入社3年目で雑誌創刊をした編集者が語る、マンガ編集の視点

マンガ編集者さんって、本当にいろんなタイプの方がいらっしゃいます。それぞれヒット作を世に送り出すための仕事術に個性があり、お話をお聞きするのが本当に面白いんです。

そんなマンガ編集者さんたちのお話を伺っていく「編集者インタビューリレー」、前回のVol.2では『あさドラ!』『あさひなぐ』など40作近くを担当してこられたスピリッツ編集部のオイカワさんにお話を伺いました。

そしてVol.3では、オイカワさんからのご紹介で、BLマンガ誌「onBLUE(オンブルー)」の編集長を務める梶川恵さんにインタビューします。

女性向けマンガ誌「FEEL YOUNG」で『違国日記』『中学聖日記』『いいね!光源氏くん』など数多の作品を担当する梶川さんは、2010年にonBLUEを創刊し、編集長に。

編集者になってたった3年で未経験のBLマンガ誌を立ち上げ、多数のヒット作を生んだという梶川さんに、どのような視点でマンガを捉えているのかを聞きました。

編集者さんのプロフィール

梶川恵

書店営業を経て、2007年シュークリーム入社。FEEL YOUNG編集部に在籍しながら、2010年にBL誌on BLUEを創刊。2020年創設の電子レーベルfrom RED統括。旅行好き。


現在連載中の担当作は、FEEL YOUNGでは『違国日記』、『中学聖日記』、『いいね!光源氏くん』、『かしましめし』、『アヤメくんののんびり肉食日誌』、『からっぽダンス』、『ムサシノ輪舞曲』、『タンゴール』、『下手山ドレス別室』、『きちじつごよみ』、『こちらから入れましょうか?…アレを』。


on BLUEでは『春風のエトランゼ』、『25時、赤坂で』、『狼への嫁入り〜異種婚姻譚〜』、『スニーキーレッド』、『寄越す犬、めくる夜』、『蟷螂の檻』、『悪人の躾け方』、『イキガミとドナー』、『性悪暴君騎手と流され戦馬』、『純情で何が悪い』。


from REDでは『アバウト ア ラブソング』、『繋がれた魔王』、『演技の裏側、お見せします。~蟷螂の檻の中の人~』。

アルバイトとして入社したはずが、いきなり社員の編集者に

ーー今日はよろしくお願いいたします。まず、シュークリームがどんな会社なのか教えてください。

シュークリームは編集プロダクションでして、一番長く制作しているのは祥伝社が発行している女性マンガ誌・FEEL YOUNGとBLマンガ誌・onBLUEで、編集業務を丸ごと請け負っています。

ーー版元が祥伝社で、編集部がシュークリームということですね。

他には弊社オリジナルの電子BLレーベル「fromRED(フロムレッド)」moment(モーメント)」「アメイロ」、そして女性向け電子レーベル「女の子のヒミツ」の運営もしています。

10年前にon BLUEを作って以降、BLでは4つのレーベルを編集する状態になりました。

ーーおお、梶川さんが立ち上げられたというonBLUEはすでに10周年なんですね。

そうなんですよ。on BLUEをつくるまで、シュークリームでは数本の電子BL作品も制作していたのですが、基本的には女性向け一般ジャンルを得意とする会社でした。


それから10年、BL好きのスタッフもたくさん入社して、シュークリームは「BLも得意」という新しい顔を持てました。

ーーたしかに!

そんな今年、on BLUEを編集しているスタッフを中心につくったのが電子レーベルfrom REDです。2021年には初の単行本が出るので、BLファンの方にはぜひ注目していただきたいです。

ーーおお、そうなんですね!梶川さんはどういった経緯で、シュークリームで編集者の仕事に就かれたのでしょうか?

