本田圭佑が読みたい「サッカーマンガ」とは?直撃インタビュー

2019年に40周年を迎えたヤングジャンプが、全40テーマの漫画賞を設けた「賞金総額最大1億円40漫画賞」を2020年1月9日(木)より開始しました。「歴史」「SF」「ラブコメ」といったメジャーなものから、「勝手にスピンオフ」「愛されキャラ」などのニッチなものまで、多彩なテーマが用意されています。

さらに、「歴史」は『キングダム』の原泰久先生、「SF」は『GANTZ』の奥浩哉先生、「ラブコメ」は『かぐや様は告らせたい 〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の赤坂アカ先生と、ヤングジャンプ連載陣のそうそうたる先生方が審査員を務めます。

アルは40の漫画賞を盛り上げるため、各業界におけるマンガ好きの著名人の方々にインタビューする連載企画をスタート。第1弾は、世界的なプロサッカー選手であり、パーソナルトレーニングサービス「NowDo」やサッカークラブ「OneTokyo」を手がける事業家としても活躍される、本田圭佑さんにインタビューしました。

プロフェッショナルとして世界を舞台に戦う本田さんに、マンガを読んでいて共感するポイントや、読んでみたいサッカーマンガのアイデア、世界を狙う漫画家さんが持つべき視座について伺いました。

本田圭佑、とにかく熱くマンガを語る

ーー本日はよろしくお願いします!それにしても、本田さんもマンガを読まれるんですね。なんというか「時間が惜しい」みたいなことを仰って、難解なビジネス書やサッカーの専門書ばかりを読まれているイメージがありました。

本田:もちろん本も読みますが、マンガも大好きですよ。熱狂的に好きな人たちには敵わないと思いますけど、一般的な「マンガ好き」とされる人たちに「甘いな」っていえるぐらいには、読み込んでいると思う(笑)。

ーーお話をお聞きできるのがとても楽しみです!それではまず、本田さんの好きな作品について伺っていきたいです。事前に行わせていただいたヒアリングによると、『沈黙の艦隊』がお気に入りだそうですね。

本田:大好きですね。何が魅力的だったかというと、物語が始まってすぐに主人公の海江田が、「マジで実現できちゃうんじゃないか」と思えるやり方で独立国家を誕生させた点。衝撃的な展開で、一気に引き込まれてしまいました。

沈黙の艦隊

本田:マンガって、読み進めるうちにだんだん秘密が明かされていき、クライマックスに向けて加速していくものが多いと思うんです。けれど『沈黙の艦隊』は、いきなり事の顛末が明かされる構成で、とても作品に入り込みやすかった。

「非常にセンスのある描き方やな」と思って読んでいました。すごく上から目線な言い方になっちゃって、恐縮なんですけど(笑)。

ーーなるほど。本田さんは現実世界でも起こりそうなリアリティのある作品がお好きなのでしょうか?

本田:いや、そんなこともないですよ。『ドラゴンボール』みたいなファンタジー要素のある作品もすごく好きですし。いま一番ハマっているのは『キングダム』で、理由を語るのが難しいくらい、ただただ引き込まれています。

ーーおお、実は僕、まさに『キングダム』読み進めている最中なんです。いま、20巻くらいで止まっちゃってるんですけど。

本田:え、あんなに面白いのになんで止まっちゃうんですか!その気持ち、全然分からん。なんで止められるのかが、マジで分からないです!

すごい勢いで突っ込まれてしまった。ちゃんとキングダム読みます、すみません…。

すごい勢いで突っ込まれてしまった。ちゃんとキングダム読みます、すみません…。

本田:僕、三国志の曹操が主人公の『蒼天航路』も好きなんですけど、中国の戦国時代の史実をもとに描かれている作品ってそれだけで面白いし、「卑怯だな」と思っています(笑)。当時の中国の武将って史料が昔過ぎて、あまりにも非現実的なパフォーマンスの記録ばかり残っているじゃないですか。「人間の身でそんなことできひんやろ、絶対盛ってるやん!」って(笑)。

ーーたしかに、人間離れしすぎでしょ!ってよく思いますよね(笑)。ちなみにキングダムに一番ハマっているとのことですが、特に印象的なシーンってあります?

本田:もう、ありすぎて。やっぱり、大将軍・王騎が死ぬシーンは強く印象に残っています。作品の初期で一番グッときたのはそこですね。よくそこで萎えちゃってる人がいたりするんですけど、「いや、そっからやろ!」と(笑)。

あとは、えっと…あいつの名前なんやったっけ。シーンは浮かんでるんですけど、キャラクターの名前がなかなか出てこない。主人公の信と似たタイプの、本能型の将軍、いましたよね…?

