【イベントルポ】安野モヨコ展「ANNORMAL」 膨大な原画と巡る、モヨコ先生画業30年間のマンガの旅

世田谷文学館で~9月22日(祝・火)まで開催中の安野モヨコ展「ANNORMAL」、それはもう神の原画展。もう行きましたか?いつ行きますか?何度目ですか?

安野モヨコ先生の画業30周年を記念して開催されているこの原画展「ANNORMAL」。『シュガシュガルーン』『働きマン』『ハッピー・マニア』などの大ヒット作品から、広告系のイラスト、ご自身の年賀状、書籍のカバーや挿絵まで500点以上の原画を楽しむことができるすごい展覧会なんです!

しかも…

展示はすべて、写真撮影OK!!太っ腹すぎる…!!(動画はNGですのでお気をつけて…!)

あの懐かしい作品、大好きだったカット、流麗すぎる筆使いなど、全てカメラロールにお持ち帰りできるんです、幸せ…!!

安野モヨコ先生【Anno】の、普通でない【unnormal】原画展、【ANNORMAL(アンノーマル】。会場の様子を観てきましたので、たっぷりご覧ください。

※記事内写真は全て筆者が撮影したものです。

エントランス

ご覧ください、この目のさめるようなピンク!

代表作の、『ハッピー・マニア』『働きマン』『さくらん』『鼻下長紳士回顧録』の巨大な単行本のページが開かれ、それぞれの物語世界に飛び込めるようになっています。

たくさんのコミックスにいざなわれたその先には…まさに美麗な空間が広がっていました…!

女 - 男

展覧会では、安野先生の30年の作品が、5つのコーナーに分けて展示されています。まずは【女 - 男】。こちらには、『さくらん』と『バッファロー5人娘』、そして『花とみつばち』の原画がたっぷり展示されています。

さくらん

吉原の遊郭・玉菊屋に売られたわずか8歳の少女・きよ葉。きよ葉は、吉原に集う男と呼び込む女の悲喜劇を見ながら、いつしか自身も売れっ子の花魁に成長する。そして、客の青年・惣次郎と恋に落ちてしまう…花魁の艶やかな世界の明暗を描ききった名作です。

陰影が美しいタッチで描かれた『さくらん』の生原稿を見ているだけで、いつの間にか30分くらい軽く経っているので次の予定にご注意ください…!和服の流れるようなラインとか、きよ葉の色香漂う襟足とか、1コマ1コマの芸術性が高すぎて、永遠に見ていられます。

バッファロー5人娘

砂漠の町に売られてきた女の子たち。心身共に自由が無いはずの彼女たちですが、自分の本能の声に従って娼館から脱走!彼女たちは追っ手から無事に逃げ切り、自由を得ることができるのでしょうか…!?ハリウッドの西部劇のような、ロードムービーのような、アクションムービーのような、それでいて甘いラブ要素たっぷりの逃亡劇です。

セクシーでキュートで力強い女性たちがたくさん出てくるこの作品。可愛すぎるカラーイラストと、躍動感溢れる原稿の迫力。同じ「娼婦」を描いているのに、和洋の舞台の違いで『さくらん』とここまでタッチを変えられるものか、そんなところに感動できるのも、原画展ならではの喜びです。

花とみつばち

女の子にモテたい…!いろいろ間違った方向に努力をしてしまうモテない男子高校生、小松。ある日、偶然見かけた超絶美少女・のり子に一目惚れしてしまい、メンズエステに飛び込んで精進努力することに。安野モヨコ先生初の青年コミックです。

安野先生作品では珍しい主人公が男性のこの作品。小松が憧れてやまないキラキラした女子たちのイラストが網膜に眩しい、とっても楽しいコーナーです!

荒 - 和

次のコーナーのテーマは「荒 - 和」。待ちに待った『ハッピー・マニア』の登場です!

ハッピー・マニア

何が「荒」れているって、そりゃもう、主人公の重田加代子(以下カヨコ)に他ありません。「本当の幸せはどこ!?」「運命の人はどこ!?」とハッピーを求めて暴走しまくるカヨコ!1巻の1話で告白してくれる高橋という男(しかも実はハイスペック)がいるというのに、「もっと身を焦がすような愛が欲しい・・・!」と爆進する様子がたまらない、恋愛マンガとしてもギャグマンガとしても秀逸すぎる傑作です!

『ハッピー・マニア』でワクワク楽しかったのはストーリーだけではありません。カヨコやカヨコの親友・フクちゃんのファションを憧れつつも楽しく読んでいた人も多いはず。作品全体が身にまとうオシャレな雰囲気も合わせて楽しめる、鮮やかなカラーイラストの数々。正に感涙モノです!