高3のときに「好きな仕事じゃないと身を粉にして働けない」と思って、マンガ編集者になるために大学にも行って出版社を受けたんです。


けれど全社落ちてしまって、大学卒業後は角川出版販売という書店営業の会社でマンガとラノベの書店営業を3年くらいやりました。

ーー元々は書店営業をされていたんですね。

けれどやっぱりマンガの編集者になりたかったので、幻冬舎コミックスで編集アシスタントを始めたんですが、そこは1年で辞めてしまって。


それから3ヶ月派遣社員をしていたら、シュークリームのアルバイト募集を見つけて、FEEL YOUNGは高校生のときからずっと読んでいた好きな雑誌だったので、すぐ応募したんです。

ーーじゃあ、最初はアルバイトから始められたんですね。

はい。でも、たまたま先輩たちがたくさん辞める年に入社したから、すぐ社員として編集の仕事を任せてもらえることになったんです。


2007年の終わりにアルバイトを始めて、2008年には本格的に社員として働き始めました。

ーーおお、それはすごく幸運でしたね。

担当になったのも元々好きだった作家さんばかりで、新しい執筆依頼も好きな作家さんにしかしていなかったから、私はこれまで好きな作家さんとしかお仕事したことがないんです。本当に幸運だと思います。

ーーすごい!どんな作家さんとお仕事をされてきたんですか?

社員になってかわかみじゅんこさんやデビュー前の町麻衣さんの担当になりました。あとはえすとえむさん、河内遙さん、雁須磨子さん、鳥野しのさん、ヤマシタトモコさんにアタックしました。

ーーいきなり、たくさんの作家さんを担当されたんですね。

書店営業をしていたので同い年の編集者の友達もいて、このままじゃ周りに追いつけないと焦っていたこともあって、めちゃくちゃ働きました。


当時は人が少ない会社だったので、電話で社長が作家さんに言っていることを汲み取ったり、ほんの短い間だけ一緒に仕事できた先輩たちが話していたことを何度も思い出したりして、何とかやっていました。

編集者になって3年でゼロから雑誌を立ち上げ

ーーそこから、どのように今のキャリアを歩んでこられたんでしょうか。onBLUEが2010年に創刊ということは、編集者になって3年ほどでいきなり雑誌を立ち上げられたんですか…?

そうです。元々、電子配信で2本ほどBLの連載を担当していたんですが、祥伝社の人とBLの紙媒体を立ち上げてみたいという話になって、2010年の終わり頃にonBLUEを創刊しました。

ーーすごいですね…!

最初はどれだけ売れるか分からなかったので、まずは年3回の刊行になりました。年3回しか出せないから、自分も作家さんもとにかく楽しめる機会にしようと、作家さんには「面白ければ何をやってもいい」とお伝えして。

ーー面白ければ何をやってもいい、ですか。

当時のシュークリームにはBLの知見がなかったので、とにかく好きな作家さんたちに、読者さんに満足してもらうことを視野に入れつつ、好きに描いてもらうことにしたんです。これは今も大事にしていることです。


当時、SFものやバッドエンドものはBLでは忌避されやすかったんですが、そういったジャンルの作品も面白ければそれでいいと思って載せました。

ーーメジャーではないジャンルにも挑戦したんですね。

当時のFEEL YOUNG編集部は社員が3人しかいなくて、毎月FEEL YOUNGの仕事もめちゃくちゃ楽しかったし、精一杯でした。そんな状況での創刊だったので、onBLUEの準備は一人で夜中にコツコツやっていました。

ーーゼロから雑誌を立ち上げること自体めちゃくちゃ大変なのに、FEEL YOUNGの業務もいつも通りこなしていたんですね、やばい…。

当時、私の中でFEEL YOUNGが自分の家だとしたらonBLUEは新しくつくる別荘で、どうせ大変ならめちゃくちゃ愛せる建物をつくるぞ!!という気持ちでした。


とはいえ、一人でやっていたようで、1本だけ後輩が担当を引き受けてくれてましたし、校正などの業務は他のメンバーも手伝ってくれたので何とかなったんです。


onBLUEは出してみるとなかなか好評で、年3回よりもペースアップしていいことになり、季刊になりました。


それから2012年には連載分が単行本化されていって、これがよく売れたんです。

ーーおお、当時はどんな作品を出したんですか?

雲田はるこさんの『新宿ラッキーホール』や、山中ヒコさんの『500年の営み』、秀良子さんの『宇田川町で待っててよ。』などです。


今もレーベルを代表するような素晴らしい作品をこのとき出すことができました。

onBLUEのコミックスはこちらから。

ーー立ち上げたばかりの雑誌をどうやって軌道に乗せたのでしょうか。

そうですね…onBLUEは作家のインタビューを毎号載せていたんですが、それをBL雑誌でやっていたのが珍しかったのはあるかもしれません。


ヤマシタトモコさんの特集号は重版がかかりました。

ーー雑誌が重版ってすごいですね!

