2020年、辛い1年でした。だから、紹介させてください。今年、しんどい時間も忘れてしまうほど筆者を夢中にさせてくれた、とびっきりのマンガたちを!年末年始、あなたの心を温めるマンガたちをお届けします。
今回のテーマは「#読んで良かったマンガ10本 2020」です。生まれてこの方、出会い別れ出会ってきたマンガの数々から選んだこの10本、選り抜かれた作品はそのまま選者のクセ、個性、視線…色々なものを映す鏡になるのでしょう。
目次
- 『図書館の大魔術師』
- 『せんせいのお人形』
- 『マグメル深海水族館』
- 『舞妓さんちのまかないさん』
- 『ジゼル・アラン』
- 『あの人の胃には僕が足りない』
- 『水は海に向かって流れる』
- 『ロジカとラッカセイ』
- 『舟を編む』
- 『CITY』
- 僕の胃にはまだまだマンガが足りない
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『図書館の大魔術師』
司書(カフナ)を目指す少年が、やがて大きな運命という潮流へ乗り出して行くビブリオファンタジー。何を隠そう図書館員でもある筆者にとって、今最も新刊が楽しみな作品です。
この作品の最大の魅力はファンタジーでありながら、私たちが生きる現実世界との強い結びつきを感じられるところにあります。災厄。多様な民族性。人種差別の歴史。その潮流の中で図書館が人類に与える影響と使命の狭間で葛藤しながらも賢明に生きる司書たち。もう一つの人類史が泉光先生の卓越した画力の中に確かに根付いているのです。まさに圧巻の物語で読了後の満足度は超弩級です。
また、図書館員としての顔も持つ筆者としては、特に司書の業務に関する描写には唸らざるを得ませんでした。本の修復作業からレファレンス(利用者の情報探索を補助すること)まで、司書のなんたるかを泉先生は微に入り細に入り描き切っています。
『せんせいのお人形』
『せんせいのお人形』は育児放棄され孤独に生きていたスミカという少女が男性教員の昭明と出会い人間としての矜持を取り戻していく再生の物語。人間は何のために学ぶのか。その問いに対し1つの明確な答えを提示してくれる作品です。
このまま全部自分のせいにして流されるように生きたいか?自分で自分の手綱をとるか?
みすぼらしい身なり、欠如した知性、昭明はスミカのそんな姿を見て憐れむことなく彼女を教育することを決意します。ぜひ、第20話「学問の鳥瞰図」までスミカを見守ってください。彼の教育は結実し生きる意味を見出せなかったスミカの世界に彩りを与えるのです。字が読め学問ができる。その先に、学びによって自身を変革させることが人間には可能なのだという気づきを得られるのです。
育児放棄されたJKが、堅物メガネ教師に教育される話(1/8)#せんせいのお人形#タイトル詐欺#漫画が読めるハッシュタグ pic.twitter.com/q44dp7NHrb— せんせいのお人形(公式)@電子版4巻絶賛発売中!! (@sensei_oningyo) May 19, 2020
『マグメル深海水族館』
深海が月よりも遠い所にあることをご存じでしょうか。なぜなら、人体の強度では到底乗り越えられない障害に阻まれており、深海は地球最後のフロンティアだからです。未だその領域の多くは謎のベールに包まれています。そんなロマンに迫るマンガ『マグメル深海水族館』です。
人には未知なるものに対し恐怖を感じる本能が備わっています。この作品の主人公は知らないことを知ることが、その対象を好きになる第一歩であることを教えてくれますよ。
『舞妓さんちのまかないさん』
花街の表と裏の舞台で健気に働く少女たちの物語。筆者が今もっとも応援したい女の子たちです。
知られざる舞妓さんの私生活を覗けたり、舞妓さんに関する豆知識も教えてくれる一石二鳥なマンガです。舞妓さんはお客様である男性に里心をつかせないためにカレーはご法度って知っていましたか?
おっとり系のキヨ(まかないさん)と努力の鬼であるすーちゃん(舞妓さん)。2人は大親友で、互いを思う気持ちもごはんのおかずも、全て仕事に対する情熱に転換させていくストイックな少女たち!ほっこりしつつも清々しい気持ちにさせてくれる作品です。大人も負けてはいられません!
『ジゼル・アラン』
舞台はヨーロッパ。年端もいかぬ少女でありながらアパートの大家であるジゼル・アランが何でも屋を開業するところから物語は始まります。
何でも屋とは文字のごとくどんな仕事でも引き受ける人のことです。しかし、ジゼルは何にもできないのです。それもそのはず、彼女は世間知らずのお嬢様育ち。当然ながら人を助ける術をまだ身につけていません。彼女を突き動かすのは、ただただ誰かの役に立ちたいという純粋な思いなのです。
誰かを犠牲にしてやるような事を尊いとは言わない
人は皆、大人になると打算的になってしまい見返りを求めずに行動することが難しくなってしまうものですよね。しかし、ジゼルは何もできないことをきちんと恥じることのできる子供で、それでも自分にできることを模索しては挑戦を繰り返すのです。時に危ない目に合いそうになりながらも、誰かの役に立ちたいという自分の思いにだけは嘘をつかない。大人になってしまった僕らには、泥だらけになったジゼルの姿がとても眩しく映るのではないでしょうか。
これはもうだいぶ前に描いたもの(私が描きたかっただけの非公式)で、流れ的には5巻、二人が別れる前のひとコマという感じ。ですがクリスマス文化圏外だと冬至のお祭りで贈り物をしたりする…するんだとムーミンで読んだので… pic.twitter.com/QzXp0ec567— sui kasai (@kasai_sui) December 21, 2019
『あの人の胃には僕が足りない』
今、恋愛の形を定義づけることが難しいですよね。なぜなら恋や愛に性別や種族も関係なく、多種多様な関係性が描かれる時代だと思うからです。マンガのラブコメというジャンルにも思いの数だけストーリーが生まれています。その中でも、筆者が今年推しているラブコメが『あの人の胃には僕が足りない』です。
人間の男の子とワタリと呼ばれる異形の存在である女の子のちょっぴり異色なラブストーリーです。2人の初々しい反応とワタリの恐ろしい姿や人間に及ぼす危うさが両立し、二重の意味でのドキドキ感を味わえる作品となっています。
相手がどんな姿をしていても、愛する人を受け入れたい、理解したいという心の本質はいつの時代も変わらないものだなあとしみじみ思うのでした。あなたは今年、どんな恋愛に胸を打たれましたか?
