タッチ

あだち充著

タッチの好きなところ

『タッチ』といえば、なんといっても「死んでるんだぜ それで…」のシーンだ。 えっ!?えっ!?えっ!? 和也とこれから競い合うんじゃないの? 子どもながらに衝撃的だった。 向かうべき方向がやっと見えてきたタッちゃんのこの気持ち。どうすれば処理すればいいのよ。何、この感じ。っぬああああって、この感じ。 のちに、それが「切なさ」であるということを知った。 文庫版では4巻にそのシーンは登場する。 再読。 僕にも子どもが生まれ、小学生だった頃に見えなかった和也の父・”上杉 信悟”、母・”晴子”にも目が行くようになっていた。 あの一連のシーンを追う。 きっとあの場面、マウンドに和也が上がらなかった時点で応援に来ていた信悟も、晴子も、只事ではない何かが起こっているのに気づいていたはずなんだ。それでも、慌てることなく、理由をつきとめることなく、観客席で応援を続けていた。 そこに病院から両親を呼びにきた達也が静かに登場する。何も言わずに父の袖をひっぱった。達也の顔を見て、信悟は確信したんだと思う。半ば無理やり慎吾の腕を引きながら2人を球場の外へ連れ出そうとしようとする達也に、晴子も「どこいくの? 和也もいっしょなのかい?」と核心を避けながらも事の大きさを測るような聞き方をしているように僕には見えた。 その後、想像以上の現実を目の当たりにした慎吾と晴子が、まさに廃人となって映るコマは見ていられなかった。そして、霊安室に現れた南ちゃん。達也がボソッと「死んでるんだぜ? それで」と言った辺りから僕は毎回涙を流すまいと、目を外へ背けては読み進め、また背けてを繰り返す。 年を重ねる毎にその涙の量は10㏄ずつ増え、もう瞼で涙をせき止められていない。

2020年 08月 13日

人気のニュース

タグからマンガを探す