そして、カヨコのハイテンションが懐かしい、選びぬかれた名シーンの原稿もたくさん展示。懐かしさとたまらなさが溢れ出る最高のコーナーです!

こんなに激しく荒れ狂うカヨコを描くその右手で、静謐な一枚絵をも描いてしまうのが安野モヨコ先生。そのスゴ技が光るコーナー、「和」の代表作は、「キモノガールズ」です。

キモノガールズ

書籍の表紙、挿絵などで素晴らしいイラストをたくさん生み出してきた安野先生。その芸術作品たちがギュッと展示されているのが「和」のコーナーです。なんと、安野先生デザインのお着物まで展示されているのです。キレイすぎる…!!

色使いが本当に美しいキモノガールズ・シリーズを堪能しつつ、モノクロの一枚絵の繊細さに目を瞠る。眼福って、正にこういうことを言うんだなと理解しました。

美 - 醜

安野モヨコ先生作品で本当に好きなポイント、それは、人間の心身の醜さをあぶり出してくれるところ。それが、この「美 - 醜」コーナーに凝縮されています。

ジェリーインザメリィゴーラウンド

ミッション系のお嬢様学校に通う女の子、ミリ。16歳の誕生日に、生き別れとなった、まるでお姫様のように可愛い容姿の双子の「兄」と再会する。一夜にして一文無しになってしまい、移り住んだボロ屋で、何故かイケメンモデル3人と一緒に共同生活をすることに!さらに、自分も「少年」モデルとしてデビューすることになったミリの、恋に仕事に、キラキラと可愛さ溢れる、まるでメリィゴーラウンドのような生活が描かれた作品。

ミリは、ボロボロの家の部屋を自分好みに改造し、さらにその部屋に合う衣装を身にまとう…そんなトータルコーディネートをしたい!という夢を持つのですが、リノベーションという概念がそこまでなかった20世紀末にこのような発想、やはり安野先生は時代の最先端を全力で走っていらっしゃる…!「美」はもちろん、リズム感あるギャグもキレッキレの作品です!

王道で可愛い、美しいものが詰め込まれたこの作品と同時期に描かれたのが、外見ばかりにこだわる女性の人生に痛烈なカウンターパンチを食らわすかのような作品、『カメレオン・アーミー』です。

カメレオン・アーミー

美人OLの祐子は、不倫きっかけで会社をクビになり、地味で小さな会社に転職。そこには、これまた超地味な大山という女性社員がいた。祐子な自由奔放な振る舞いを見て、歪んだあこがれを抱いた大山。徐々に、祐子と同じメイク、髪型、服、髪の色で変身していきます。さらには立ち居振る舞いまでもが祐子をコピーするように。カメレオンのように外見も中身も変える女性たちに冷酷な現実を突きつけるショートストーリーです。

まさに「美 - 醜」コーナーにふさわしいこの2作品が同時期に描かれたのって本当に凄い…っていうか、同時期に『ハッピー・マニア』をも連載中!ひとつの脳みそ、利き腕1本から生み出される作品の極端なまでのコントラストも一気に楽しめる凄い原画展なのです!

夢 - 現

人間の中に潜む美醜について描ききった世界に浸った後は、ドリーミーすぎる作品と、社会の厳しい現実を直視しまくる作品の対比の世界が私たちを待っています。そんな「夢 - 現」コーナーには、これまた同時期に描かれた『シュガシュガルーン』と『働きマン』の登場です!

シュガシュガルーン

魔界の少女、ショコラとバニラ。親友でもあり、魔界の次期女王候補のライバルである2人は、人間のハートをより多く集めるという試験のため、人間界へ。人間の学校で、ショコラは謎の少年ピエールに惹かれ始めて…?ハートをゲットする修行を続ける魔法ファンタジーストーリーです。

この作品を読むと、「可愛い…」もしくは「可愛い…」と、「可愛い」以外の語彙を失う女子がたくさんいるはず…!可愛いのみならず、大切なものを想う気持ちや友情の強さ、努力することの大切さ、さらにはお掃除のやり方まで、この作品は、当時の読者たちに多大なる影響を与えてくれたのです。

そんな作品の原画はですね…神の御業のオンパレード!!

こんな大切なシーンの原稿まで飾られているんです。太っ腹ですか!?このコーナーを見ている人は、全員残らずピンクのハートを出してしまっているはず…!

働きマン

一方、働く人たちに刺さりすぎる作品がこの、『働きマン』です。

週刊誌「JIDAI」の編集者、松方弘子(28歳)。ハードな週刊誌の現場で、時には泊まり込んだりしても、とにかく仕事が終わらない…私生活を完全に犠牲にしても、仕事が大好きな松方。そんな彼女と、その周辺の人々にとって「仕事とは何か」を描いた、これまた名作です。(名作しか無い)

『働きマン』も大好きな作品なのですが、原画展では、かゆいところに手が届くような名シーン、グッと来る一コマが沢山展示されています!