『水は海に向かって流れる』
ゆるい画風にコミカルなキャラクター同士の掛け合い。ときどき、心を見透かしてくるかのように本質を突くさりげない容赦のなさ。誰もが抱えるどうしようもなくやり場のない感情の正体と向き合い、どこで折り合いをつけていくのかを探っていく物語です。
それは好意であり、戸惑いであり、不安であり、もしかしたら怒りかもしれません。名前がつけられない感情をどうしてくれようと途方に暮れていたら、ある時すっぽりとハマる居場所が見つかって腑に落ちてみたり。なんとかして一歩でも前に進みたいもどかしさを感じて生きているのであれば、心のつっかえが消えてくれるかもしれません。
だけど、自分ではどうしようもなく向き合うことに疲れてしまったのならば、時には流れに身を任せて自然にどこかに流れていってしまうのを待つのもいいのかもしれません。ずっと同じ場所に留まっている感情なんてないのですから。それを許せた時、きっと人生という大きな流れはまた別の場所に向かって流れ出すのです。
『ロジカとラッカセイ』
人ならざる者「人外」をこよなく愛する紀ノ目先生が描く、たった1人の人間と不思議な生き物の物語。
私たちはいったい何に自分の心を動かされるものなのでしょうか。人間の言葉を持たない動物の親の愛のある行動に涙を流せたりするのも、我々人間にはその瞬間目に見えていないものを想像する力があるからです。「いちばんたいせつなことは、目に見えない」とはサン=テグジュペリが『星の王子さま』で語った言葉です。
人外キャラクターが登場する『ロジカとラッカセイ』では、人間である読者が見たままの彼らの姿に囚われずに、いかに想像力を働かせ彼らの本当の想いを汲み取ることができるかが試されます。絵本で語られる本質に迫るように読みたい作品です。
『舟を編む』
辞書は言葉の海を渡る舟だ。
「大渡海」という辞書を作る人々の物語。果てしなくも尊い作業の連続。これほどまでに忍耐強い人たちを筆者は知りません。そして、誰よりも言葉を愛し言葉に誠実であろうとする主人公が、誰よりも不器用で口下手であることがたまらなく愛おしいのです。
【舟を編む 最終話「灯」放送開始まであと4時間!】
櫻井孝宏さん神谷浩史さん坂本真綾さん日笠陽子さんが出演する、朗読劇「舟を編む」!
来年1月発売のBD/DVDの購入特典で、無料招待されるチャンスです♪
詳細はこちら→https://t.co/kyiNL6hfTx#舟を編む pic.twitter.com/mT3FDGXSwh— アニメ『舟を編む』 (@funewoamu_anime) December 22, 2016
言葉を正しく理解し、誠実に紡いでいく人間でありたい。心からそう思わせてくれる作品です。電子もいいけど、辞書はやっぱり紙がいいですね。(マンガもね。)2016年にアニメ化もされました。原作もアニメもマンガ版も全てオススメです。
『CITY』
筆者はあらゐけいいち先生が創る世界観の大ファンなのですが、その魅力や空気感を語るにはまだまだ筆者の思考速度が足りていません。
シンプルなのに計算し尽くされたキャラクターフォルム。彼らが転がすスピード感のある会話劇。ストーリーは急カーブでさえ強引に曲がりきるジェットコースターのよう。笑いあり、また笑いあり。そしてときどき涙あり。あらゐけいいち先生の物語の運び方には自分の感情予報がまったく当てにならないため楽しくて仕方ありません!
あらゐけいいち先生こそマンガ界の笑いの最先端を突っ走っていると信じています。追いつけないからこそ、先生だけが見ることのできる独創的な世界観が成立しているのです。先生の手のひらの上で転がされているのは果たして『CITY』の住人たちか、我々読者か。ぜひ、常識は捨ててからお読みください。
僕の胃にはまだまだマンガが足りない
世界中が大きな不安と悲しみに包まれる中、マンガはいつだって僕らに勇気や喜びやさまざまな感情を与えてくれました。あなたにとってかけがえのないマンガとは出会えましたか?
今年は心が満腹ですが来年はさらに胃袋を広げて、新たに誕生するマンガたちを今か今かと待ち構えていようと思います。素敵なマンガと出会えたら、こっそり教えてくださいね。良いマンガは読み過ぎても困ることはありません!