必死にキャラクターの名前を思い出しながら、キングダムの魅力を語る本田さん。

必死にキャラクターの名前を思い出しながら、キングダムの魅力を語る本田さん。

ーーキングダムのキャラクター、名前が漢字ばかりで思い出しにくいですよね(笑)。

本田:そうなんですよ。そうだ、麃公(ひょうこう)!あの人が死んだシーンも、めちゃくちゃ感動的でした。あとは、蒙武(もうぶ)や桓騎(かんき)が絡むエピソードは全部、最高。特に桓騎はすごく残虐な男ですけど、戦術のセンスが抜群で好きですね。

「サッカーに置き換えたら、こいつ鬼のファンタジスタやんな。でも、こういうやつばっかりやったら、絶対にチームは機能せんな」とか思いながら、めちゃくちゃ楽しんで読んでます(笑)。

“サッカーだけじゃないサッカーマンガ”が読みたい

ーー「サッカーに置き換えたら」というお言葉が出ましたが、マンガからサッカーのプレースタイルに影響を受けたこととか、あったりします?

本田:子どもの頃からずっと読んでいる『グラップラー刃牙』シリーズからは、すごく影響を受けたと思います。普段からイメージトレーニングを大切にしているんですけど、今考えると、無意識のうちに刃牙を真似ているかもしれないです。

ーー刃牙は“体重100kgのカマキリ”と戦うイメージトレーニングをしたりしますよね(笑)。本田さんも、子どもの頃はキャラクターの真似をしたりしていたんですね。


本田:めっちゃしましたよ!自分にも舞空術(『ドラゴンボール』に登場する空中を浮遊する技)が使えると信じて宙に浮く練習をしたり、霊丸(『幽遊白書』の主人公・浦飯幽助の必殺技)を撃とうとしたり(笑)。霊丸って1日に4発しか撃てないので、ちゃんと配分を考えて撃っていました。

ーーいま、一気に本田さんに親近感が湧きました(笑)。

本田:あと、もう少し『刃牙』について言及したいです。『刃牙』シリーズって格闘マンガの印象が強いんですけど、こんなにもプロフェッショナルの在り方が描かれたマンガ、他にないと思うんですよね。「そこまで追求するんや!」って、あるべき姿勢が学べる。格闘に興味がなくても、何かを極めようとしているすべての人に読んでほしい作品です。

ーー本田さんは現実での出来事と紐づけて考えながら、マンガを読まれるんですね。ちなみにここまで名前が挙がりませんでしたが、サッカーマンガはあまり読まれないのでしょうか?

本田:たくさん読んでいますよ。『キャプテン翼』にはじまり、『イレブン』や『リベロの武田』、原案として参加した『ファンタジスタ』など。もう少し最近の作品だと、『GIANT KILLING』とか『アオアシ』も読んでいます。

けれど正直に話すと、サッカー以外のジャンルのほうが、相対的に好きな作品が多いですね(笑)。

ーーその理由を掘り下げていきたいです。サッカーマンガと、それ以外の本田さんが好まれている作品の違いは、どこにあるのでしょう?

本田:うーん、「人間の生死」が関わっていることでしょうか。「生きる」という人間の本質が描かれている作品に圧倒的な面白さを感じるし、惹かれるんですよ。殺すか殺されるかの真剣勝負に、僕の人間としての本能が反応しているのかもしれない。サッカーやと、それがないからなぁ(笑)。

ーーサッカーマンガを描かれているあらゆる漫画家さんに、大きなプレッシャーがかかってしまったような…。ちなみに、仮に本田圭佑に刺さるサッカーマンガを漫画家さんに描いてもらうとしたら、どのような作品になると思います?


本田:僕に刺さるサッカーマンガは、そうだな…。登場するキャラクターがサッカーをする分にはいいんですけど、“裏のミッション”をつくってほしいですね。たとえば、主人公は表向きにはサッカー選手だけれど、実は国の今後を左右する使命を背負う超能力者で、それを遂行するために奔走する、とか。

ーーおお、ユニークな発想!

本田:それで、超能力やミッションのことは世間に隠しているんだけど、サッカーをプレーしている最中にうっかり超能力が発動しちゃって、「おい、バレるなよ!」って総理大臣がヒヤヒヤしているみたいな(笑)。

僕、『ドラゴンボール』で悟飯が野球をする回が好きなんですよ。一般人として暮らしたいから目立たないように気をつけるけど、外野でボールをキャッチするときにあり得ないジャンプをしてしまったり、デッドボールをまったく痛がらなかったりで、周囲から怪しまれてしまうんです。

ーーなるほど、イメージの元になったシーンがあったんですね!