あと、とにかく「この雑誌の作品は面白い」というレーベルの信用をつくることを目指しました。


その信用があれば、新人さんの作品も「とりあえず買う」という選択肢に入りやすいと思うんです。

ーーなるほど。

私は書店営業の仕事をしていたから、雑誌のメインターゲットである女性の財布の紐の固さを肌で感じていて、満足度が相当高い作品でなければ買ってもらえないという懸念がありました。


だから、掲載する作品の8割はすでに根強いファンがいる作家さんにお願いして、残り2割を描いてもらう新人さんにもかなり気を使いました。

ーー作家さんのファンが集まり、雑誌のファンが増えていったのかもしれませんね。新人さんの場合、どんな方にお願いしていたんですか?

基本的に好きな同人作家さんに依頼してたんですが丁寧に原稿を描いてくださいとお願いしてました。

ーーそれってもっと具体的に言うと、どういうことでしょう。

雑誌の中で、並み居る人気作家と並んでめくられていくので、なるべく丁寧に描いて「眺めていて楽しい」画面に仕上げてほしい、ということでした。


まだ画力が不十分でデッサンがずれていたとしても、ここぞというコマが踏ん張って描かれているほうが読者さんにも好かれると考えていますし、構図やページの演出を丁寧にやってくださいとお願いしていました。

ーー難しい構図でも、必要ならちゃんと描き切ろうとする姿勢というか。

そうです。「描きたいラブストーリー」を他人である読者さんに興味を持ってもらうために、「デビュー作は丁寧に」とお願いしています。


自分では絵も描けない身で、作家さんに絵のことを言うのは恐縮なのですが…!

作家の武器を見出し、会話で伝える

ーー梶川さんの考える「丁寧さ」が何なのか、掴めた気がします。

あとはその方の武器を活かすようこころがけています。2016年デビューの夏野寛子さんは、同人誌のときから瞳が魅力的で、これは武器だな〜!と感じました。


デビュー作『冬知らずの恋』は「片想いが隣家のいとこにバレてしまった…!」という青春BLなのですが、実に瞳が感情を語るマンガで、眺めているだけで楽しいし、次々とページをめくらせる力に満ちています。

ーー作家さんの描写力を活かした作品に仕上がっているんですね。作家さんの武器を活かすために、気をつけられていることはありますか?

結構ストレートに言ってる気がします。夏野さんの場合は、ありがたいことに、私が最初に「瞳が良いと思う」と言ったのを覚えていてくれたそうなんですが、他の作家さんにおいても、「良い〜!」をガンガンぶつけるおしゃべりをすることが多いです。


私は「なんでここが好きだと思ったのか」と話すのが好きですし、作家さん側に「どうしてこうしたんですか?」と聞くのも好きです。

ーー作家さんの良いと思ったところを日常的な会話の中で伝えるのがお好きなんですね。

そうです。しかもその場で完全にアンサーが出なくてもいいんです。ほとんどの作家さんは「このようにしてこのシーンはできた」とすんなり答えを持っているわけではありませんし。

ーーそうなんですか。

今夏に映画化された『海辺のエトランゼ』、紀伊カンナさんは続編『春風のエトランゼ』を連載しているのですが、『春風』は冒頭がすばらしいんです。


沖縄の離島から、東京を経由して北海道へ移動していく旅路を描いているんですが、雰囲気たっぷりでめちゃくちゃ叙情的で、心地よさMAXの始まりなんです。


恋人たちの振る舞いも自然で、でも少しヒヤッとする間合いも挟まってて。


原稿をいただいて「今までよりもさらに超良くなってますね!?なんで!?」と電話で叫び散らかしたんですが、紀伊さんは「なんとなくできた…」と言うばかりで。そういうもんなんだなあ、と思うわけです。

ーー他にも、作家さんのここをよく見ているというポイントはありますか?

