「こんなもの、読んだことがない。どうなってるの」と読み始め、次第に「この人天才だ」と思い、同じ時代に生きていることを感謝した。2017年にアニメ化した本作は、宝石たちが彼らを襲撃しにやってくる月人(つきじん)と戦い、そして交わっていくストーリー。主人公は宝石たちの中で最年少、硬度が低く脆い、そしてこれといった特技のないフォスフォフィライト。
美しいとはこのことか。美麗な世界に浸る悦び
『宝石の国』でまず最初に圧倒されるのは絵の美しさ。宝石を思い浮かべてください。透きとおり、きらめく表面、ヒヤッとした質感…これがキャラクター達に盛り込まれているのです。人間や動物であれば、戦って傷つく時に飛び散るのは肉や血。
本作では宝石たちが傷つくと、四肢が砕け、宝石のかけらが飛び散るのです。人型でありながら人ではない。それが卓越した画力によって表現されています。
彼ら宝石のかけらを得るために襲撃するのは月に住む月人たち。仏さまのご来迎のような様相で、雨のように矢を降らせ宝石たちを狩りに訪れます。悲惨で痛々しい状況ですが、あまりの麗しさに見惚れてしまいます。
彼らはコミカルに悪態をついたりも。このギャップも魅力の一つ。
宝石たちも私たちとおんなじ。魅力的なキャラクターたち
28人のキャラクターは個性豊か。毒舌で雑なお医者さんもいれば、おしゃれ大好きファッション担当、毒液をまき散らすため周りを傷つけてしまうと他者との関わりを避ける子など様々です。可愛げな「ダイヤモンド」は硬いが割れやすいため、同族で割れにくい「ボルツ」に対し、愛情と尊敬、嫉妬と劣等感を抱きます。
「そういう気持ち、わかる…」と読んでいると、ぐいぐい引き込まれていきます。繊細で傷つきやすい彼らを見て、「脆さ」も大事な人の魅力だなと感じました。
比類なき世界観
舞台は人間が滅びてしまった世界。人間を祖先とする「魂」「骨」「肉」種族のうち、宝石は「骨」の種族で、月人は「魂」の種族です。宝石たちは体内に微小生物がインクルージョンとして内在されており、砕けたりしても破片を集めてくっつければ再生します。そのため、基本的に死の概念がなく、長生きです。最年少のフォスフォフィライトでさえ、登場時に300歳。
マンガや小説には神話などを元にしたお話が数多くありますが、この世界観は他にないのではないでしょうか。そのほかどうして月人は宝石を強奪しようとしているのか、「肉」族が何なのか3つの種族の関係は…と、次第に明らかになっていきます。伏線も実に丁寧で楽しみです。
装丁は市川春子先生ご自身が手掛けているそう。(Wikipedia情報)キラッキラで美しい!!!
<市川春子先生 短編集・インタビュー>
短編も最高です。
他サイトですが、市川春子先生の魅力が存分に判る以下記事も合わせてどうぞ。