本田:僕が思うマンガの醍醐味は、フィクションを交えられること。共感できる親しみやすさを持つキャラクターと、現実ではあり得ない世界観を両立できたとき、多くの人が楽しめる素晴らしい作品が生まれると思っています。

実際に、世界的に売れているマンガって、ファンタジー要素が絡んでいるものが多いですよね。だから、サッカーマンガといえど現実的なサッカーをするに留まらず、思いもよらない展開が繰り広げられる作品なら、僕も楽しめるかもしれませんね。

世界で戦う人が持つ「ハングリー精神」の実態

ーー先ほど「人間の生死が描かれる作品が好き」というお話がありました。本田さんは「人間の本質」みたいなものへの関心が、とても強そうです。

本田:そうだと思います。知人から「本田さんは結局、人に興味があるんですね」とよく言われるんですよね。最近、ビジネスを通じて楽しさを感じる場面が増えてきたんですが、それも人への関心の強さが根底にある気がしています。

ビジネスとは要するに「人に対するサービスの提供」であり、人の欲求を掘り下げていくこと同義です。サービスの設計をしていて、人の心理を読む難しさを痛感しますし、自分が思った通りの反応が得られたときは最高です。

反対に、上手くいかなかったとしても、そこでもがけること自体に楽しさを感じます。

ーー人について考えるのが好きだから、ビジネスにも楽しさを感じられるのですね。ここからは「世界で戦うこと」についてお伺いしていきたいのですが、人好きな本田さんから見て、世界で戦える人と、そうでない人の差って何だと思いますか?

本田:じゃあ、サッカーの経験をもとに話していきますね。まず、世界を目指すためには、ハングリー精神を持つことが肝心です。そして、強いハングリー精神を持つ人の条件については、僕は明確な仮説を立てています。

これから話す内容に関しては、サッカーに関わる仕事をしている人は全員、マジでお金を払ってもらいたいくらいなんですけど(笑)。

ーー期待が高まります(笑)。

本田:答えはすごくシンプルで、「相対的な貧困層として育った人」であることです。たとえば日本やニューヨークのように、世界的に見て裕福な地域で生まれたとしても、相対的に貧困な家庭で育った選手は、強いハングリー精神がある。反対に、貧しい国で生まれたとしても、相対的に裕福な家庭で育った子は、ハングリー精神が弱い。

ーー絶対的な貧困度合いとは関連しないのでしょうか?

本田:1日10ドルしか稼げないような家庭でも、周囲の人々と比べて裕福だと、精神的に満たされてしまい、ハングリー精神が育まれにくいですね。これまで教育に携わってきて、ハングリー精神がある人とない人の見極めはとても難しかった。けれど、カンボジア代表の監督をした際に、この仮説に自信が持てるようになりました。

ーー少し話が逸れるかもしれないのですが。もともとハングリー精神を持っていても、あるラインを超えたときに満たされてしまう人と、どこまでいっても満たされない人がいると思います。本田さんは、後者だと思うんですけど、その差は何だと思われますか?

本田:おっしゃる通り、僕も満たされない病気ですね。説明がつかないんですけど、とにかく負けず嫌いなだけだと思いますよ(笑)。勝利への執着がとにかく強くて、2番や3番だと気が済まないんです。

しかも、どこまでいっても上には上がいて、その存在に気づくとまた上を目指したくなる。ある領域でトップになったとしても、「あれ?これって見方を変えたら、結局俺は1番じゃなくない?」と気づき、悔しくなってしまうんです。

ーー何かを成し遂げても、自分が一番でない理由を探してしまうとすれば、どこまでいっても満たされないわけですね…。

本田:あくまで僕の予想ですけど、ソフトバンクの孫さんや楽天の三木谷さんのような日本を動かすトップ経営者の人たちも、モチベーションは同じなんじゃないかと思っています。ある業界でトップになっても、俯瞰して見てみると、さらに上がいて…。彼らはそれを、ずっと追い続けているんじゃないかなと。

無理に「差別化」しなくていい

ーー話を元に戻します。ハングリー精神の強弱が、幼い頃の環境に起因して決まってしまうとすれば、「世界を目指せる人とそうでない人は、大人になった時点で決まってしまっている」ということでしょうか?

というのも、世界の舞台に立つ本田さんに、マンガで世界を獲ろうとする漫画家さんへのアドバイスをもらえればと思っていたのですが…。

本田:たしかにハングリー精神は育った環境に起因すると思いますが、世界を目指す視座の高さは、後天的に身につけられますよ。視座の高さは単純に数値化できるものではありませんし、あるとき急に降りてくる使命感のようなものだったりします。僕だって、まさか自分がビジネスの世界に飛び込むなんて、思ってもいませんでしたから。

ーー本田さんは最初から「いつかはビジネスをやろう」と考えられていたわけではなかったんですか?