作家さんが描かれる表情はよく見ていますね。ヤマシタトモコさんはモノローグやストーリーについて称賛されることが多いんですが、キャラクターのふとした表情だけで何かを伝える力もものすごく高いんです。


違国日記』を読んでいると、大人しかできない絶妙な表情がよく描かれていたり。

しかも、マンガに慣れ親しんだ人もそうでない人も同じように読み取れる描き方で、本当にすごいんです。


キャラクターの立ち姿やご飯を食べている様子からでも、細かなキャラ感が伝わるような描かれ方が多く、「この人はこういう人」という情報量が多いんです。

ーー面白い。

そういった表情を演出として自然にストーリーに込められるから、1話でいろいろなことが同時並行的に描写されていていて、気づくと私たちは「行間を読む」ところまで導かれてしまうんですね。

ーー表情をうまく描ければ、一話の中で、ひいては一冊の中でできることの幅が広がっていくんですね。

作家さんとお話しするとき、ここが今回のチャームポイントだと思う、と話すのが好きなんですが、作画が良かったところを話すのも好きです。


特に眉毛と目の間の描写が美しいと、すぐに言いたくなってしまうんですよね。

ーー眉毛と目の間ですか。

アイラインと二重線って、作家さんごとに違うふうに描いてるのに、眺めているだけでうっとりしてしまう色っぽさや、りりしさをまとわせた目元ってありますよね。


学生時代からファンだった、かわかみじゅんこさんが描く目元に私はずっとうっとりし続けてきたんですが、眉毛からアイライン、二重線の角度や幅が本当に美しい…。

あと河内遙さんのまぶた線もすごい。じっとりと色気を醸し出すときと、ちょっとトボけたチャームをチラつかせるときがあるんですけど、アップのときも引きのときもバランスがきれいで、どのコマも佇まいが良いんですよね。

ーー本当に細かいところまで見ていらっしゃるんですね。

目元を見てしまうのは、20年くらい化粧してるせいなのかもしれません。いい感じに目元を作りたいんですが、私の描画力はそんなにうまくなっていかず、で…。


だからこそ、マンガの美しいバランスに感動してしまうのかもしれませんね(笑)。

ーーまさかのメイク由来(笑)。

あとは、いいなと思う絵や読み味を感じたときに、なぜそう思ったのか考える癖がついているからでしょうね(笑)。


onBLUEで毎号インタビューや対談を載せてきたから、作家さんがマンガをどういう考え方でつくっているのかを10年聞き続けたこともあると思います。

5時間の共同作業で固めるプロット

ーーここまでコマ割りや絵柄といった演出のお話をたくさんお聞きしましたが、ストーリー作りについては大切にされていることはありますか?

ストーリーやシナリオに関しては、作家さんがやりたいことを実現してもらうのが何より大切です。


作家さんが頭の中で具体的にイメージを固められていればそれでいいんです。だから、いつも「今回、見えていますか?」と聞きます。

ーー見えている、というのは?

イメージが見えていますか?って意味です。見えている方は、どこで何をどう描くのか質問すると、わりと具体的に答えてくださるんです。


作家さんにストーリーをご共有いただくと、私は脳内映画館で自動上映がはじまっちゃうタイプなんですが、「こういう話という認識で合っていますか?」と聞きながらすり合わせていきます。

ーーみなさん、そんなにイメージを言葉にできるものでしょうか?

いや、そんなにバリバリ言語化できるわけじゃないです。マンガに描くための相談なので、別に言葉になってなくても良いと思いますし。


話しているうちに「なんとなく掴ませてもらう」感じですよ。でもその一方で、文字化しておいたほうが良さそうなときはプロットを一緒につくることもあります。

ーーおお、プロットを作家さんと一緒につくられるんですね。

はい。Googleドキュメントを使って、作家さんと一緒にプロットを共同編集していきます。オンラインでやると、テキストを同時進行できるんですね。


話している内容を共有画面でメモ取りしていって、「こういう認識で合っていますか?」「4行目のニュアンスは違います」とか話しながら、口頭と文字の両方でイメージを共有しながらつくっていくんです。

ーー「見える」状態で話せるのは良さそうですね。このやり方って、どんな作品に向いていますか?

おもにBLです。フィーヤンの連載でこの形式でやっている方もいますが。BLに関しては、今のところ1冊単位で読み切れる方が手にとってもらいやすい市場なので、単巻にまとめることを目指します。

ーーBLだと、1冊で読み切れるほうが好まれるんですか?

