いつだって、私達はマンガに救われてきました。主人公が努力の末に強者を倒す姿、圧倒的な才能を持つ人間達に揉まれながらも勝ち上がっていく姿、数奇な運命に巻き込まれながらも自分の力で運命を切り開いていく姿に。その一方で、こんな主人公達のように自分は強くはなれないだろうな、、と考えてしまう自分が心のどこかに居ることも否定は出来ない、という人も割合いらっしゃるのではないでしょうか。
諦めちゃいけないのは頭では分かっているけど、気持ちがついていかない時も正直ありますよね?そんな最中、初めは何の才能もない、さして存在感のなかったあのキャラクターがいつの間にか主人公を凌ぐほどに眩しく輝いている。そんな姿を目にしたことは無いでしょうか?
今回は現状に立ち向かい、自分の足で立ち上がった凡人達をコマ投稿を活用しながらご紹介させて頂きます。
1.朝倉光一『ひだりききのエレン』
立ち上がった凡人、とは朝倉光一を指して作中で発せられたセリフです。本記事のタイトルにもこちらを引用させて頂きました。
何かにならなきゃ、退屈で生きていけない。若かりし光一はそう泣き叫びます。彼ほど主人公に憧れた人間もいないのではないでしょうか。
痛いほどに光一の気持ちが分かる、読んでいて自分に光一が乗り移ったように胸が痛くなるシーンです。
それでも、光一は自分の足で一歩一歩クリエイティブへの階段を登っていきます。人生の大部分を仕事に捧げて成長していく姿に、自分の腕を掴まれて強引に引っ張っていかれるような、どうにも形容し難い感情に苛まれます。それは、背中を押してくれるなどという生優しい感覚ではないことだけは確かです。
それでも、光一の姿を見て、心を動かされずにはいられません。天才達に揉まれながら必死で生き抜こうとする光一の生き様を追いかけたくなる、そんな愛すべき凡人です。
2.木村達也『はじめの一歩』
大ヒットボクシングマンガ『はじめの一歩』に登場する、一歩の所属するジムの先輩、Jr.ライト級ボクサーの木村達也。実家は花屋を営む、本作に登場する化け物のような数多のボクサーと比較すると、至って普通の人です。戦績も勝ったり負けたりを繰り返す、テクニックは定評があるのですが、どうもあと一歩届かない印象のボクサーでした。
そんな木村が立ち上がった一戦が、当時同階級で無類の強さを発揮していたJr.ライト級日本チャンピオン間柴とのタイトルマッチです。
1位と2位の選手が逃げ出し3位にランキングされていた木村にお鉢が回ってくるほどに強い王者。誰もが試合では間柴圧勝するものと思われていました。
案の定、試合では木村は防戦一方、こつこつとボディを撃ち続けるものの間柴の長いリーチから繰り出すフリッカージャブをことごとく被弾し、迎えた9ラウンド。
そこまで耐えに耐えた木村がこの試合のために編み出した必殺技、ドラゴンフィッシュブローを敢行。間柴の顔面に炸裂します。
『はじめの一歩史上最高の試合』と押す読者も多いこの試合。凡人が最強王者に挑む姿に、筆者は涙混じりでページをめくっていました。忘れもしない単行本32巻、気になる方は是非ご一読頂きたい世紀の一戦です。
3.小田切学『少女ファイト』
スポーツ推薦選手ばかりが集う私立黒曜谷高校バレー部に、最初はマネージャーとして入部を希望する小田切学ですが、180cmの長身と、監督や同僚達からの推薦もあって選手として入部を決意する小田切。当然ながら最初は全く練習についていけません。
そんな中、監督に突然セッターとして今後プレーすることを告げられる小田切。中学時代セッターとして活躍し、黒曜谷でもセッターとしてプレーすることを信じて疑っていなかったチームメイトの伊丹がリベロでプレーすることを告げられ、自分の実力のなさと伊丹との関係にも悩む小田切。
誰よりも自分の能力が足りていないことを理解し、必死で練習に取り組む小田切。小田切の放つ言葉は強い力を持ち、チームメイトを救い、時に気づきを与えます。チームメイトトは次第に小田切を精神的に頼りにし、いつしか小田切はチームに欠かせない存在となります。
黒曜谷の選手は、それぞれ中学時代からそれなりに成績を残した人ばかりなので、実力だけで言えば小田切がいなくてもそれなりに強いはずです。でも、小田切がいないと黒曜谷というチームは潤滑に回らないとこれだけは自信を持って言えます。黒曜谷に絶対に欠かせない選手を一人挙げろ、と問われれば筆者は小田切学の名前を挙げます。
彼女には能力を超えた意志の強さがあります。その理由は、是非作品を読んで体感していただきたいです。
4.牧野君『あひるの空』
ラストは『あひるの空』の牧野君です。彼の存在は、『あひるの空』の読者なら印象に残っている人も多いのではないでしょうか?いわゆるスポット出演のキャラクターでクズ高と1度だけ公式戦で戦っただけなので、本編に登場している期間は非常に短いのですが、筆者の脳裏には強く焼き付いていました。
高校からバスケを始めた牧野君、バスケには不向きな小さな身体と、大人しい性格からなのか、チームからは雑用扱いされ、まともにバスケをさせてもらえない日々が続きます。それどころか、牧野君はバスケ部内で孤立し、顧問の先生からも邪険にされ、部内でイジメの標的となります。
そんな折、転機になったのが監督の交代。牧野君の隠れた努力を見出し、彼がチームメイトからイジメにあっていることを敏感に嗅ぎ取り、とうとうイジメの現場を抑えます。
先生はイジメなんてしていないとトボケるチームメイトに対して、では牧野君からレギュラー5人全員が1対1をしてゴールを決めることが出来なければ雑用係として部に残るか自主退部するように要求します。
当然、牧野君のことを舐めて要求を受けるレギュラー陣。しかし、いざ1ON1が始まると誰一人牧野君のDFを抜けません。彼はチームメイトに隠れて相当の練習を積んでいたのです。地味なフットワークを毎日、毎日。
生まれ変わったチームの主将になった牧野君。彼は以前、自分とさほど変わらない身長で活躍するクズ高バスケ部の空の試合を観て衝撃を受けていました。それからずっと、彼の目標は空になっていました。そんなある種憧れの存在ともいえる空のいるチーム九頭龍高校と遂に公式戦で戦うことになります。ここまで来れたのは、臆病者だった牧野君が意志表明し、自分の力で扉を開けることを決意したからに他なりません。
試合後、空から最高の言葉をかけられ応える牧野君。凡人が立ち上がり、遂には主人公に認められた瞬間です。
努力する天才
主人公格のキャラクターに憧れ、自分もそんな何かにならなければいけない気持ちに苛まれることもあるでしょう。ただ、これまでご紹介した4人は決して主人公格のキャラクターではありませんし、突出した才能がある訳でもありません。
それでも、これだけ人の心を動かすことが出来るのは、彼らが『努力の天才』だからです。読んでいて心震える瞬間に立ち会える。そんな最高の時間をマンガを読んで過ごしてみませんか?気になった作品があれば是非チェックしてみてくださいね!