特に、私が個人的にちょっと原画展会場で思い出し泣きしそうになってしまったのはこの一コマ!

一体彼は、何故言葉に詰まって涙ぐんでいるのでしょうか…?絶対に深く心に残るシーンなので、未読の方はぜひ読んでみてください!ちなみにこのエピソードは2巻に収録されています。

このように、多岐に渡るジャンルの作品を、同時期にたくさん生み出し続けてきた安野モヨコ先生。あまりにも壮絶な仕事量に、ついに心が「破」の状態に陥ってしまい、『オチビサン』以外の連載はすべて休載することになったのです。

破 - 創

オチビサン

心を壊してしまった安野先生が唯一連載を続けた『オチビサン』。この世のどこか、鎌倉っぽい場所にある「豆粒町」に暮らすオチビサンと仲間たち。季節の移ろいを楽しみながら、ゆっくり楽しく暮らす様子が描かれた、癒しの作品です。

オチビサンの展示では、なんとこんな空間が私たちを待っていてくれるんです。思い描いていた豆粒町の一室がここに!!

『オチビサン』を読んでから、秋に落ち葉を踏む時の音を楽しむようになった私としては、紅葉の演出もとても嬉しいものでした…!

さらに、安野先生がポショワールという版画の手法でオチビサンの原稿に彩色している様子の動画を見てから、実際の原画を堪能することができるんです。淡い原画の美しさが、心にダイレクトに染み渡るようです。

鼻下長紳士回顧録

『オチビサン』以外の創作活動を休止していた安野先生による、8年ぶりの『創』り出した連載作品、『鼻下長紳士回顧録』。パリの売春街で娼婦をしているコレット。彼女が働くのは、変態的な欲望を抱えた紳士たちが足繁く通う娼館でした。変態紳士と彼らの願いを叶える娼婦たちが織りなす、官能と愛の物語です。

この『鼻下長紳士回顧録』は、アシスタントを一切使わずにひとりで描かれたものだというのがまず驚愕!パリの町並み、娼館の家具、娼婦たちの下着、随所に散りばめられたお花による表現など、すべてのページが芸術品だなと思いながら単行本を読んだものですが、その芸術を原画で拝見できるなんて…あまりの美しさに1枚ごとにため息がこぼれます。

5つのコーナーをめぐると、安野モヨコ先生の人生も追える原画展!

このように、5つのコーナーを回っていくと、いつのまにか、安野モヨコ先生の人生を追体験できるかのような展示になっているのも大変おもしろい原画展でした。

同時期に何作も何作も作品を生み出し続け、そして心を壊してしまい、ほぼお休みに入る。一体なぜ、安野先生がこんなにも働き続けなくてはならなかったのか。この原画展では、そんな問いに対する答えを暗示する展示までを見ることができるのです。

原画展のメインビジュアルにも採用されている自伝的作品、『よみよま』。この魂を絞り出したような作品は、展覧会公式図録の『ANNORMAL』に全ページ収録されていたのですが、展覧会を見た後に読むと、各作品への想いが一段と強くなります。

きれいな作品を楽しむだけでなく、先生そのものの存在がむき出しになっているような原画展。全マンガ好きに見て欲しい…!

日時指定チケットを購入して行くため、まったく密にならずに、これらの作品を心ゆくまで堪能&写真撮影できました。

東京・世田谷文学館にて2020年9月22日(祝・火)まで開催中(なので、なんとか時間を、通常の原画展の3倍くらい作り、足を運んでみてください!

また巡回展の予定も決まっています。まずは2020年10月4日(日) ~ 12月13日(日) 、仙台文学館にて!

状況に応じ、臨時休館や会期が変更となる可能性があるとのことなので、詳細は公式HPをご確認ください。

チケットはこちらからご購入いただけます!

あの『ハッピー・マニア』の続編!『後ハッピーマニア』も見逃せない!!

2020年8月6日には、あの『ハッピー・マニア』の20年後を描いた『後ハッピーマニア』の1巻が発売!!

表紙を見ると、後ハピの「後」は、「その後」という意味と「GO」のダブルミーニングだったんですね。1巻を読むと、今回暴走しているのはカヨコというよりむしろタカハシかもしれません…!

『ハッピー・マニア』で「ふるえるほどの しあわせ」を探していたカヨコ。結局、見つけることはできるのでしょうか!?こちらの展開も楽しみです!!

ウエハラ アズサ

『後ハッピーマニア』では、どっちかというと「ふるえながらしあわせを探している」ような展開に!

ハッピー・マニア

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