昔からそうなので、もはやそういう文化という感じではあります。on BLUEでは長期連載作もありますが、新人作家さんは単巻で出すことがほとんどです。


まず、なるべく多くの読者さんに「簡単に手にとってもらう」ようにしたいので。新人作家さんも1冊目が売れたほうがアシスタント雇用など、余裕が出ると思います。

ーーじゃあ、新人作家さんとはまず単巻でヒットを目指す感じなのでしょうか。

そうですね。犬居葉菜さんの『狼への嫁入り〜異種婚姻譚〜』はデビュー作で10万部を超えたヒット作なんですが、描いていただくときは尺におさまるようにエピソードはかなり工夫していただきました。


マンガ家さんには単巻のつもりでプロットを切っていただきますし、それでも内容が満載すぎれば一緒に整理します。

ーー必要に応じて作家さんとご相談の上で、調整をされると。

犬居さんは同人誌時代から、シナリオをきっちり起こしてからネームに入る文字打ちタイプで、『狼への嫁入り』もGoogleドキュメントでしっかり打ち合わせしました。


はじめに、少し電話で「こういうネタはどうか」と話したら、後日かなり細かなプロットをいただいて、それをあれこれ打ち合わせしました。

ーープロットを一緒に編集していくとすれ違いは減るのでしょうが、とても大変そうですね。

口頭のみの相談って、もし双方で違うニュアンスのメモをとっていたら、次の打ち合わせのときにズレが出て「あれっ?」ってなることもあると思うんです。


とくに連載未経験の新人作家さんは、それを繰り返して消耗してしまい、執筆意欲を失ってしまうこともあると思いますし。


そうなるよりも、1回に5時間くらいかかったとしても、共通認識のもと大枠をつくってかつ、それを記録に残していつでも見返せるようにしています。

ーー作家さんの心情のケアにもなるんですね。

「一緒にやったプロットを守らなくてはいけない」という強制力を持たせないことも大切にしています。あくまで打ち合わせは相談です。


作家さんが「さらにプロットを詰めてみたら別方向に向かった」「ネームをやってみたら違うアイディアが出てきた」とおっしゃることは全然あるし、つどつど楽しく拝見しています。

ーーたしかに「描いているうちにキャラがぜんぜん違うことをやりだした」と作家さんがお話しされることって、ありますよね。

そうなんです。だから「この方法がまったく合わない人もたくさんいる」とも思っていて。


ひたすらおしゃべりして、私が自分用にメモってるだけの打ち合わせもけっこうあります。

ーーそうなんですね。

編集部で「このやり方いいよ〜」と共有したら、同じやり方で打ち合わせをするようになった人もいます。


これの他に「ねむようこ式絵コンテプロット」もあります。これは連載開始後、1話ごとにプロットを4コマの連続のように絵コンテを切る方法です。


ねむようこさんが考案した方式で、担当が同じであるためこうさんもこの方式を採用しているそうです。

ーーすごい、色んなやり方が開発されている…!編集部の中で知見が溜まっていっているんですね。

うちは知見の共有が好きなんです。編集方法のほかに、「萌え」とか「ハマりもの」についても作品に落とし込むためのおしゃべりを大事にしています。


好きなものを語りまくると、自分の持ってる武器にもバイアスにも自覚が持てるようになりますし。


あと社会のできごとも、アンテナはたくさんあったほうがいいので共有するようにしています。

ーーシュークリームでは編集者同士での会話を通じて、マンガ編集の技術を積み上げていく文化があるんですね。たくさんお話ししていただきましたが、最後に梶川さんが編集者として大切にされていることを教えてください。

「ときめき」です。10年くらい前に『夏雪ランデブー』を描いてるときの河内遙さんが「自分はたくさんの少女漫画から“めくるめくときめき”を受け取ってきた。自分もそんなふうに届けられたら」とおっしゃったんですよ。


その言葉にあふれるほどに共感して、それからずっとときめきを大事にしています。恋でも人間ドラマでも、事件でも、「ページをめくったら感じたことがない情動」を起こす作品を担当したいです。

次回、インタビューする編集者さんは?

ーー本日はありがとうございました!「編集者インタビューリレー」は、「この編集者がすごい!」という方を1名ご紹介いただいて続きます。梶川さんがすごいと思う編集者さんを紹介していただけますか?

私は「ハルタ」の創刊編集長でこのたび「青騎士」を立ち上げられるKADOKAWAの大場渉さんをご紹介します。「コミックビーム」時代に森薫さんと、入江亜季さんを見出された方です。


他社の編集者からもすごく尊敬されていて、編集者が集まる飲み会に行くと、大場さんの編集理論に聞き入ってしまうんです。どんなお話をされるのか楽しみです。

ーーというわけで、次回はハルタ(旧Fellows!)を立ち上げた、『乙嫁語り』や『乱と灰色の世界』などの担当をしてこられた大場さんにお話を伺います。お楽しみに!