本田:なかったんですよ。とにかくサッカーで世界一を目指すことだけを考えていましたから。変化のきっかけは、アフリカに訪れて、貧しい子どもたちの生活を目の当たりにしたことでした。

日本でテレビを見ていれば、海外に貧しい子どもたちがたくさんいると、誰でも知っていますよね。日本にいるうちはただのニュースとして受け取っていたんですが、実際に自分の目で見てみたら、「この状況を変えたい」という使命感が湧いてきたんですよ。

これって、後天的に現れたものですよね。だから誰にとっても、強い使命感を覚えるような事柄が、きっと潜在的にはあると思うんですよ。それは育った環境に紐づくハングリー精神とは、別のもののはずです。

ーービジネスに無関心だった本田さんが、これだけビジネスに熱中できているということ自体が、ハングリー精神が薄くても世界を狙えることの証左になると。ちなみにサッカーに関して、本気で世界一を目指されるようになったのは、どのタイミングからでしょうか?

本田:サッカーを始めたときから世界を目標にしていましたが、本当の意味で「実現できるかも」と思えるようになったのは、2010年に初めてW杯のメンバーとして選ばれたときですね。大会に出られるんですから、勝ちさえすればガチの世界一になれますから。

それ以前と以後で、努力の仕方は明確に変わりました。体験の有無はやはり大きいと、改めて実感しましたね。けれど、ずっとイメージトレーニングはしていたので、あまり驚きはなかったかな…。子どものときから、「世界はこんなに甘くないやろ」と思いながら練習していたので。

ーー刃牙から学んだイメトレですね!本田さんのように、世界一を目指す視座を身につけるためのコツって何かありますか…?

本田:視座について話すと、「自分のなりたい姿」に限界を設定しないのがポイントだと思います。そのためには楽観主義でいることが大切で、周りの人たちを気にしすぎるのはタブー。周りから批評されることを、幸せに思うくらいでなければいけません。

サッカーも起業も、自分の競合優位性は考え抜かなければいけない。一方で、他の人と自分を比べてばかりいると、どうしても縮こまってしまう。身も蓋もないことをいうと、いつか「優位性なんか、ないやん!」って気づくんですよ(笑)。

ーー自分より優れている人がいるのは、当たり前だと。本田さんでも、そのように思われるんですね。

本田:起業の際、「似たビジネスモデルの企業は他にもあるけれど、あなたたちだけの強みは?」と聞かれることは、あるあるです。マンガの話に置き換えるなら、「あなたの作品だけのオリジナリティは何?」といった問いになるでしょうか。

けれど、差別化ばかりを気にしていると、ドツボにはまってしまう。ニッチな領域にシフトしていくうちに、当初の目的からだんだん逸れていってしまうんです。そうではなくて、自分が本当につくりたいもので堂々と攻めればいい。世の中には想像以上にたくさんの人がいて、そのうちの誰かには刺さるかもしれませんよね。

僕だって、仮にいま「秦の始皇帝の物語を描いて、『キングダム』を超えるぜ!」というマンガが出てきたら、そっちも読んでみたいし買いますもん。「『キングダム』に勝てなかったら、やる意味なくね?」って思うかもしれませんけど、いやいや、勝てないならやる意味ないって誰が決めたん?と。

ーー競争が熾烈だとしても、それを理由に限界を決めつけず、自分の描きたいものを描くのが大切だということですね。

本田:メジャーなジャンルへの挑戦に尻込みしてしまう気持ちは、分かるんですけどね。けれど王道で攻めるとはつまり、世界を狙えるということ。目先のことを考えるのではなく、未来を見据えた“ビッグ・ピクチャー”を持ち、素晴らしい作品を描いてほしいなって思います。

あとがき

予想を超える熱量でマンガへの想いを語ってくれた本田さん。好きなシーンについて語られる際は作中の細かい設定まで解説してくださり、その記憶力に驚かされるとともに、本当にマンガがお好きなのだと伝わってきました。

最後に本田さんは「ビッグ・ピクチャーを持ってほしい」という言葉を残してくれました。つまり、「漫画家になる」「連載を獲得する」といったゴールを設定するのではなく、最初から「世界を獲る」という視座でマンガを描いてほしいというメッセージです。

そのためには、本田さんがおっしゃるように「あえて王道を狙う」という挑戦をしてみるのも一つの手かもしれません。

「ベンチャー企業に投資するためには、エンジニアの気持ちを知る必要がある」と、未経験だったプログラミングを一日10時間も勉強するような本田さん。彼が発するからこそ、「視座が大切」というシンプルな言葉に、ズシンとした重みが感じられました。

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