する

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